武士の誇りを賭けた「仇討ち」を描く、感動のリベンジ・エンタテイメント
映画『碁盤斬り』が5月17日(金)全国ロードショー。『孤狼の血』『彼女がその名を知らない鳥たち』などで高い評価を受ける白石和彌監督の初時代劇となり、主演・草彅剛さんをはじめ豪華キャストが出演。武士の誇りを賭けた復讐劇を、緊張感たっぷりに描きます。
骨太なストーリーのなかにも、随所にみずみずしさを感じるシーンが。その中心にいるのが、中川大志さん演じる萬屋の手代・弥吉です。現代に生きる私たちにとっても「あるある!と共感できる作品」と語る中川さん。映画の見どころや撮影裏話、中川さんご自身の仕事観まで、たっぷりとお話をうかがいました。
憧れの先輩方との共演に、思わず声をあげるくらい感激しました
─今作のオファーがあったときの気持ちはいかがでしたか。
うれしかったです。“白石組”の作品にはいつか出演してみたいと思っていたので。しかも、白石監督が初めて撮る時代劇! さらに主演が草彅剛さんで、いつかご一緒させていただきたいと思っていた憧れの先輩。もう「出たい!」しかありませんでした。
─主人公・柳田格之進役の草彅剛さんをはじめ、共演者のみなさんは錚々たる顔ぶれですよね。
そうなんです。僕も思わず「おおっ」と声をあげたくらい、憧れの先輩方がたくさんいる現場。(作品に)声をかけていただけて、本当に感激しました。
─白石監督の作品はどういったところがお好きですか?
やっぱり、作品に登場する男たちがかっこいいんですよ。男臭さというか、人間の生々しさというか…同性から見てもくすぐられるものがある。僕も年齢を重ねて、白石監督が撮るような骨太の「大人の男」の世界で役を演じたい、と思うようになってきました。
─今作で演じるのは、萬屋の手代・弥吉。中川さんから見て、弥吉はどんな人でしょうか。
すごくピュアでまっすぐな青年です。素直だからこそ、とあるきっかけで板挟みとなり、大変なことに巻き込まれてしまいます。本人に悪気はないだけに、見ていてかわいそうになってきます…。物語が動くきっかけを作るキャラクターでもあるので、演じていてすごく楽しかったですね。
─弥吉がちょっとしたことを言い出せなかった結果、気づけば深刻な事態に。職場での些細なミスがあとから大ごとになってヒヤヒヤ…という流れは、Oggi読者も身に覚えがあるかもしれません…。
本当は些細なことのはずだったのに、気づいたら大ごとになってしまって、やばい!ということ、ありますよね。「なんであのとき勇気を出して言えなかったんだろう…」と。弥吉の苦しいポジションは、みなさんにも共感していただけるんじゃないかなと思います。
物語のベースは落語からきています。落語って、きっと庶民にとってすごく身近な場面が描かれているんですよね。それゆえに時代が変わって現代の僕たちが触れても、「わかる、あるある!」という共感が詰め込まれている。
映画ではさらに肉付けされて壮大なスケールになっていますが、本筋としてはすごくシンプル。それが今作のわかりやすさでもあり、観る人に共感してもらえる部分ではないでしょうか。現代社会の日常生活でも起こりえるし、それこそみなさんが働く会社でも起きるお話かもしれません!
古き良きものを踏襲しつつ、現代の価値観にも刺さる作品
─弥吉は、骨太な作品にみずみずしさを加える役どころでしたが、演じるにあたって気をつけたポイントはありますか?
おっしゃる通り、登場人物のなかで唯一の若い男性なので、フレッシュさ、ピュアさを出せたらいいなと思っていたんです。ヒロインのお絹ちゃん(清原果耶さん)との関係性も、映画に爽やかなエッセンスをプラスできるように、考えながら演じました。
─中川さんは大河ドラマなどにも出演されていますが、「時代劇ならでは」の役作りのポイントは、何かあるのでしょうか。
キャラクターを作っていく過程は、現代劇と変わりません。気をつけることといえば、所作だと思います。物の扱い方だったり、着物を着たときの動作だったりは、日常で馴染みのないことも多いので、それらをひとつひとつ体に染みこませるように意識しています。
─演技について、白石監督からはどういった指示がありましたか。
それが、とても自由にやらせてくださいました。僕たちが思うように演じるなかから、監督が映像を切り取ってくださる感じでした。ただ細かい指示がない分、「試されている感」もひしひし感じて…。監督が俳優の芝居を尊重して委ねてくださるからこそ、僕たちは責任を全うしなければいけない。それぞれが準備してきたものを、どう現場で発揮するのか…そんな緊張感がありました。
─手応えはいかがでしょう?
ばっちりじゃないでしょうか! 最高の映画になりました。演じる方々が素晴らしい方ばかりですし、時代劇としてのクオリティはもちろん、一本の映画としても上質な作品です。繊細で美しくて、でもかっこよくて。
白石監督にとって初めての時代劇ですが、監督ご自身の時代劇愛、リスペクトがすごくこもっているのも感じます。古き良きものをきちんと踏襲しつつ、現代の価値観にも刺さるものがあると、完成した作品を観て思いました。世界にも胸を張って、送り出せる作品になっているのではないでしょうか。
草彅さんの頭の中を覗いてみたいです
─主演の草彅剛さんのご印象はいかがでしたか。
役を通して見る草彅さんと、バラエティーなどで見る草彅さんって、また全然印象が違うなと思っていて。普段の草彅さんや、現場でお芝居に向かっていく草彅さんはどんな感じなんだろう?と想像がつきませんでした。
今回演じられている柳田格之進は本当に硬派で、誇り高き武士の男。あの日本男児ぶりを表現するために、演じていないときも役に入り込んでいるのかな…と思いきや、現場ではすごくナチュラルでした。僕も初めてご一緒するのでとても緊張していたのですが、ちょっと拍子抜けするくらい、草彅さんは本当に自然体で、柔らかくて。でも、本番になった瞬間にスッと役に入り込む。しびれましたね。
─中川さんにとっても、学びの多い現場になりましたか。
はい。でも僕にはまだ真似できないです(笑)。僕は現場に入ったときから本番に向けて少しずつエンジンを暖めて、ギアをあげて、本番で一気に集中力をぶつけるタイプ。途中で集中を抜いてしまうのが怖いんです。
そういえば、草彅さんは現場で絶対に座らないんですよね。ずっと立っていらっしゃったのを覚えています。
─ずっとですか!
どんなときもです。ほぼ座らないですね。そうやって撮影に向けて気持ちを高めていらっしゃるのか…どうなんでしょうね。草彅さんの頭の中を覗いてみたいです(笑)。
─共演者の皆さんと印象に残っているやり取りはありますか?
僕と草彅さんはフレンチブルドッグを飼っているという共通点があって、フレブルトークで盛り上がりました。草彅さんにお会いする前から愛犬のクルミちゃんをYouTubeやSNSで見ていて、本当にかわいくて…。お会いしたら絶対にお話ししようと思っていたました!
音尾琢真さん(萬屋の番頭・徳次郎役)はカメラが好きで…(突然手元にあった作品資料を読み上げる)「初めて現場を共にする共演者の方がどのように演技を仕上げていくのかを見ているのが趣味と言える私なのですが、草彅さんは瞬発力が凄まじく、用意したものに拘らずに撮影現場であらゆる物事を感じ取って空間に溶け込んでいくというスタイルと見受けられました。研ぎ澄まされた感性と経験のなせる技であると感服した次第」。音尾さんのコメントです。なるほど確かに…やはり「俳優・草彅剛 」という方はすごい…と改めて感じました(しみじみする中川さん)。ごめんなさい、何の話でしたっけ(笑)。
─音尾さんがカメラをお好きで…という話でした(笑)。
そうでした(笑)。音尾さんはいつもカメラを持ち歩いていらっしゃって、白石監督も草彅さんもカメラ好きですから、みなさん機材の話で盛り上がっていました。「このレンズが最高で」とか、「このカメラでこういう写真が撮れるんだよ」とか…。それを観ていたら僕もカメラが欲しくなって、まんまと買ってしまいました! 東京に帰るまで待てなくて、(撮影場所だった)京都にカメラを届けてもらうという。
─京都でもたくさん写真を撮りましたか。
撮りました! 休みの日は写真を撮って歩いていました。実は音尾さんは釣り仲間でもあって、プライベートでも一緒に釣りに行きます。國村隼さん(萬屋の亭主・萬屋源兵衛役)とも釣りの話をしたり、バイクの話をしたり…だいたいギアの話ですよね。かっこいいギアが大好きなんです。
「積み重ねたものが自信になる」中川大志の仕事観
─中川さんは2009年に子役としてデビュー。すでに15年のキャリアをお持ちですが、振り返ってみていかがですか。
小学生のときから当たり前のように、ずっとこの仕事と隣り合わせで歩んできました。なので、もはや日常の一部というか、自分の人生の一部、ですかね。お仕事を始めた当初はきっと、こんなに長続きするとは思ってもいなかったでしょう。でもこの先も、自分にやれる限り、続けていきたいです。
─お仕事で悩んだり、壁にぶつかったりしたときはどうしますか。
僕も悩んでばかりです。でもひとりで悶々と悩むよりも、友達や家族にどんどん話すようにしています。そうしないと、考えすぎて溜め込んでしまうので。
─溜め込みやすいからこそ、積極的に吐き出していくのですね。
もともとは溜め込むタイプなので、それを直したいです。人に悩みを話すのってエネルギーが要りますよね。ネガティブな話だと、「どうやって伝えたらいいんだろう」となおさら気を遣います。でも、悩みごとをなかったことにはできないし、それを解消するには逃げたらいけないと思っています。
そんな気持ちもひっくるめて、なるべく人に話すようにしています。「今こういうことで悩んでいて」とか、「こんなことがあったんだけど」…と。
─これから30代に向けて、どんな俳優になりたいですか?
年齢を重ねて、周囲の状況も僕自身の考え方もだんだん変わってきています。10代のころはどうしても、常に人と自分を比べてしまっていましたが…20代半ばになって少しずつ、積み上げてきたものに自信が持てるようになってきているかな。これからも、ひとつひとつ経験を積み重ねていくしかないと思っています。
─日々忙しい中川さんですが、忙しい毎日を快適に過ごすために、これは欠かせない!というマストアイテムはありますか?
ビールですね!(即答&にっこり顔の中川さん)家でも外でも飲みますが、その日のビールの味が1日の仕事を表すと思っています。ビールがおいしければおいしいほどがんばったんだな、という。僕はどんなに仕事が忙しくても、帰りが遅くても、ビールを一杯は飲まなければ1日を終えられない体になってしまいました(笑)。ちょうど今(取材当時)はドラマ『Eye Love You』の撮影もあって、「今日もおいしいビールを飲むために、がんばるぞ」という気持ちで日々仕事に向き合っています!
ジャケット¥52,800、トップス¥30,800、パンツ¥33,000、シューズ¥55,000(LAD MUSICIAN HARAJUKU〈LAD MUSICIAN〉)
【問い合わせ先】
LAD MUSICIAN HARAJUKU
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前4-26-35
06-3770-6760
撮影/田中麻以 スタイリスト/徳永貴士 ヘア&メイク/佐鳥麻子 取材・文/徳永留依子
映画『碁盤斬り』5月17日(金)全国ロードショー
浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。
ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意する。お絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選び……。父と娘の、誇りをかけた闘いが始まる!
出演:草彅剛/清原果耶 中川大志 奥野瑛太 音尾琢真/市村正親
斎藤工 小泉今日子/國村隼
監督:白石和彌 脚本:加藤正人 音楽:阿部海太郎
配給:キノフィルムズ ©2024「碁盤斬り」製作委員会
俳優 中川大志
なかがわ・たいし/1998年生まれ、東京都出身。2009年俳優デビュー。2011年日本テレビ『家政婦のミタ』で一家の長男役を演じ、注目を集める。以後、NHK連続テレビ小説『なつぞら』、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、TBS『花のち晴れ〜花男Next Season〜』『Eye Love You』などに出演。現在、テレビ東京『95』、MBS『滅相も無い』が放送中。
Instagram:@taishi_nakagawa_official