俳優・前田敦子さんインタビュー
自分で選び、決断し、責任を負う
「映画が好き、映画の現場が大好き。映画への愛にあふれる人たちが、監督が掲げる旗の下に集まって、じっくりつくっていく時間が好き。そこに加われるなら、映画のジャンルも規模も、主役かそうでないかも、こだわりません。
ただ子育て中の今は、仕事を始める前に、子供との時間が守れるかどうか考え、周囲と話し合い、準備を整えます。それでも、期待どおりにやり遂げられるか、不安になることはよくあります。
そんなときは、何度も何度も台本を読み返して。感情がどう動くか、何を思うか。自分を客観的に見つめながら、やるべきことを考えるのです」(前田さん)
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独立してからすべてが“自分の責任”に
2021年、所属していた事務所から独立し、公私のバランスを取るのも、出演作を選ぶのも、すべて自分の責任になった。そして独立4年目、前田さんが最新主演映画として選んだのは、〝自主制作〟として始まった一作だった。
その映画『一月の声に歓びを刻め』は、舞台も登場人物も異なる3つの章からなる。そのすべてに三島有紀子監督自身の幼少期の性暴力事件がベースにありつつも、説明しすぎることなく、セリフもそう多くない。そして、前田さんが演じる章は全編モノクロ。
こんな難題を前に、「私でいいのだろうか」と悩んだものの、いざ現場に飛び込めば、映画に携わる幸せを痛感する日々だった。それは、周囲にはものすごい「集中力」として映り、スクリーンからも伝わるほどだった。
映画『一月の声に歓びを刻め』/三島有紀子監督自身が47年間向き合い続けた「ある事件」をモチーフに、北海道洞爺湖、八丈島、大阪を舞台に物語が展開。島・れいこ・船など、各所でリンクする3つのストーリーをとおして、罪と赦しを描いていく。
出演:前田敦子、カルーセル麻紀、哀川 翔ほか/テアトル新宿ほか全国公開中
アイドル時代、なんて生き急いでいたんだろう
「映画『一月の声に歓びを刻め』では、撮影期間中家族と離れて大阪に滞在し、さらにじっくり向き合う監督のやり方によって、時間を忘れて集中することができました。
そしてこの作品の持つメッセージ──だれもが傷や痛みを内側に抱えているということ。そして、それを手放せる瞬間はいつかきっとくるということ──それを私なりにじっくり考えることもできました」(前田さん)
ひとつの作品が終われば、また息子との時間を慈しむ、少しゆったりした日常に戻っていく。仕事の充実感とは異なる、もうひとつの幸せだ。
がむしゃらに駆け抜けたあの頃と今
「今になってアイドル時代の自分を思い返すと、なんてがむしゃらで、生き急いでいたんだろう、と思います。わずか21歳で、すべて出し尽くしたと思えて、先のことは考えられなくて。実際はそんなこと、ないのにね。
目標が大きすぎたために、ひとりになったとき、次の目標を見つけにくかったのも事実です。それでも、事務所独立後の2〜3年はがむしゃらにやろうと決めて、突っ走って。
さて、その次は…。今、それを探しているところです。仕事は楽しいし、子供との時間も尊い。けれど、どこか自分に飽きてきて、漠然と不安が押し寄せてくる。そんな経験、みなさんもありませんか?」(前田さん)
落ち込むことなく、淡々と、そして愛情深く
楽しいことと同じように、孤独感からも目を逸らさないのが、前田さんの生き方。それも、ひとりでいるという孤独ではなくて、自分の内側にある孤独。それは10代のころから変わっていない。
「地方滞在時にひとりカラオケで熱唱したり、息子のお迎えまでのひとり時間を満喫したり。それはそれで幸せな時間です。
一方で、友達と集まっても、自分だけ何も変わっていないような気がして、これでいいのかと考えることもあります。友人は〝新しい恋愛・結婚〟をすすめるけれど、その気配もないし…。
結婚という制度にしばられず、息子とその母親・父親という形でつながっている今の家族の形は、とても私に合っているし、心地いいんです。落ち込んだときには、私より何倍も明るい性格の息子が励ましてくれる」(前田さん)
強く芯のある母の背中が“道標”
「自分がブレそうになったら、強く芯のある母の背中が、道を示してくれる。こんな家族がいるんだから、この不安もきっとなんとかなるだろうと、思えます。それに、いざとなれば私には、ひとりで突破してきた行動力がある。
モヤモヤしているということは、何か変えたいということ。そんなとき、あえて人とは違う道を選び、突き進んできました。ひと足早く独立という道を選んだように。
まずは、小さなことから行動していきましょうか。思いつくままに息子とふたりで旅行に行くのも、いいな。それには、ごぶさたしている車の運転を練習することから始めなくちゃ。
新しいことを繰り返していけば、きっと前に進むはず。目指すは、母のように強くかっこいい人。落ち込むことなく、淡々と、そして愛情深く。そうやって歳を重ねていけたら、素敵なことだと思いませんか」(前田さん)
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2023年Oggi3月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/YUJI TAKEUCHI(BALLPARK) スタイリスト/有本祐輔(7回の裏) ヘア&メイク/高橋里帆(HappyStar) 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
前田敦子(まえだ・あつこ)
1991年生まれ、千葉県出身。アイドルグループ「AKB48」1期生として2005年から2012年まで活躍。AKB48卒業以降は、俳優としてドラマ・映画・舞台などに出演。主な作品に、映画『旅のおわり世界のはじまり』『町田くんの世界』『そして僕は途方に暮れる』『あつい胸さわぎ』、ドラマ『ウツボラ』『育休刑事』『かしましめし』など。現在、日曜ドラマ『厨房のありす』(日本テレビ系)に出演中。