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ロンドンに来たら、ぜんぶ上手くいく?
数年振りのwalk-in(※書類審査を経ず、直接モデル事務所(エージェンシー)に面接してもらうこと)。面接を待つ間、呼吸が震えるほど緊張していたけど、1社目にあっさり断られて気が楽になった。
そういえばこんな感じだった。
モデルという仕事をもう1度やってみたいという動機でこんな遠いところまで来たけど、かつて東京でうまくいかなかったことがロンドンですぐにうまくいくわけではない。そんな当たり前の現実が目前に転がっていた。
かつての私はこれを17回繰り返したのかと思うと、やっぱりどこか感覚が麻痺していたのだと思う。
モデルに必要な条件とは
Googleマップを開きながら辿り着いた次のエージェンシーで、重たいドアを開けようとしたら、華奢な女の子が靴紐を結び直していて、目が合った。
「キャスティングにきたの?」と尋ねられて、walk-inだと答えると「私もなの」と立ち上がった彼女の背の高さに驚く。180cmはありそうだ。
互いの幸運を祈りながらエージェンシーに吸い込まれて、また1枚の「他の良いエージェンシー」の一覧を握らされてあっという間に外に出た。そうだよね、そんな簡単にはいかないよ、と自分を納得させるけど、やっぱりちょっとがっかりしたのは事実だ。
顔を上げると、ドアの前で一緒になった彼女も一枚の紙を持って佇んでいた。美しい顔と高い腰。それでも私と同じ結果だったらしい。ヨーロッパにはこんな柳のような細くて長い手足を持った女の子がたくさんいる。
どうだった? と聞かれて、あなたと同じと答える。少し話したら、私たちは今日同じルートでエージェンシーを回っていたことが判明した。すると彼女は興奮気味に「じゃあ一緒に今からwalk-inを受け入れてくれるエージェンシーに行こう!」と、すぐにいくつかのエージェンシーに電話してくれて、次の目的地が見つかった。
次に受け入れてくれるエージェンシーは受付が14時以降だったので、2人ですこしお茶をした。彼女の名前はヴィクトリア。ロンドンでアート系の大学で学生をしている。彼女はポーランド出身で、ユーロ圏では別の事務所に所属しているそう。
誰が見てもモデル然とした彼女が事務所探しに苦戦しているという話を聞くのはショックだった。だけど、170cmぽっちしかない、英語を上手に話せていない私を瞬時に“同じモデル”として扱ってくれた彼女に、この表現が最適なのかわからないけどとても感謝している。
次のエージェンシーにも、すでにwalk-inにきたモデル達がたくさんいて、私も彼女も奥で行われているらしいテスト撮影にも進めないままエージェンシー一覧を渡されてしまった。いいモデルに必要なものってなんなんだろうね…と彼女と話しながら駅に向かった。
私にとってヴィクトリアは、若さ、身長、美しさ、個性、英語力、語学力、ビザだってすべて持っているように見える。条件を満たしているからといって、成功が約束されるわけではない。ただスタート地点に立つことができるというだけ。十分理解してここに来ているつもりだったけど、やっぱり“やりたいことをやる”というのはハードだ。でもその道を選んだのも自分なんだよね。
またcatch upしようね! と言って、Instagramを教え合って彼女と別れた。初めて英語でコミュケーションする友だちができた。まっすぐな彼女に幸あれ。そして私にも。
とりあえず、今チャレンジできるエージェンシーにはぶつかってみたから、何か他に現地で仕事をみつけた方がいいかなあと思い始める。なんてったって£1=¥160の世界なのだ。貯金なんていくらあっても足りない。渡英日記、回り道をしながらようやくUK就活編に入ります。
小西麗
1993年生まれ。日本女子大学卒業。モデルを経て、編集者・ライター。雑誌媒体を中心にインタビューや特集記事を作成。「男性同士のアツい関係」の意であるブロマンス好きが高じて、コラムの寄稿も。2022年、YMSビザで渡英。現在ロンドン在住。
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