【働く私にMusik】どんな状況下でも生きていく、それは同時に希望でもある
Guest Musician:Yaffle(ヤッフル)
1991年、東京都生まれ。藤井 風やiriの楽曲プロデュースのほか、CM音楽や映画音楽も担当するなど幅広く活動。プロデューサーとして、ソロアーティストとして、国内外から高い注目を集めている。
2010年に国立音楽大学に進学。作曲家・編曲家としての活動をスタートし、2014年に小袋成彬氏とともにTokyo Recordings(現・TOKA)を設立。2018年よりソロプロジェクト「Yaffle」を始動、2020年に1stアルバム『Lost, Never Gone』をリリース。翌2021年にはポケモン25周年記念アルバムに唯一の日本人アーティストとして参加を果たす。2023年、NEWアルバム『After the chaos』をリリース。
自分を孤独に追いやって、出てくるものを表現した
社会変化が目まぐるしい今、音楽を通して自分の感情をシェアしたかった
サッシャさん(以下、S):読者の皆さんには、藤井 風さんのプロデューサーとしてよく知られているかも? 昨年末も風さんと紅白に登場されていましたね!
Yaffleさん(以下、Y):まさか紅白に縁がある人生になるとは思ってもいませんでした。Oggiに登場する人生も想像していなかったんですけど(笑)。
S:登場しちゃってますよ!(笑) さて、そんなYaffleさんはプロデュース業と並行してソロ活動もされていて、新アルバム『After the chaos』を発売したばかり。クラシックが音楽活動の原点であるYaffleさんらしい、ポスト・クラシカルな作品ですが、このアルバムをつくろうと思ったきっかけとは?
Y:コロナをはじめとして、ショッキングな社会変化が起きている。そんな今を生きている中で、音楽を通じて自分の感情をシェアしたいな、と。
S:東京だけでなく、アイスランドでつくられた曲もありますよね。なぜアイスランドを選んだんですか?
Y:行ったこともない、知り合いもいない土地だったので。
S:え? 音楽的な理由ではなくて?
Y:ふだん生きている社会から分断された、孤独な場所で自分を追い込みたくて。そんな状況下で湧き上がってくるものを表現したかったんです。従来のシステムが壊れてしまっても人間の営みは続いていくし、生きていかなければいけない。でもそれは同時に希望でもある。そんなメッセージを音楽に込められたなと思います。
もうひとりの自分と過去の言葉が、自分を”今”に導いてきた
自分を追い込んでパワーを出す。その方法は「上手な働き方」のヒントになる
S:創作を進める上で、逃げ場がない状況。よくそこまで自分を追い込めましたね。
Y:僕自身は、メンタルが強いタイプではないんですよ。甘い誘惑に負けてしまいがち。そんな僕をコントロールする“もうひとりのYaffle”が上空にいるんです。今回のアルバム制作も、上にいるYaffleが、地上のYaffleを日本からつまみ上げてアイスランドに落として、「そこで頑張ってこい!」と無理矢理追い込んだ感じです(笑)。
S:昔、矢沢永吉さんも同じことを話されていました。「やってるYAZAWAと上から見てるYAZAWAがいるんだよ」と。
Y:音大を受験したのも、同じ経緯なんですよ。「将来は音楽の道に進もう」と高3のときに決めたんですけど、普通の大学に進学したら、その決意が揺らいで一般企業に就職してしまうリスクもあるわけで…。
S:なるほど。それで、上にいるYaffleが、下にいるYaffleを音大に行かせたんですね。
Y:下にいるYaffle… つまりプレイヤーとしての僕は、つい楽な方向に流されてしまう。だから、そうなる前に、上のYaffleに逃げられない場所へと動かしてもらうんです。何かを選択しなければいけないときって、リミットが間近に迫るほど、焦って気が小さくなってしまう。それなら、気が大きいうちに後戻りできない環境へ自分を追いやればいい。これ、意志が弱い人におすすめのTipsです(笑)。
「“やりたい”を言葉にして伝える」ことは、数年後の自分のための種まき
未来の自分のために、いろいろな場所に種をまいておきたい
S:仕事にも役立つ考え方ですよね。Yaffleさんは、現在31歳でまさにOggi世代! そのほかにも意識的に実践している仕事との向き合い方などありますか?
Y:やりたいことは言葉にして周りに伝える。これはやっぱり大事ですね。
S:巡り巡って、最終的に自分のところに返ってきますよね。
Y:とはいえ、それが数日で叶うほど人生うまくはいかないので(苦笑)、数年後の自分のための種まきですよね。最近は後輩に仕事を頼む立場にもなってきたんですが、「こんなことをやってみたいんです!」とアピールされたことって、何年か経っても不思議と覚えているんですよ。「この仕事、やりたいって言ってたな。頼んでみようかな」って、後輩の顔が浮かんでくる。
S:それはプロデューサーとしての大きな強みですよね。依頼する相手のポジティブな要素を把握できているわけですから。
Y:「この仕事、どちらに頼もう?」と同じレベルのふたりを天秤にかけているときは、やっぱりやる気がある人にお願いしたくなる。頼む立場の視点からも、やりたいことを口に出す重要性を感じたので、未来の自分のためにいろいろな場所に種をまいておきたいです。「やりたいと言ったからには…」と自分に圧もかけられますし(笑)。
結果を振り返るのは怖い。でも、そこに自分の武器がある
仕事のフローや結果は、絶えず“疑う”
S:お話をうかがっていると、後輩の方々のことをすごく気にかけていらっしゃるんだなと感じます。
Y:ポジションは、どんどん後輩たちに譲っていかないと!
S:えっ! まだ譲るような年齢ではないのでは? と思っちゃいますけど。
Y:僕、立ち止まるのが怖いんですよ。僕自身も、音楽文化も常に前進していなければ、という危機感がある。それを打ち破ってくれるのは、チャレンジングな若い子たち。同じような思いで僕に仕事を任せてくれた人もいますし、バトンはどんどん渡していきたいですね。
それに、ひとつに固執することなく、いつも何かに影響を受けている人間でありたいんです。新しい潮流に飲み込まれてしまっても、その流れの中で変化しながら生き残れることがアイデンティティだと思うから。
S:ひとつの成功にこだわりすぎない、ということでしょうか?
Y:仕事のフローや結果は、絶えず“疑う”ようにしています。ヒットしたものを分析して、その内容に再現性を持たせながらも一部だけを変化させて、成功の理由を検証していく。たとえば「海外でつくった曲」と言われると、それだけで凄いもののように感じるけど、本当に凄いかどうかはわからないですよね。
S:常識や思い込みから脱却しなければいけないわけですね。
Y:結果を振り返るのは怖い。「やっぱり海外の音は凄いなぁ」で終わらせたほうが、人生はきっと楽しいですよね。でも、厳しい取捨選択を重ねて手元に残った方法論こそ、自分の“コアな武器”になりえると思うんです。人生って、突発的に戦わなければいけない状況に立たされたりするじゃないですか。そんなときに、自分の引き出しから、武器をすぐ取り出して戦えると助かりますよね。
S:検証を続けることで引き出しの中が整理されているから、シーンに適した武器を素早く取り出せるんですね。
Y:予算は少ない、納期もすごくタイト。もしそんな作品を依頼されても、「あれを使えばなんとかなる!」と必要な武器をすぐに取り出して戦えたら、まわりからの信頼も得られますしね。
自分なりの「裏テーマ」を決めるとやりやすくなる
いろいろな考えを持つプロフェッショナルたちが集結して、一緒に作品をつくりあげていく
S:自分のエッセンシャルな武器を見つけることといい、Yaffleさんって常に変化しながらも、何に対しても“自分なりの意味”を大切にされている印象です。
Y:音楽制作に限らず、どんな仕事でも自分なりの裏テーマとかを決めることで、やりやすくなったりしますよね。選択肢が無限にあると逆に悩んでしまうから。それから、いろいろな立場の人がどんなことを考えながら働いているかを聞くのも楽しくて好き。同じ作品を一緒につくっている仲間でも、お互いが考える“いい音楽”は違っていたりして、面白いんですよ。
S:プロデューサー的な視点ですね!
Y:そんないろいろな考えを持っているプロフェッショナルたちが集結して、自分のプライドをかけて仕事に向き合い、一緒に凄い作品をつくりあげていく… っていう感覚が好きなんです。なんて表現したらいいんだろう… あ!『アベンジャーズ』みたいな感じ!
S:映画好きらしいたとえ! そんなYaffleさんだからこそ、どんどん新しい音楽が生まれてくるんですね。これからも楽しみです!
【Information】NEWアルバム『After the chaos』発売中!
『After the chaos』¥3,300(ユニバーサル ミュージック)
世界中が注目するアーティスト・Yaffleが、クラシックの名門レーベルから送り出すNEWアルバム。彼が抱く混沌とした社会へのメッセージ、そして音楽家としての歩みを映し出す全10曲を収録。
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[Yaffleさん分]シャツ¥9,800・バンダナ¥800(ベルベルジン) メガネ・時計/本人私物 その他/スタイリスト私物
[サッシャさん分]スーツ¥396,000(イザイア ナポリ 東京ミッドタウン〈イザイア〉) その他/スタイリスト私物
●この特集で使用した商品の価格はすべて、税込価格です。
2023年Oggi4月号「働く私にMusik」より
撮影/中村和孝 スタイリスト/久保コウヘイ ヘア&メイク/坂口勝俊(Sui) 構成/旧井菜月
再構成/Oggi.jp編集部