【働く私にMusik】「KANDYTOWN」という、いつでも戻れる場所があるからソロで自由に活動できている
◆Guest Musician:Ryohu
りょふ/1990年生まれ、東京都出身。ラッパー/トラックメイカー。2012年に幼なじみたちと共にヒップホップクルー「KANDYTOWN」を結成。’16年にはメジャー1st アルバム『KANDYTOWN』をリリース。翌年、ソロ活動を本格始動する。今までにBase Ball Bear、Suchmos、ペトロールズ、OKAMOTO’S、あいみょん、冨田ラボなど、さまざまなアーティストの作品に客演として参加。’20年には「AppStore」の CMソングに使用された楽曲『TheMoment』を収録した、ソロ名義の1stアルバム『DEBUT』をリリース。現在、2年ぶりの2ndアルバム『Circus』が好評発売中!
謎めいたバスケ少年(!?)が、ヒップホップに目覚めるまで
サッシャさん(以下、S):今回は今のヒッピホップシーンを牽引する「KANDYTOWN」のメンバーで、ソロとしても活躍されているRyohuさんの最新アルバムについての話を伺っていきたいと思います。まずは、音楽を始めたきっかけから! Ryohuさんは「KANDYTOWN」のメンバーとは幼なじみということですが、「OKAMOTO’S」のメンバーと一緒に「ズットズレテルズ」というバンドも結成していましたよね。どちらと先に出会っているのでしょう?
Ryohuさん(以下、R):ほとんど同時期でしたけど、実は「KANDYTOWN」の前身でもある「BANKROLL」と「YaBasta」という2つのグループがあって、僕は「BANKROLL」という年上チームに所属していて。そのグループで「OKAMOTO’S」とセッションしたりしていて、それが後々「ズットズレテルズ」になっていきました。その後、’12年に「KANDYTOWN」の活動が本格化し始めた感じです。
S:なるほど。学生時代、Ryohuさんはどんな音楽を聴いてきましたか? 32歳だからOggi読者と同世代ですね。
R:読者の方もそうだと思うんですけど、僕らはMDで音楽を聴いていた世代です。TSUTAYAに行ってJ-POPのチャートでランクインしている曲をとりあえず借りてきて、MDに録音したりして。その中にジャパニーズ・ヒップホップもあったかもしれませんが、当時はまだヒップホップというジャンルが何かすらわからずに聴いていたと思います。小学5年生になったときに、お兄ちゃんがヒップホップ好きという同級生から「これ、やばいから聴いて!」って貸してもらったのがキングギドラ(当時/現在はKGDR)の『最終兵器』というアルバムで。ヒップホップを意識して聴いた初めての体験で、衝撃の1枚でした。そこからは自分でネットを調べたりして、色々なヒップホップを聴き始めた感じです。
S:ジャパニーズ・ヒップホップがきっかけだったんですね。
R:そうですね。「KANDYTOWN」のメンバーとは中学生になって出会うのですが、そこで僕の知らない海外のアーティストも教えてもらったりして。当時流行っていた「MTV(アメリカのケーブチャンネル)」も観てました!
S:’90年代といえば、ヒップホップ全盛のころですねよね!
R:ヒップホップシーンの〝ゴールデン・エイジ〟といわれていた時代で、僕の中のヒップホップの世界観はこの時代につくられた気がします。
S:ヒップホップはその時代に市民権を得ましたよね。そこからロックにヒップホップが自然に取り込まれたミックスチャー・ロックが流行り出して。リンキン・パークとJAY-Zがコラボしたりして、ひとつの音楽的な時代の転換期でしたね。
R:そうですね。アンダーグラウンドなイメージだったヒップホップですが、JAY-Zらが世界的なスターになってメジャーに出てきて。僕が初めて買ったCDもJAY-Zの『The Black Album』でした。エミネムの初期のアルバムも買っていましたね。
S:実際に、ご自身でパフォーマンスをするきっかけになったことはなんですか?
R:「KANDYTOWN」のメンバーのBSC(ビー・エス・シー)とYUSHI(ユウシ/故・草刈雄士さん)とは中学校のころから遊んでいて、その延長でフリースタイルをやり始めた感じです。仲間同士でいるときに、僕は漫画とか本を読んでいるんだけど、隣でフリースタイルをしている仲間たちがいて…。その輪に入りたいな〜って、どこかで思っている自分もいるんですよ。当時はまだ恥ずかしい気持ちがあったから。
でもある日、意を決して飛び込んで。恥ずかしさより、徐々に楽しいっていう熱量が勝るようになりました。そこから即興でその場を楽しめるようになって、曲をつくろうって思うようになって。だれに発表するわけでもないんですけどね。
S:純粋にヒップホップが好きな少年たちって感じで、微笑ましいですね! ところで学生時代のRyohuさんはどんなキャラクターだったのでしょう?
R:音楽以外だと、バスケットボールひと筋でした。高校時代はバスケをやっている自分と音楽をやっている自分を完全にわけていて。休日になるといつも「KANDYTOWN」のメンバーとばかり遊んでいたので、クラスメイトからしたらプライベートで何をやっているかわからない人って思われていたと思います。
S:〝謎めいたバスケ少年〟だったんですね(笑)。そこからプロの道に進んだのは成り行きでしたか、それとも意識してのこと?
R:あまり意識はしていなかったと思います。バスケットボールは高校生でやり切った感じがあって、音楽に夢中になる熱量とちょうどクロスするように入れ替わっていきました。そのときは仕事というよりも楽しいという気持ちのほうが強くて、「ズットズレテルズ」としてバンド活動も始めたころです。
年齢的に、家族に大学進学とか就職の話もされたんですが「音楽をやりたい」って話をしたら、「好きにやったらいい」と言ってもらえて。具体的な目標があったわけじゃないんですけど、好きなことを後押ししてくれる家族だったので応援してもらえました。
S:素敵なご家族ですね!
R:家ではほとんど音楽を聴いていなかったので、「意外だ!」ってびっくりされましたけどね。
S:パフォーマンスをする上で、Ryohuさんが参考にされているアーティストはいますか? この人かっこいいな〜、とか。
R:やっぱりJAY-Zですね。引退ライブを完全収録したDVD『JAY-Z FADE TO BLACK』が、すごいカッコよくて! アクセサリーをジャラジャラつけて、いろいろな人がフィーチャリングで登場するんです。ビヨンセの曲をかけたりして、とにかく華やかなステージ。でも僕がこうなりたいっていうよりは、僕ら世代が思い描くラッパー像はこれだという感じです。今観てもカッコいいなって思いますよね。
S:「KANDYTOWN」のメンバーから受けた影響も計り知れないと思いますが、彼らの存在は今のRyohuさんにとってどんなものですか?
R:そこの出会いはでかかったですね。中学生のころから今もずっと一緒にいられる関係性って、やっぱり特別。仕事のこともプライベートのことも、お互いにいろいろ知っているからこそ支え合える部分もあるし、10代のときに遊んでいたメンバーと同じステージでライブしているのは気恥ずかしかったりもしますが。今では子供がいるメンバーと一緒に遊んだりもしています。
S:家族同士の交流もあるんですね!
R:結婚したメンバーも増えてきて、それぞれの私生活も大事にしつつ、でもあるときふと連絡して遊んだりもするので、関係性は変わらないです。なんですかね…、近くにいてくれるだけでありがたいというか。何かあったときに、家族以外で助けてくれる人がいるっていう安心感というか。
S:「KANDYTOWN」という、いつでも帰れる場所があるからこそ、それぞれがソロで伸び伸びと活躍できるんでしょうね。
R:そうですね。最初からひとりだったら、全然違うことになっていたかもしれないです。
最新アルバム『Circus』ではコラボアーティストとの化学反応を楽しんだ
S:仲間あってのソロ活動ということで、今発売中の2ndアルバム『Circus』についてうかがっていきますね。メジャー1stアルバムの『DEBUT』が客演なしで制作されたのに対して、『Circus』では総勢14人の豪華なコラボアーティストを迎えています。SuchmosのYONCEさん、OKAMOTO’Sのオカモトショウさん、「KANDYTOWN」のメンバーもいたりして、等身大の仲間が集まったのかなという印象でした。
R:そうですね。佐藤千亜妃さんと「Peterparker69」のJeterさんが初対面だったり、冨田ラボさんがいらしたりもするんですけど、ほとんどが友達です。これは僕の肌感になるんですけど、音楽を心から愛していて、それを正直にやっている方たちが集まってくれた、という印象です。そういうアーティストにリスペクトがあるので、このアルバム制作は本当にたくさんの刺激をいただきました。
S:リスナーとしても贅沢な一枚になっているなと感じます。リリック(歌詞)もすごくリアリティがありました。1stアルバムと比べて、今回のコラボアーティストたちとの制作はどのように進めていったのでしょうか?
R:今までは自分が客演として呼ばれることが多かったのですが、今回は自分が招く立場ということで探りながらの作業になりました。今回はフィーチャリングだからできる作品に仕上げたかったので、〝だれかが入れる余地〟を残すことを意識しました。いつものように、自分自身で突き詰めて考えると相手の入る余地がなくなってしまうので。その結果、リリックに深みが出てリアリティに繋がったのかもしれません。
1stアルバムの『DEBUT』では、とにかく自分が30年間生きてきて見てきたものとか触れたものを、自分の言葉で1枚のアルバムにしようという考えでした。だから、そこにだれかが入ると嘘っぽくなると思ってフィーチャリングはしなかったんです。でも、そのアルバムが終わった瞬間、次のアルバムはだれかを入れたものにしようと思っていました。
S:『DEBUT』が自分自身と向き合ったコンセプチュアルな一枚だった分、『Circus』ではいろいろなアーティストとの化学反応を楽しんだのですね。
R:そうですね。でも、音楽に限ったことではないと思いますが、自分自身と向き合う作業はすごく大変でした。やっぱりネガティブな部分にも触れないといけないから、疲れたなと感じることも多くて。それもあって、今回の『Circus』では気持ちが外に向いて、だれかと一緒にやろうとなったのかもしれません。
コラボした6組のアーティストたちとそれぞれやるべきテーマを掘り下げて構築させた楽曲たち、そして自分のソロ曲はそれを経て浮かんできたものを自分の言葉でしっかりまとめたつもりです。だから、アルバムを通して「今のRyohu、ここにあり!」という感じが伝わったらうれしいです。
S:硬派ですね…(しみじみ)。自分の人生をさらけ出すって、相当しんどい作業だったと想像します。でも、つらくない人生だと人には響かなかったりしますし、そこをイマジネーションだけでリリックに落とし込むのではなくて、きっちり自分と向き合ったところが硬派だな、って思いました。ヒップホップは「リアルかフェイクか」を問われる音楽でもあったりしますしね。
R:でも、そこまでさらけ出さなくてもいいかなって気持ちもあって。自分がそうありたいという願いを込めたリリックもあるから、カッコつけたい自分もいるんです。
S:それも含めて、リアルなんでしょうね。正直な自分を貫くというか。
R:だれかと曲をつくるにしても、自分のやってきたことと辻褄が合う世界観になるように、ということは気をつけていたと思います。
S:やっぱり硬派だ! 今、音楽を届ける上でこういうものを届けたい、譲れないというものはありますか?
R:そうですね…、基本的には聴いてくれる人が感じたままでいいと思っています。リリックはそのまんまを言っている場合もあるんですけど、比喩を使ってわざとストレートな表現を避けたものもあって。たとえば「誹謗中傷はよくない」というメッセージを込めた曲もありますが、響く人に響けばいいなというワードを意識して残したりして。
誹謗中傷している人がこれを聴いてくれたとして、すぐに変わるとは思っていません。それに、僕自身もパーフェクトな人間じゃないので、過去にひどいこと言ってしまったり、こうしたらよかったという後悔をしたりしたこともあります。
そういうときって、当時は響かなかったけどふと親の言葉を思い返すことってあるじゃないですか。あのとき言うこと聞いておけばよかったなとか。その延長線上で、僕の曲をたまたま聴いて、そう感じ取ってくれて「あ、変わらなきゃ」って思ってくれたらすごくうれしい。
<→Vol.2へ続く:Ryohu的「心を整える」方法は家族との何気ない日常にアリ!?>
【Information】総勢14組との豪華コラボが実現した2ndアルバム『Circus』が好評発売中!
’22年4月からYONCE(Suchmos)、IO(KANDYTOWN)、佐藤千亜妃、Jeter(Peterparker69)、オカモトショウ(OKAMOTO’S)といったジャンルレスな客演を迎えた楽曲を連続でリリースするコラボレーションシリーズをスタート。そこで得たラッパー/トラックメイカーとしてのスキルを存分に発揮した、約2年ぶりとなる待望の2ndアルバム。/¥4,950(完全生産限定盤:CD+7inchアナログ盤) スピードスターレコーズ 11月2日リリース予定 ※現在、ストリーミングサービスおよび iTunes Store、レコチョク、moraなど主要ダウンロードサービスでも配信中。
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【Ryohuさん衣装】すべて私物
【サッシャさん衣装】
ジャケット¥374,000(イザイア ナポリ 東京ミッドタウン〈イザイア〉) パンツ¥6,490(原宿シカゴ竹下店) その他/スタイリスト私物
【協力社リスト】
イザイア ナポリ 東京ミッドタウン:03-6447-0624
原宿シカゴ竹下店:03-6721-0580
撮影/須藤敬一 スタイリスト/久保コウヘイ(サッシャさん分) ヘア&メイク/牛玖文哉(gurus-cut&stand/Ryohuさん分)、塩田勝樹(Sui/サッシャさん分) 構成/竹市莉子・宮田典子(HATSU)