【目次】
・「悪貨は良貨を駆逐する」とは?
・「悪貨は良貨を駆逐する」の使い方を例文でチェック
・「悪貨は良貨を駆逐する」の類語とは?
・最後に
「悪貨は良貨を駆逐する」とは?
「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉を知っていますか? 日常生活でほとんど耳にする機会はありませんが、実は世の中や職場の状況を表すことのできる言葉です。今回は、「悪貨は良貨を駆逐する」を取り上げて、その意味や由来、使い方などを解説します。
「悪貨は良貨を駆逐する」の意味
「悪貨は良貨を駆逐する」とは、「あっかはりょうかをくちくする」と読みます。「悪貨」は、「質の悪いお金」。「良貨」は、「質の良いお金」のことを指します。「駆逐する」は、「追い払うこと」という意味です。
元々は、国内に価値は異なるが同じ名前の貨幣があり、質の良い貨幣は貯蔵され市場に出回らず、質の悪い貨幣ばかりが世の中に流通してしまうことを表す言葉です。現在では「悪いものほど世の中に広がり、良いものは消えてしまう」「悪がはびこり、善が滅びる」という意味合いで使われます。
「悪貨は良貨を駆逐する」の由来
「悪貨は良貨を駆逐する」とは、「グレシャムの法則」を表す慣用句です。「グレシャムの法則」とは、イギリスの財務官であったトマス・グレシャム(1519-1579)が提言した経済に関する法則です。
中世以降ヨーロッパでは銀貨や銅貨が貨幣とされていました。国は、財政が悪くなると貨幣の銀の含有量を落とし、窮地をしのぎます。すると人々は、質の良い貨幣を手元に蓄え、質の悪い貨幣で支払うようになりました。次第に質の良い貨幣は市場からなくなり、質の悪い貨幣ばかりが流通され、経済が悪化するようになってしまったのです。
グレシャムは、このような市場の状況に「グレシャムの法則」と名付けました。この法則がどのように日本に伝わったのかは定かではありませんが、江戸時代には「鐚銭(びたせん)」と呼ばれる悪貨が市場に出回る事態がありました。
中には文字が潰れて読めないほど粗悪な貨幣もあり、良質な貨幣は入手できなくなりました。そこで、江戸幕府は品質のいい寛永通宝を発行し、経済の安定を測ったのです。同じような経済状況が世界各地で起こっていたことも「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉が生まれた所以かもしれません。
「悪貨は良貨を駆逐する」の使い方を例文でチェック
「悪貨は良貨を駆逐する」は、主に悪いものが良いものを圧倒するさまを嘆くときに使われます。また、人に対して使ったり、職場の状況を表すときにも使えるので、正しい使い方を押さえておきましょう。
1:世間では偽のブランド品が流通し、正規品が売れなくなってしまった。悪貨は良貨を駆逐するとはこのことだ。
品質の悪いものばかりが流通して、品質の良いものがなくなってしまうという典型的な例です。「悪貨は良貨を駆逐する」は、悪いものが世に蔓延っていくさまを嘆くときに使われます。言葉自体に聞き覚えがなくとも、このような世の中の状況に当てはめてみると意味が理解できますね。
2:利益優先の社長の意見ばかりが通り、正論を言う部下の意見が通らないなんて、悪化は良貨を駆逐している。
「悪貨は良貨を駆逐する」は、人に対しても使うことができます。権力を持った悪い上司が部下を威圧し、自分の都合の良いように方針を決めてしまうような状況です。悪いものが力を持っている状況を批判するときに使われます。
職場では「悪い人の行動が、善良な人間にまで悪影響を与える」「悪事を行う人が一人でもいると、他の職員まで流されてしまう」というような使い方もできますね。どちらにしても「良いものが悪くなってしまう」というネガティブな言葉です。
「悪貨は良貨を駆逐する」の類語とは?
「悪いものが良いものを圧倒する」状況は世間でも多々あることですが、「悪貨は良貨を駆逐する」は、日常会話では使いにくい表現です。似た意味を持つ言葉を覚えて、適切な場面で使えるようになりましょう。
1:憎まれっ子世に憚る
「憎まれっ子世に憚る(はばかる)」とは、「人に憎まれるような者が、かえって世間では幅をきかせる」という意味のことわざです。「憎まれっ子」は、「可愛げがなく、誰からも好かれない人」のことを指します。嫌われ者ほど、悪知恵が働き世渡り上手で、悠々と生きているというようなニュアンスです。「悪貨は良貨を駆逐する」を、人に対して使用するときと同じような意味の言葉ですね。
・先輩は学校で好き勝手やっているのに、なぜみんなから人気があるのだろう。まさに憎まれっ子世に憚るだよ。
2:衆寡敵せず
「衆寡敵せず」は、「しゅうかてきせず」と読みます。「少数では多数にかなわない。多数と少数では相手にならない」という意味です。少数で立ち向かっても勝ち目はないというようなときに使われます。「衆」は、「多くの人」。「寡」は、「人数や勢力が少ないこと」という意味です。「寡は衆に敵せず(かはしゅうにてきせず)」と表現する場合もあります。
・衆寡敵せずというように、中小企業が大企業に勝つのは難しいのかもしれない。
3:多勢に無勢
「多勢に無勢」の読み方は、「たぜいにぶぜい」です。「相手が多人数なのに対して少人数なので、勝ち目がないこと」を表します。人数や勢力があまりに違いすぎて、戦う前から負けると思ってしまうような状況のことです。「こちらは人数が少ないからどうしようもない」と無勢側が嘆くときに使われます。力を持った者が弱いものを圧倒してしまう様子が「悪貨は良貨を駆逐する」と似ていますね。
・先輩は会社の方針に異を唱えたが、多勢に無勢で言い負かされてしまった。
最後に
「悪貨は良貨を駆逐する」の意味や使い方は理解できましたか? 「悪貨は良貨を駆逐する」とは、「悪いものほど世の中に広がり、良いものは消えてしまうこと」。元々は、イギリスの財務官トマス・グレシャムが唱えた、経済に関する法則に由来のある慣用句です。
その言葉に聞き覚えはなくても、例文で紹介したような「偽のブランド品が多く流通している」などの世の中の状況をイメージすると、意味を覚えやすいのではないでしょうか? 貨幣の流通の歴史とともに覚えておきましょう。
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