実は、お金を稼ぐのは簡単なことである
ある昼下がり、えびすさまのおうちにお呼ばれして。玄関から一キロはあるかな、というアプローチ。手入れの行き届いた日本庭園、鹿威しに鯉。ここはドラマの世界? と見間違うほどの仰々しい佇まいに思わず緊張する。
そんな中、いつも通りの笑顔で現れた彼は「よく来てくれたねぇ」と微笑み、よいしょ、と縁側へ引きずってきたロッキングチェアに揺られながら、こう問いかけてきた。
「あすかちゃん。お金を稼ぐって、難しいと思う?」
今の私は、どれだけアルバイトを頑張っても、月に八〜十万円が得られる収入の限界。
「もし、私の分身を何人もつくれるなら、それは楽勝だなー、とは思います。でもこの状況で例えば月に百万円を手にするのは、正直難しいんじゃないかな」
私にとっての百万円はきっと、えびすさまにとっての千円ぐらい。ほう、と眉をひそめて、彼は再び問いを投げかけてきた。
「お金を得られる人と得られない人は、何が違うと思う?」
そんなことを聞かれたとして、大学生の私がこの百戦錬磨の大富豪に満足のいく答えを提供できるはずもない。でも、ここで答えないと、このまま見捨てられる気がする。私の直感がそう、警鐘を鳴らしてきた。
えびすさまはとても優しい人だけれど、同時に、お金持ちだけが持つ独特の雰囲気を常に放っていた。それは、自分の時間を無駄にする人、自分の期待を超えられない人とは今後一切付き合わない、という姿勢を明確に示す、強いものだった。
「お金を得られる人と得られない人との違い、は…… やる気?」
かろうじて絞り出した私の答えに、目の前でケラケラと笑う人。
えびすさま「そうだね、確かにやる気もあるかもしれない。他には?」
私「賢いかどうか、とか」
えびすさま「それもあるね。あとは?」
私「人の話を聞けるとか……?」
問われ続けても思い当たる要素などそうあるものではなく。困り切ってえびすさまを見上げたら、彼は全てを察知しているようにそっと目を合わせ、私にこう言ってきた。
「ありがとう。意地悪をしてしまったようでごめんね。あすかちゃんの、わからないなりに知恵を振り絞って答える姿勢は素晴らしいと思う。実際、答えてくれたことはちゃんと、全て正解ではあるよ。でも、残念ながら根本ではない」
根本?…… 一体、何を持って「根本」と言うのだろう。
お金持ちになりたい「理由」がない…?
「お金を稼ぐ、という行為は、思っている以上にずっと簡単だ。するべきことと言えば、そのとき社会に求められている価値を提供するだけ。そうするだけで、お金は自分の元に集まってくるようになる。
稼ぎたいと口にするのに稼げない人は、本当に稼ぎたいわけではない。ただ『稼ぎたい』と言っている自分に満足したいだけ。そんな状態で『稼ぎたい』と口にすることはそもそもお金に対する冒涜となってしまうんだけどね。だからそういった人たちは、結局稼ぐことができない。
そもそもあすかちゃんは、どうして稼ぎたいの? あすかちゃんにとってのお金持ちってどんな人? 何のために稼ごうと思って、この世界に入ってきたのかな?」
なぜ稼ぎたいか。なぜお金持ちになりたいか。そんなことは永らく考えたこともなかった。私にとって「お金持ちになる」のは幼少期からの決定事項で、それを実行すべく、こうしてわざわざ投資家、お金持ちを探し出して仲良くなって……
……あれ? 私、そもそもどうしてお金持ちになるんだっけ? その瞬間、ぐわんと世界が回り、私の中で何かが崩れた。
私には理由がない。お金持ちになる「理由」が。
それは、ついにお金持ちという存在が天上の世界から「現実のもの」として私の中に現れた瞬間だった。ぼんやりしていたものがようやく、形として捉えられるようになった瞬間。
お金持ちってなんだろう。私の思い描くお金持ちは、どんな人のことを言うのだろう。稼ぐってなんだろう。稼ぐ理由って何? 稼いだ先に待っているのは、どんな未来?
混乱した私は、率直に聞いてみることにした。これ以上自分で考え込んでいても、行き詰まるだけだと思ったから。時間は命。経験は財産。こういう類のものは、知っているであろう先人に教えを請うのが圧倒的に早い。
「えびすさま、ごめんなさい。私、わからなくなっちゃった。お金持ちって何? えびすさまはお金持ちって、どんな人のことだと思う?」
彼は少し驚いたのちに嬉しそうな笑みを浮かべ、うん、うん、と二度頷いた。
「あすかちゃんはずっと、『お金持ち』と『お金持ちじゃない人』を分けて考えてきたんじゃないかな? そして、お金持ちは何か伝家の宝刀のような『秘密』を持っている人だと。
……決してそんなことはないんだよ。金持ちは何も、特別な存在じゃない。金持ちと金持ちじゃない人の間に、差なんて元から、ほとんどないんだ」
衝撃だった。お金持ちが「特別な存在」じゃない? じゃあどうして、世の中にお金持ちとそうじゃない人がいるんだろう。私の心を見透かすように、彼はこう続けた。
「ここで問題。差がほとんどないと言っても、面白いことに、わずかにはある。では、その差は果たしてなんだと思う?」
お金持ちになりたい理由=「心からの叫び」
「んー、入ってくる情報?」
「情報! それも確かにそうだね。ただ、それはお金持ちの世界が始まってからの話だ。もっと前の段階。金持ちに『なる』人とそうじゃない人の差はね…… あすかちゃんも、もう気づいているはずだ。
なんてことない、『理由』だよ。心からの、稼ぐ理由。それは原稿用紙何枚分といった仰々しいものである必要はない。そんなものはむしろ、最初の段階ではないほうがいい。頭でっかちになると、うまくいくものもいかないからね。
とにかくシンプルに、簡潔に。俗世的なものでも構わないよ。いい車に乗りたい、モテたい、有名になりたい。なんでもいいから、ひと言で表現できる『心からの叫び』だ。だから『どうして稼ぎたいの?』って聞いたんだよ。
意地悪をしてすまなかった。でも、それがないと、ずれてしまうんだ。お金は夢や理想を叶えてくれる素敵なアイテムだけど、同時に、非常に不思議な魔力を持つ。だから、この根っこの部分が曖昧だと、人間はあっという間に飲み込まれて破滅してしまうんだ。そんな人を何人も見てきたから、せめてあすかちゃんには同じ道を辿ってほしくない」
深呼吸をひとつ。そして彼は真剣な眼差しで、再びこの問いを投げかけてきた。
「もう一度聞こうか。あすかちゃんは、どうして稼ぎたいの?」
「……金輪際、我慢したくない」
思考を止めた瞬間、ぽろっと口をついて出てきた言葉。一番びっくりしたのは私自身。私ったら、そんなことを思っていたの?
でも、そうだ、思い出した。当たり障りのない人生。そこそこ順風満帆な日々。このままレールに乗ってさえいれば、過不足のない暮らしぐらいはきっとできる。…… でも、本当は?
もっともっとやりたいこと、やってみたいことはたくさんある。美味しいものをおなかいっぱい、値段を気にせずに食べたい。旅行にだって行きたい。ビジネスクラスに乗ってみたい。「ここからここまで全部ください!」って言ってみたい。自分が経験したことのない世界をどんどん見て、触れて、感じてみたい。制限のない生き方をしてみたい。
興奮したまま捲し立てる私を楽しそうに眺めながら、彼は満足げにこう言った。
「それでいい。おめでとう。では、お望み通りいよいよ、稼ぐ旅に出るとしようか」
今回の学び
・お金を稼ぐのは簡単なこと
・お金持ちとそうでない人の差はほとんどない
・稼ぐには、なるべくシンプルな理由が必要
TOP画像/(c)Shutterstock.com
職業お金持ち 冨塚あすか
個人投資家。1988年生まれ、仙台出身。慶應義塾大学卒。「お金を理由に何かを諦める、という事態とは生涯無縁でいよう」と決め、20歳のときに10万円から資産運用を始める。紆余曲折ありながらも持ち前の分析力と嗅覚、人当たりや運の良さで資産を順調に拡大。会社員を辞めてからは2年ほど、専業投資家として資産運用のみで生活をする。現在は、オンラインサロンを通じて、投資の仕方や生き方、女性がお金持ちになるために必要な「お金の帝王学」について指南している。趣味は旅行と食べ歩き、お金持ちの話を聞くこと。
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