妊活の基礎知識|不妊症治療の種類と経済的支援
妊娠しようと思って婦人科受診される方も多くおられます。
前回の記事でも書いたように、一般的に妊娠する力が正常なカップルでは、3ケ月で約50%、6ケ月で70~80%、1年で約90%が妊娠します。そのため、1年以上避妊せず性交渉を行っているにも関わらず、妊娠に至らない場合を不妊症といい、赤ちゃんを希望するカップルの10~15%に見られます。
不妊症の治療とは?
前回、不妊症の検査について説明しました。不妊症の原因が排卵因子や卵管因子にある場合などは次に述べるような不妊治療を行っていくこととなります。
不妊治療の種類は・・・
1. タイミング法
2. 人工授精
3. 体外受精
などの治療法があります。
タイミング法は排卵日を推測し、タイミングを指導する治療法で、不妊治療のファーストステップです。そして、タイミング法では上手くいかなかった患者さんや、年齢が高齢で妊娠を急がれる場合には人工授精や高度生殖医療である体外受精、顕微授精、胚移植を実施されています。
不妊治療の種類別に解説
1. タイミング法
基礎体温、もしくは婦人科受診して診察のもと、よりよい時期でのタイミングを持ち妊娠を目指す方法です。排卵しているかどうかが定かではない場合排卵誘発剤を併用して行うことがあります。卵巣内の卵子を成長させるための排卵誘発剤は生理終わりがけころから内服または注射を投与します。
排卵寸前となった卵胞は20mmまでの大きさに達しており、これをエコーで確認します。十分に発育した卵胞を確認できれば積極的に排卵させるように注射をします。この注射により36時間以内に排卵することが確認されており、タイミングを持つ方法です。
2. 人工授精
タイミング法でなかなか妊娠に至らない場合に人工授精を実施することがあります。人工授精とは子宮内に直接精子を注入する方法です。事前にパートナーが自ら採取した精子を細い管を通して子宮内腔に注入します。
不妊原因が頸管因子の場合にも用いられますがパートナーの精子が正常であることが条件となります。タイミング法で用いたように排卵誘発剤を使用して人工授精を行うことが多いです。
3. 体外受精
体外受精は、女性の卵巣の中からとりだした卵子と男性から採取した精子を混ぜ合わせ、受精させ、受精卵を子宮に移植する方法です。人工授精で妊娠に至らなかった場合など難治性の不妊に対し有効な治療法になります。
卵管が詰まっていて卵子が精子と出会えない女性、運動する精子の数が少ない男性、精子の動きが悪い男性などに向いており以下の過程に沿って実施されます。
体外受精の主な流れ
◆採卵
成熟した卵子を卵巣から取り出すことを「採卵」といいます。
採卵針を腟から挿入し卵巣に刺し、卵巣の中のひとつひとつの卵胞に対し卵胞液ごと吸引していくことで、卵胞の中の卵子を取り出します。強い排卵誘発剤を使用して複数個の卵子を取れるようにしたり、今まで取れなかった卵子を取れるようにしたりすることがあります。
卵巣刺激をした場合、平均採卵数は6〜10個程度ですが、まったくとれない場合もあります。採卵数は6個以上とれると妊娠に至る確率が高くなります。なお多く取れすぎるような状況は卵巣が腫れあがって腹水がたまってしまうOHSS(卵巣過剰刺激症候群)の副作用が生じるリスクが高くなります。
◆受精~培養
卵子を入れた培養液の中に精子を加えて受精させます。これを体外受精(IVF:in vitro fertilization)といいます。顕微鏡を用いて精子を直接卵子内に注入して受精させる方法を顕微授精といいます。培養液の中で受精卵は細胞分裂をすることで発育します。発育を始めた受精卵を「胚」といいます。
◆受精~移植
培養した胚(受精卵が発育したもの)を子宮腔内へ移植します。これを胚移植(ET:embryo transplantation)といます。移植用の柔らかいチューブに胚を入れ、超音波で観察しながら、チューブを子宮腔内に挿入し注入します。
なお、通常1回に移植する胚は原則1個、条件により2個までとされています。このように数を制限するのは、多胎妊娠のリスクを避けるためです。体外受精から胚を子宮腔内まで移植するまでの過程を体外受精-胚移植(IVF-ET)といいます。
不妊治療への経済的支援
不妊治療についてはこれまで一部のみ保険診療が認められていましたがその大部分は自費診療でした。1978年に世界で初めて成功した体外受精は技術革新、検査の多様化もありこれにかかる費用が年々高騰しています。
現在では施設により胚移植までにかかる費用が約20万円~100万円と大きな差がありますが、むろん妊娠にいたるまでは何回も体外受精が必要なこともあり経済的負担が大きくなります。
そこで「不妊に悩む方への特定不妊治療支援事業」を平成16年に政府が創設しているのを御存じでしょうか。時代の流れや実情に合わせて10回以上の制度見直しがなされています。令和3年1月以降では1回30万円の助成金が6回まで認められています。以前まで世帯収入730万円未満であった所得制限は撤廃されております。
ただし、この支援は43歳未満であることが条件となります。これは高齢であれば卵の質が低下し妊娠に至ることがより困難であるからです。妊娠に向けての準備は早めの備えが必要となります。
助成金があっても経済的負担が大きい不妊治療は2022年以降に保険適用が実施されることになっており、ひとりでも多くの妊娠に至ることが期待されています。
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7回にわたり、生理や妊活に関してコラムを最後までお読みいただきありがとうございました。ひとりでも多くの貴女が生理、妊娠の悩みから解放されることを切に願っております。
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直レディースクリニック 院長 竹村直也
2000年神戸大学医学部卒業
2008年神戸大学医学部大学院修了
兵庫県立こども病院、日高医療センター勤務の後神戸大学病院産科婦人科助教。
淀川キリスト教病院産科婦人科部長、
竹村婦人科クリニック勤務後、2020年5月直レディースクリニック開業
資格:医学博士 産婦人科専門医 母体保護法指定医