『冬ソナ』打ち上げに立ち会った唯一の日本人が語る、ヨン様ブームと不時着ブーム
2021年1月1日元日ーー1年のはじまりにあたって、改めてご紹介したいのは、韓流ドラマブームを生み出した『冬のソナタ』。韓流ナビゲーターの田代親世さんは、2002年にソウルで行われた『冬のソナタ』の打ち上げにも参加して、実際にヨン様こと、ペ・ヨンジュンとも交流を持ったことのある韓流レジェンドです。
『冬のソナタ』ブームに始まり、『愛の不時着』につながる韓流ドラマの魅力とは何なのか。田代さんが、その打ち上げの日のヨン様のカジュアルな様子から語り始めました。
ヨン様とチェ・ジウが、後ろでカチンと祝杯を!
黒いジャケットに黒い帽子。ぺ・ヨンジュンさんは、晴れやかな表情で、打ち上げの会場に入ってきました。
2002年3月19日、打ち上げは、最終回の放映当日。その日の朝までかかったという撮影が終わって、ほっとしていたのか、ペ・ヨンジュンさんは、少し疲れた様子はあるけれど、カジュアルな雰囲気でした。
韓国では、お祝いの集まりの際、日本の鏡割りのような感じでケーキカットをします。KBSの社長を真ん中に、ペ・ヨンジュンさんとチェ・ジウさん。
3人を中心にしたケーキカットが終わって、KBSの社長と乾杯したあと、社長の背中の後ろ側で、ふたりがこっそりカチンと乾杯してお疲れ様と言っている表情が、とても良かったです。ふたりとも、黒い革のジャケットというお揃いのファッションでした。
「日本にも行きたいですねえ」とラフな雰囲気で
パーティーが進むにしたがって、ペ・ヨンジュンさんは、どんどん楽しそうな顔になって行きました。「日本の記者さんです」と紹介してもらったのですが、写真をお願いしたら私の腕を取って引き寄せてくれて、そしてツーショット写真を撮ってくれました。
「日本にも来てください」と伝えると、「日本にも行きたいですねえ」と、とてもラフな雰囲気でした。しっかり目を見て話してくれて、眼鏡越しに見える目が「きれいだなぁ〜」と思ったのを覚えています。
打ち上げのパーティーが終わって、急いでホテルに戻ると、さっきまで会場にいた人たちがみんなテレビに出てるんです。そんな興奮状態のまま『冬ソナ』最終回の放映を観たのは一生忘れないでしょう。
事故で亡くなった初恋の人とうり二つの男性が現れる
『冬のソナタ』は、ヒロインであるユジン(チェ・ジウ)の高校時代、初恋の相手であるカン・ジュンサン(ペ・ヨンジュン)との日々から始まります。
彼は事故で亡くなったと思われていたのに、十年後の彼女の前に、うり二つの男性イ・ミニョン(ペ・ヨンジュン二役)が現れ、お互いが惹かれ始めます。しかし、彼女には、幼馴染の婚約者サンヒョク(パク・ヨンハ)がいて、韓ドラの王道である、三角関係が描かれていきます。
あなたはミニョン派? ジュンサン派?
『冬のソナタ』では、ペ・ヨンジュンさんが、ちょっと孤独でかたくななクールさをにじませた高校生と、ヒロインと10年後に会う、自信みなぎる成熟したアメリカ帰りの大人の男性を演じていました。
一粒で二度おいしい、冷たさとあたたかさが両方味わえたんです。あなたはどっちが好き? ミニョン派なのジュンサン派なのと言いあっていたものです。私は孤高なジュンサン! って思ってました。
神々しさがどんどんグレードアップ!
ペ・ヨンジュンさんは、ソフトな外見の中に、男らしさと頼もしさがあって、簡単には触れられないようなイメージでした。当時の日本の女性たちは、単純なかっこよさではない、深みを感じたことでしょう。
こんな男性とつきあいたいとか、抱きしめられたいとかいうのではないんです。優雅な仕草、高潔なたたずまい、簡単に触れてはいけない… リアルの男性というよりも、崇める存在、だから「ヨン様」と呼ばれたわけですよね。そのヨン様が、冬のきれいな景色に映えて神々しくて、みんながぼーっとなりました。
リアルのペ・ヨンジュンさんとは、舞台挨拶、取材などで10回ぐらいお目にかかる機会がありましたが、オーラがどんどん変わっていったのを感じました。
2002年、冬ソナの打ち上げのときには、カジュアルな雰囲気でしたが、2003年に日本で大ブームになって、日本から900人が駆け付けた韓国での交流会では、オーラが違っていました。神々しさがグレードアップしていて、生身の人間じゃないような、高貴な感じになっていっていました。
『冬ソナ』と『愛の不時着』に共通の「お互いを想う気持ち」「引き込むドラマチックさ」
『冬ソナ』は純愛メロドラマで、『愛の不時着』はラブコメ要素が強い。テイストは違っても、お互いを想うという気持ち、守り合う気持ちは共通ですね。『冬ソナ』の時にも『愛の不時着』の時にも、日本人に、こういう愛もあるのねと、新鮮に受けとめられたのでしょう。
それから、ドラマの世界に引き込むということでも共通しています。どちらも、偶然・事故・再会・善悪の対決などなど、ドラマチックな要素が詰め込まれています。
韓国のドラマは、これでもかと組み立ててあって、どんどん押し寄せて来る感じに引き込んでいきます。韓国では、1話の時間が長い上に、1シリーズが16話もあるので、複合的に要素を入れていきます。日本では、11話とか12話で終わることを余儀なくされているので、いろいろ入れていたら終わらない。ドラマ作りが、最初から違うんですね。
『冬ソナ』は地上波、『愛の不時着』はSNSでブームに
2002年サッカーワールドカップの日韓共同開催で、日本が韓国のものを取り上げるムードだったことも、『冬ソナ』ブームを引き起こす要因になりました。
2003年に、BSで放送された時から人気が出て、2004の4月、地上波での放映とペ・ヨンジュンさんの来日から、空前の大ブームが始まります。
今回の『愛の不時着』はコロナ禍でおうちにいる時間が増える中、SNSの効果で、あの芸能人もハマってる、面白いんだったら観てみようというふうに、広まっていったのは、大きな違いですね。
3話ぐらいまでは、ちょっと我慢して観ていると面白くなる
『冬のソナタ』の頃に純愛ものが多かったのに比べて、今はジャンルもテイストも、実に多様なドラマが作られています。
今回のブームで、多くの人が『愛の不時着』『梨泰院クラス』の2本を観たわけですが。韓流には、まだまだいろんなドラマがあります。その先は、自分の好きな俳優や好きな制作陣のものを観て、楽しむのがおすすめです。
Netflixなどで、簡単にアクセスすることができるようになったのと同時に、離脱もしやすくなったかもしれません。韓流ドラマあるあるで、3話ぐらいまではそれほど面白くないことも少なくないんです。そこを越えると、ぐいっと引き込まれてしまうというのが、良くあるので、ちょっと我慢して観ていただければと思います。
『冬ソナ』は、韓国ドラマのおなじみの要素である、初恋、交通事故、三角関係、記憶喪失、再会、善悪対決といったものがたっぷりと織り込まれています。その中で葛藤を演じるのが美しい男女。ドラマチックな要素がこれでもかって入っていたんですね。
愛に対するひたむきさとか、男女の仲だけでなくて、友人とか家族に対しても思いやる心とか、見る者の心を浄化してくれました。景色も音楽も美しくてメロドラマだったんだなと思って、音楽といいチェ・ジウの泣き顔といい、あのメロウな世界にどっぷり引き込まれて、こういうのが見たかった! 嬉しい~という感じでした。美男美女が美しい景色の中で演じてくれていたのは、もう眼福でした。
当時はまだ韓国に、こんな素敵なドラマがあるなんて知られていなかったんです。それがなんだかわからないけど、心が揺さぶられて居ても立っても居られない気持ちにさせられた純愛ドラマだったのです。そこに触発された人の多くが年配の方だったというのは、今の日本が失ってしまった、その人たちが青春時代を過ごした清く正しく美しい、おくゆかしい男女関係だったり、恋愛関係にあっても相手をさんづけで呼び合う丁寧な人間関係などがあったと思います。そんな背景があって、爆発的なブームを引き起こしました。
それから20年近くが経ち、再び訪れた韓ドラブーム。いやもうブームではなく、日本にも根付いた文化になっていますね。
TOP画像/(c)KBS Media, Pan Ent.
『冬のソナタ』U-NEXTにて配信中
取材・文/新田由紀子
田代親世/たしろ ちかよ
韓流ナビゲーター。テレビ・雑誌などで、韓流ドラマを紹介している。会員制韓流コミュニティ「韓流ライフナビ」を主宰。