学ぶ意欲が前のめりすぎると「点」しか見えてこない
もっと引いて「面」もとらえると見えるものがある
教養を身につけたいと思って、積極的に美術展や映画、コンサートなどのカルチャースポットへ出かけてみるものの、自分の中に落とし込めていない気がして。
あとから思い出しても、自分がそこから何かを学んで、得ることができたのかは… 微妙かも。
教養のある人って、どうやって絵画や映画などから学びを吸収しているのでしょう?
名越さんが回答!
僕も教養のためと思って月に1回くらいは美術展に出かけるようにしています。
ところが、恥ずかしながら、僕自身もピンとこないことは多かったりして(笑)。大規模な絵画展ともなると、作品数も多いですから、そのすべてを鑑賞しようと思ったらぐったりしてしまいます。そこで密かに「苦痛」を感じてしまうと、自然と足が向かなくなるので気をつけたいところです。
そうならないために、僕がおすすめする鑑賞法は、美術の専門家からは怒られてしまうかもしれないけれど、全部を観ない。(!)「観るべき作品」と「第一印象で自分が気になった2~3作品」をじっくり鑑賞するのです。
名画と言われるものは、そこに込められた情熱も計り知れませんから、いくつも正面から見つめれば疲れ果てるのは当然です。そうならないためには観る点数は絞る。それは身体的に疲れないようにするためでもありますが、「心を疲れさせない」ようにすることも大切だと思うからです。
僕は映画を観るときも絵画鑑賞に近いことをしています。ストーリーを追おうとして、主人公など登場人物ばかりに目がいくと、観終わったあとに意外に偏った印象しか残らないなと感じるのです。
10分に一度でも、全体をひとつの絵のように、“俯瞰”して観るということを意識しています。そうすると、作品の全体像がつかめて、ストーリーがわかりやすくなるのです。
こういう鑑賞法に目覚めたのは、曼荼羅の見方を教えていただいたことがきっかけです。
曼荼羅って、みなさんも一度は目にしたことがあると思うのですが、悟りの世界を絵で表現したもので、とても緻密なことが特徴的。絵画としても優れていますが、本来は瞑想をするときに使われるのです。
その際に教えていただいた方法は、曼荼羅を“俯瞰”して見るということ。つまり、曼荼羅の絵柄の「端と真ん中を均等に見る」のです。そうすると、まるで世界に包まれているかのような心持ちになり、心が落ち着いてくるのが感じられます。
この、一点に集中せず画面を均等に見る方法を、映画や絵画に応用してみたわけです。教養を深めようと思って、前のめりに「学ばなくちゃ」となると、かえって何も心に入らなくなるんですね。そうすると「点」しか見えず、「面」が見られなくなります。
僕なりの鑑賞法の秘伝「たまに、端と真ん中を均等に見る」だと、疲れずに最後まで作品を観られるし、俯瞰で見ても残るものこそ、自分が本当に関心があって、好むもの。自分を知る意味でも、ぜひ試してみてください。
2019年Oggi6月号「名越康文の奥の『ソロ』道」より
イラスト/浅妻健司 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
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名越康文(なこし・やすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など幅広く活躍中。著書に『SOLO TIME「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)ほか多数。