普通じゃなくたっていい、自分だけのストーリーを作り出せ
別居婚をスタートして1年が経った。あっという間だった。N.Y.と東京と行き来しながら、一人暮らしと二人暮らしも行き来する。
急に妻が数ヶ月間戻って来たり、かと思えば、「じゃあね!」と数ヶ月いなくなる。性別は関係ないと思いつつも、出張が多い旦那さんはいても、こんな極度に自由奔放な妻はそう多く存在しないよなと、たまに思う。
夫が私の実家に「娘さんをください」と挨拶に来てくれた時、私の両親は第一声「こんな自由な娘で大丈夫ですか?」と確認していた。
自他共に認める、自己愛の塊であり、自己肯定感が強すぎる私は、「大丈夫、大丈夫」と自分で言ってしまいそうだった。
今回は、そんな私たち夫婦の両側面からこの長距離別居婚を振り返ってみたい。こんな結婚生活の実態とはいかに?
◆普通ではない、夫婦それぞれ結婚生活の実態
私の目線
それは誰しも想像がたやすいと思うが、自由すぎて“最高”という言葉しか出てこない。
基盤をN.Y.に置き、マンハッタンのマンションで一人暮らし。独身時代に夫と6年同居していたので、久しぶりの一人暮らしだ。
夕飯の準備を気にすることもなく、自分に必要な最小限の買い物だけでよく、飲み会の予定もバンバン入れて、週末は友達と旅行。
しかも、「適齢期だ!」と結婚を焦る必要もないので、恋愛特有のモヤモヤも存在しない。
日本とN.Y.は朝晩が逆転しているので、夫とは出勤前か、帰宅後に電話が出来て、案外時間が合わせやすく、コミュニケーション不足になることもそこまでない。
人によっては、朝のテンションと夜のテンションが違うので、真剣な話をするタイミングが難しく、破局してしまったという友人もいたが、私の場合はいつも私が一方的に話まくるので、夫は気楽だそうだ。新しい挑戦的な環境の中で、自分に集中できることはこの上なく幸せだ。
そんな私が唯一、胸が締め付けられる瞬間、それは、夜中に疲れて帰って来た夫が、一人で頑張って家事をやっている姿をスマホの画面越しに目の当たりにする時だ。
うちの夫は本当に働き者だ。仕事が大好きらしい。
帰宅が深夜に及ぶことが頻繁なわけだが、外食が嫌いなので自炊をしている。
ヘトヘトの体で、買い物して、料理して、洗濯して… と夜中2時頃に一人で頑張る姿を電話越しに聞くと、「私がいれば、こんな思いをしなくてよかったのに」と、巨大な罪悪感にかられる。
しかし、このくらいの罪悪感は背負わないとバチが当たるような気がしている。
夫の目線
6年同居していたパートナーが急に海外へ一人移住したら… 同じ家に住み続ける側からしたら、もちろん寂しさが最初に来るようだ。
家の中に私の残像があちこちに存在する。でも同じ日常を過ごしていくしかない。新しい環境に身を置く私とは、闘う要素が違う。同じ環境の中で、欠けた存在を別の形で埋めていく。
まず最初に、ずっと禁止していたゲーム機を購入した。これがあれば夜も寂しくないと言うから。次にゲーミングチェアや新しいパソコンやら、スピーカーやら、私が購入を止めそうな物を嬉々として購入していた。
私と過ごしていた時間を、自分の趣味の時間に充てることで、夫も久しぶりに自宅での自由過ぎる時間を手に入れたのだ。
また、仕事において良い傾向があった。
「早く帰って来て」、「休みはいつだ?」という私からのプレッシャーがなくなり、納得するまで、心おきなく仕事が出来るそうだ。
30代中盤の働き盛り。ここ数年、私が仕事欲のストッパーになっていたかも知れないと思うと怖くなる。
もちろん、「帰宅したら冷蔵庫が壊れていた!」と夜中に泣きの電話が来たり、今日は連絡が来ないなと思っていると、風邪を引いて寝込んでいたり、同居していないと気付けない“協力ポイント”がいくつも発生する。
当然自ら申告しないとお互いに共有できない訳だが、夫は私に負担をかけまいと、トラブルをあまり報告してこない。
その性質に気付いてからは、毎日の短いコミュニケーションに私は細心の注意を払うようになった。声色や表情の変化を見逃さないように、同居している時の何倍も相手のことを考えるようになったのだ。
◆後悔しない未来は作り出すことができる
結婚後にお互いが自由になるというスタイルはこんな風に進んでいった。
そして、数ヶ月ぶりに私が帰国する時。一緒に暮らせる時間に限りがあるので、お互いを最優先して、本当に2人でよく話す。
「明日でいっか」という感覚がない。終わりのない同居生活とは訳が違う。「あと○日しかない!」と、同居時間を愛おしく思い、仕事のこと、家族のこと、未来のことをこんなにも集中して話せることに感謝する。
長年の交際を経て結婚した私たちは、このスタイルのおかげでより絆を強くさせている気がする。決して、別居婚を推奨している訳ではない。家族は一緒にいるべきだと今でも本当は思う。しかし、人生は一般的な法則通りに進まない時もある。何かを選んだら、何かを失う時もある。
ただ、絶対に後悔しないように、自分の未来を描いた先に、“普通じゃない”展開が待ち受けていたら、自分にしか描けないストーリーを作り出せばいいだけだ。
夫に心底感謝しつつも、私は“枠にはまらない生き方”をする。
そんな女性であり続けたいと思っている。
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古瀬麻衣子
1984年生まれ。一橋大学卒。テレビ朝日に12年勤務。「帰れま10」などバラエティ番組プロデューサーとして奮闘。2020年、35歳で米国拠点のweb会社「Info Fresh Inc」代表取締役社長に就任。現在NY在住。日本人女性のキャリアアップをサポートする活動も独自に行なっている。
Instagram:@maiko_ok_
HP