【大阪】カレー名店の新しい営業方法とは?
終息が見えないコロナ禍。飲食業界は大打撃を受け、新しい営業方法を模索しているお店も少なくありません。
カレーに関していえば、世間の需要は高まっていると感じています。テイクアウトやデリバリーに向いている料理だということもあり、カレー専門店ではないお店までもがテイクアウトメニューとしてカレーライスを始めています。
インド周辺諸国やタイなどの現地料理としてのカレー以上に、「カレーライス」の持つ可能性に注文が集まっていると言えるでしょう。
そんなカレーライスの進化において全国トップクラスだと言えるのが大阪。先日仕事で大阪に行ってきたのですが、そのときに食べたカレー店は新しい営業形態だったり、この時代だからこその意欲的な攻め方をしていたり、この難局を打破するためのヒントもあるのではないかと感じました。
今回は大阪の名店で見た新しい店舗営業形態の可能性ということをテーマにまとめてみようと思います。
いつものように名店紹介という意味もありますし、飲食業界の方に向けては何かのヒントにもなればと。それではご覧ください。
◆モダンスパイス虹の仏
ミシュランビブグルマンを獲得したカレー店としても知られる「虹の仏」。押しも押されぬ人気店であり、大阪カレーを代表するお店のひとつとも言える存在です。こちらのお店がミナミに「モダンスパイス虹の仏」を新たに出店。こちらはインド料理と他のジャンルの料理を掛け合わせたイノベーティブフュージョン的なモダンインディアンと呼ばれる料理のお店です。
コースのみ。予約限定営業。そう聞くと少しハードルが高く感じられるかもしれませんが、絶品料理が目の前でできあがっていくライブキッチンのような形でもあり、美味しさと楽しさによって特別な時間が生まれています。
例えば鰻のマサラ。鰻をカレーに仕立てた料理なのですが、イクラが使われているんです。僕は個人的にイクラが得意ではありません。しかしそんな僕でもめちゃめちゃ美味しいと思える味になっているのはシェフの素材に対する目利きの確かさと、スパイスマジックによるものでしょう。
▲鰻のマサラ
コースのシメにはカレーとビリヤニを合わせた豪華な一皿が出てきました。カンチャランカというベンガル料理を阿波尾鶏の手羽先で作るという、和と印の融合。最初から最後まで素晴らしすぎる料理に感動しました。
▲阿波尾鶏のカンチャランカ ビリヤニ添え
コロナ禍によって外食が気軽にできなくなってしまったという側面もありますが、だからこそたまにいくならちょっと贅沢をしたいという気持ちもあるでしょう。まさにそんな時にぴったり。小人数での限定営業であり、お店は席数に対して考えるとかなりの広さなので密を避けられるという利点もあります。外食の楽しさを再確認させてくれる、そんなお店です。
◆スナックGAGA
アメ村の間借りカレー店として人気を博したカリーGAGAが独立し、場所とスタイルを変えて会員制のスナックに生まれ変わりました。
会員制なので場所は秘密。お店に行けるのはアメ村時代から通っていたお客さんと、そのお連れ様のみ。
会員制と聞くとやはり敷居が高いように思うかもしれませんが、言ってみればこれは常連のみ相手にするという形でもあるわけで、お店とお客さんの間に信頼関係が無いとできない営業スタイルです。
これからの時代は人付き合いもミニマムになっていくのではないかと感じているのですが、お店に関してもそれは言えることで、広く門戸を開いて待つ今までのスタイルだけではなく、門を閉ざしてその開け方を知っている人のみを相手にするという形がもっと増えても良いと思います。
こちらも会員制だからこそ、もし万が一何かあった時に連絡を取りやすいという利点もあります。
スナックではありますがランチタイムでもディナータイムでもカレーを食べる事ができ、そのカレーも間借り時代からさらにパワーアップした独創的なもの。時折スペシャルメニューも出すのですが、和牛カリーon海老フライは大ぶりの海老フライが3本も乗り、さらに和牛のミニカットステーキまで具に入ったスペシャルカレー。満足度がとても高い逸品でした。
▲和牛カリーon海老フライ
ドリンクも色々と楽しく、おつまみもあって、全てが安い。会員で良かったと思えるお店です。
▲ポテトサラダ
◆AZU CURRY
北新地にあるヘルシーカレーの「AZU CURRY」。アーユルヴェーダセラピストであり野菜ソムリエでもある女性シェフのお店です。
日々変わる副菜と定番のキーマ、そして飲むサラダという野菜ジュースもあり、食べると身体の調子が整うカレーと言えるでしょう。毎日食べても飽きがこなさそうな美味しさのカレーなので、連日女性客でいっぱいになるのも頷けます。
こちらのお店は営業形態が新しいというわけではないのですが、シェフがレトルトカレーを監修しており、商品をいくつも展開しているという所が他店と違う所です。
全国に流通できる商品を手掛ける為に店舗営業とは異なるマーケティングやブランディングを勉強し、美容と健康をコンセプトにしている所とコラボしてレトルトカレーを企画するなど、様々な努力の結果、既に数種類のレトルトカレーを手掛けているそうです。
▲キーマカレーと飲むサラダのセット
椚座牛のごろっと牛すじスパイスカレーは兵庫県のホテルセトレとコラボしたレトルトカレーなのですが、フルーティーな欧風タイプに見えて実はグルテンフリー。香料や化学調味料も無添加とこだわっています。ヘルシーなだけではなく味もちゃんと美味しいのが素晴らしい。
カレーを作るのと、レトルトカレーを作るのではかなり感覚が違ってきます。レトルトではできないことが多いのです。その制約の中でどれだけ美味しいものを作り出すのかは、シェフ自らが健康志向の料理人だからこそ可能なこだわりを感じます。
レトルトカレーの需要は全国的に高まっています。お店に行かずとも家で食べられるレトルトカレーが武器にあるのは強いです。そしてそれがお店のカレーとは全然違うカレーであるということにも意味を感じました。
▲椚座牛のレトルトカレー
◆モヌメント
阿倍野の青空食堂で連日大行列の人気間借りカレー「堕天使かっきー」。大阪のみならず全国のイベントにも出店し、全国的なファンが多いお店です。青空食堂は立ち飲みスタイルの非常に狭いお店。半分テラス席のようなものでもあるので密室には確実にならないのですが、それでもやはりコロナ禍で時間短縮営業を余儀なくされてしまったところから、お昼営業を開始したそうです。
しかしお昼に立飲み需要は無く、何か新しい形の営業はできないか考えた結果、同じく阿倍野にある隠れ家的バー「モヌメント」で、カレーの仕込みをアテにお酒を飲んでもらうという奇想天外な営業方法を思いつき、それを実行しています。
モヌメントは青空食堂とオーナーが同じで、いわばセントラルキッチンとも言える場所。堕天使かっきーと言えば出汁カレーなのですが、その出汁をとる様を感じながらお酒が飲めます。
1時間火をかけてとった出汁、2時間火をかけてとった出汁と、随時味見もさせてくれ、料理に関する質問などがあれば気軽に答えてくれるので料理をしたい人にとってはありがたい時間でもあります。料理教室とまではいかないのですが、それに近い感覚を味わうことができるわけですから。
最終的にはその日にできた出汁からカレーを作ってくれます。青空食堂では出汁カレーと炊き込みご飯の組み合わせというスタイルですが、ある日のモヌメントはスパイス海鮮丼にガツとシャンマスカットのカレー。これに牛テールのスープや燻製とうもろこしのアチャールを混ぜて食べて行くという独創的すぎる堕天使かっきーイズムに溢れたメニューでした。
▲スパイス漬け丼とカレー
時間をかけて変化していく出汁の旨味を感じ、最後にはそれがこうなったと見せてくれるシステムは非常に面白いです。そしてそこで仕込んだものを元に、翌日の青空食堂ではまた違うカレーとなって生まれ変わっているというさらなる面白さ。
食はエンターテイメントになりうるということを、ミュージシャンでもあるエンターテイナーかっきーが体感させてくれます。
▲おつまみ
本店と別店舗での予約限定営業。会員制での営業。レトルトカレーの展開。仕込みをエンターテイメントとして成立させる。どれも特殊な営業方法です。それが可能なのはそれぞれのシェフが普通ではないことを恐れないという姿勢があり、それに対する努力を惜しんでいないからこそでしょう。
普通が普通ではなくなり、普通じゃなかったことが普通になっていく可能性のある時代。他と同じことをしているだけでは生き残るのが難しくなっていくでしょう。そんな中、どのようにして自分にしかできない方法でそれを成立させるか。
カレー先進国ならぬ先進府である大阪だからこそ、様々なやり方を見せてくれるお店がありました。このやり方が東京、あるいは他府県で可能かどうかはわかりません。受け入れられるかどうかもわかりません。しかし、何某かのヒントにはなると思うのです。
いずれにしても思うのは、外食には外食ならではの楽しさがあるということです。どんなに美味しいものを自宅で食べたとしても、外食でしか得られない楽しさは消えません。
このご時世ですから、どのお店もしっかりと感染対策をしています。だからこそ客側もしっかりと注意しなければなりません。その上で様々な外食を楽しんでいきたいと思っています。
様々なお店の個性が、より際立って行く時代となっていくことでしょう。新しい価値観を柔軟に取り入れ、進化していくお店が全国的に増えていくことを期待しています。
AKINO LEE カレーおじさん\(^o^)/
ヴォーカリスト、パフォーマーとして自身の活動の他、様々なアイドルの作詞作曲振付プロデュースを担当。ヴォイストレーナーとして後進の育成にも力を注いでいる。
音楽ライターとしても各種雑誌、ムック本などで執筆を担当。また、カレーおじさん\(^o^)/としても知られ、年間平均1000食以上のカレーを食べてきた経験と知識を活かしてTVや雑誌など各種メディアにおいてカレーについて語っている。
http://www.akinolee.tokyo/