皮膚科医による正しいホクロ除去治療
ホクロは一般的には、後天性色素性母斑のことを指します。後天性色素性母斑とは、生まれたときには存在せず、出生後に出現する色素細胞に似た、母斑細胞が皮膚で増殖した状態のことで、一種の良性の皮膚腫瘍といえます。今回は、除去した方が良いホクロや治療について解説します。
◆ホクロは取った方がいいのかどうか?
ホクロは取った方がいいのかどうか? というのが一般的によく話題になります。これは一般の方だけでなく、我々医療者でも議論が分かれる場合があるほど悩ましい問題です。ホクロを取るべきかどうかというのは、健康面だけでなく、機能面、整容面でも取るかどうかの判断が必要です。色々な考え方がありますが、以下に一般的な考え方を述べておきたいと思います。
必ず取る必要があるのホクロ
・顔や頭を洗うときに引っかかる。
・ひげを剃るときに引っかかって、出血することがある。
・洋服を着脱するときに引っかかる。
・眼瞼にあり、視野の邪魔になる。
・悪性腫瘍の可能性を否定できない。
これらの場合は、保険適応となります。
なるべく取った方がいいホクロ
・顔や首のホクロで大きく盛り上がっている。美容上問題、取った方が綺麗に見える場合が多いです。特に目の周り、鼻の下などのホクロは取った方が顔がすっきりと綺麗に見える場合が多いです。
・顔や首にホクロがたくさんある。これもホクロを取った方が綺麗に見えるでしょう。
これらは美容目的になりますので保険はきかず、全て自費治療になります。
取っても取らなくてもどちらでもいいホクロ
平坦で小さくてお化粧で隠れるようなホクロは、それほど気にする必要はなく様子を見てもいいと思われます。また体のホクロで衣類で隠れるホクロに関しては、特に取る必要ありません。ただし悪性の疑いがない、というのが前提となります。
◆がん化しやすいホクロとは?
ホクロの中で以下のようなものは悪性化するリスクが高いので、あらかじめ切除しておくことが望ましいです。
獣皮様母斑
獣皮様母斑と呼ばれる、巨大で剛毛を伴う先天性母斑(生まれた時からあるほくろ)。こちらは悪性化しやすい代表的なホクロで、メラノーマ(悪性黒色腫)という危険性の高い癌が発生する場合があります。タイミングを見て切除する必要があります。
脂腺母斑
ホクロとはちょっと印象が異なると思うのですが、頭か顔にできる白っぽくて平坦な母斑は将来的には悪性腫瘍が発生するリスクがあります。
異形母斑
形がいびつで濃淡があり、一部平坦で一部隆起しているようなホクロ。悪性腫瘍との区別が問題になったり、わずかに他の皮膚より悪性化するリスクが高いです。
これらの場合は早めに取る必要があります。
◆ホクロと悪性腫瘍の区別の仕方
ホクロと悪性腫瘍を区別する基準としては、有名なABCDE基準というものがあります。
Aというのは、Asymmetry(非対称)。左右非対称な“ホクロ”です。しかしながら、非対称かどうかを一般の方が見極めるのは難しいかと思います。
Bは、boarder(境界)。よくない“ホクロ”は、端の方が不明瞭になっていることが多いです。
Cは、Color variation(カラーバリーエーション)。黒、褐色、赤っぽい、青っぽいなど、さまざまな色が混ざっている“ホクロ”は注意が必要です。
Dは、diameter(直径)。大きい“ホクロ”は怪しいということですね。6mm以上でしたら一度注意をされた方がいいと考えています。
EというのはEvolving(進化)。変化していく“ホクロ”は、少し疑っておくといいでしょう。徐々に盛り上がっていく、大きくなっていくものには注意が必要です。1、2年で6mm以上に大きくなっているような場合は、かなり注意が必要でしょう。また急に消えたり色が薄くなる“ホクロ”にも注意が必要です。
◆ホクロ治療
ホクロはつけ薬で良くなることはなく、取りたい場合は、手術療法と炭酸ガスレーザーといった外科的な治療が必要になります。ホクロのサイズや部位から、手術治療もしくは炭酸ガスレーザーのどちらかを選択し、切除していきます。ダウンタイム(施術してから回復するまでの期間)やメリット・デメリットも含め、紹介します。
手術療法
手術療法はホクロを切って縫い合わせる方法。体のホクロや顔でもかなり大きいホクロに選択される場合が多いです。どうしても線の傷が残ってしまいます。ただ首や額などもともと線のあるところにはそれに合わせて縫合することで非常に傷を目立たなくさせることも可能です。どのようなホクロに対しても適応可能なところが手術療法の強みでしょう。
■ダウンタイム
抜糸まで通常1週間ほどかかります。
■メリット
どのようなホクロに対しても適応可能。再発が少ない。
■デメリット
線の傷が残ってしまう。
炭酸ガスレーザー
炭酸ガスレーザーとは、ホクロ・いぼ、そのほか皮膚の浅いところにある病変を焼灼するレーザーのこと。電気メスとして使われたり、止血目的で使われことも多いです。おそらく手術で最もよく使われるレーザーです。ホクロ治療においては、顔のホクロや比較的小さな体のホクロが対象となります。傷が最小限で済みますが、手術療法と比べるとやや再発率が高くなります。
■ダウンタイム
傷が治るまで1、2週間かかります。それまで創部は絆創膏やテープなどで覆っておく必要があります。
■メリット
傷が最小限で済む。
■デメリット
やや再発リスクが高い。極端に大きなホクロや深いホクロには適応困難。
◆治療法まとめ
手術療法が良いのか炭酸ガスレーザーが良いかはホクロの位置や大きさ、患者様の希望により異なります。熟練した皮膚科医、形成外科医とよく相談するとよいでしょう。
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はなふさ皮膚科 花房火月(はなふさ ひづき)先生
1979年生まれ、大阪府出身。東京大学医学部卒業。癌研究会有明病院、東京大学医学部附属病院、NTT関東病院などでの研修を経て、2011年、東京都三鷹市にてはなふさ皮膚科を開業。現在、都内近郊に6院を展開し月間の皮膚外科手術数200件以上、全国各地から患者さんがやってくる。