弁護士堀井亜生さんの恋と仕事のスッキリ法律相談 PART12
テレビで人気の弁護士・堀井亜生さん。人間関係トラブルに詳しい堀井さんが、ダメ男、ダメ上司など、Oggi世代の女性たちがハマってしまったトラブルをスッキリ解決する連載です。
第12回目は、派遣社員の成田美和子さん(仮名・30歳・年収320万円)。
前回記事▶︎交際相手がまさかの既婚者だった… どうすべき? 慰謝料は?
◆多忙な夫、寂しさのあまり実家にいたら、離婚宣告されました…
7歳年上の夫と結婚して3年になります。夫は商社勤務で、結婚してからアジア方面の担当になりました。月のうち1~2週間は出張で、私の誕生日に家にいてくれないこともあります。
夫は結婚当初は優しくて、「自分は家を空けることが多いから、寂しかったら実家に帰っていいよ」と言ってくれて、私の実家の近くに家を借りました。なので、言われた通り夫の出張中は実家に帰るようにしました。
私と母は仲良しで、母は私と服を貸し借りできるぐらい見た目も若いので、近所の人たちからもうらやましいねとよく言われます。2人とも旅行が趣味なので、私が独身の時から国内や海外の旅行に行っていました。
母は料理が上手だし、私の部屋もまだそのまま残っているので、私も実家にいる方が楽。夫が帰ってくる前の日には、母が夫の好きなおかずを作ってくれるので、それを持って自転車で家に帰って、夫を出迎えるというのがいつもの流れでした。
ところがこのご時世で夫の海外出張がなくなり、ずっと家にいるようになりました。母はいろいろと不安そうにしているので、週末は実家に泊まるようにしていたら、ある日夫に「実家と俺とどっちが大事なんだ」と激怒されて…。
浮気をしているわけではないし、食費なども浮くので家計の負担にもなりません。親孝行しているんだからと説明しても全くわかってくれず、ついには離婚すると言い出しました。私は離婚するような気持ちはないので、それなら実家に行くのを月1回ぐらいにすると譲歩しても、夫の態度は変わりません。
いつも忙しくて家にいなかったのは彼の方だし、最初に実家に帰るのを勧めた彼の言う通りにしているだけなのに、どうしてこんなに怒られるのでしょうか。私はそろそろ子どももほしいので、離婚したくありません。どうしたら彼に母を大事にしたいという気持ちを理解してもらえますか?
◆堀井先生のアンサー
美和子さんは実家に行くか行かないかだけの話だと思っているようですが、夫の態度が頑ななのは、美和子さんの実家への入り浸りぶりを見て、「これでは家族になれない」と思っているからだと思います。なので、実家に行く回数をどうするかという話し合いをしたとしても、解決にはならないでしょう。
最初は夫の出張の多さが原因だったとはいえ、美和子さんがずっと実家にいて、実家にも部屋があるのなら、美和子さんは「仲良し母娘の娘さん」のままです。これでは彼氏彼女の関係と変わりません。そこから一歩進んで彼があなたと結婚したいと思ったのは、あなたと家庭を作りたかったからではないでしょうか。
ずっと家にいなさい、自分で料理を作りなさいという話ではなく、あなたという人間の心の軸をどこに置くかという話です。おそらく美和子さんは、この相談内容に書かれているよりもさらにはっきりと、「お母さんの娘の私」として生きてしまっているのではないでしょうか。
私が扱った事例で、美和子さんのように実家に行きすぎて、夫から離婚を求められて裁判にまでなってしまった人がいました。
夫は「実家に行く回数を減らしてほしい」と言っているのに、妻は「仕事が忙しい夫が悪い」とか「一人で子育てをするのは大変だから仕方ない」とか、「夫の稼ぎが悪いから食費を浮かせるためにやっている」と言うばかりでした。
この妻は、裁判にまでなって、離婚したくないと言いながらも、結局夫の不満を理解できず、夫に歩み寄ろうとしませんでした。今回の相談を読んでいると、美和子さんもこうなってしまうのではないかと心配になりました。
美和子さんは「子どもがほしい」と言っていますが、夫からすると、実際に子どもが生まれたら今以上に実家に入り浸りになってしまうのが目に見えているのではないかと思います。今もまだ「お母さんの娘」のままのあなたは、子育ても母親に任せてしまいそうで、子どもを一緒に育てていくパートナーには思えないはずです。
その違和感を感じ取れていない以上、このまま夫と結婚生活を送っていくのは難しいと言わざるを得ません。あなたと夫のどちらが正しくてどちらが間違っているという話ではなく、それほど家族や生活についての考え方は人によって違います。違うだけに、その溝を埋めるのは難しいでしょう。
また、美和子さんと母親の絆の深さも伝わってくるだけに、「母親と夫を比べるなら必ず夫を選びなさい」とアドバイスをすることも、私からはできません。ここは思い切って夫とは別れて、一緒に実家に住んでくれる人や、妻の親と一緒に子育てしてもいいと思ってくれる人を探した方がいいかもしれません。
取材/前川亜紀 イラスト/チカツネナオ
弁護士 堀井亜生
北海道出身、中央大学法学部卒。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)ほか、各メディア、講演等で活躍。夫婦・男女問題に関するリアルな事例の紹介と解説が好評。著書に『ブラック彼氏 ~恋愛と結婚で失敗しない50のポイント~』(毎日新聞出版)がある。趣味は料理、ピアノ。一児の母。公式サイトはこちら