これまでとは違う世界を見ること=一歩を踏み出すということ
仕事もプライベートも新たな気持ちで前へ進みたい。自由な発想を取り入れられるヒントに満ちた2冊に、勇気をもらって!
1『イシイカナコが笑うなら』
「人生のやり直し」に挑む大人のための青春小説
心機一転して自分を変えたくなる季節。ただ、挑戦にはリスクがともなうし、なかなか行動に移す勇気がわかないこともある。額賀 澪(ぬかがみお)『イシイカナコが笑うなら』は、迷っている人の背中を押てくれる本だ。
主人公の菅野京平は、31歳の高校教師。母校に異動して早々不登校問題を解決するほど有能で、生徒たちに慕われているのに、彼は教職に就いたことを深く後悔していた。ある日、菅野はかつての同級生の幽霊イシイカナコに遭遇する。大学受験に失敗した日に校舎の屋上から落ちて死んだ彼女は、人間の意識を過去に飛ばす不思議な力があった。イシイカナコは菅野に「人生のやり直し」をもちかけるが…。
〈高校受験や大学受験みたいに、自分の置かれた環境をがらりと変えるチャンスが、大人にはない。足掻かない限り、いつまでも人生は同じ色のままだ〉と菅野が思うくだりは、他人事とは思えない。大人が人生の色合いを変えるにはどうしたらいいのだろうか。
菅野はイシイカナコと一緒に、2度目の高校3年生を体験しながら考えることになる。菅野が自らの無力さに向き合いながらもあきらめることなく、ほのかな希望をつかみとる結末は清々しい。大人のための青春小説だ。
『イシイカナコが笑うなら』
著/額賀 澪 KADOKAWA
青春小説の書き手として定評があり、『拝啓、本が売れません』という刺激的なタイトルのルポも上梓し話題のアラサー作家・額賀 澪の最新長編。同級生の幽霊イシイカナコと一緒に高校時代にタイムスリップした菅野の冒険と成長を瑞々しい筆致で描く。
2『コーチングの神様が教える「できる女」の法則』
自分を客観視することがキャリアアップへの第一歩
仕事でもプライベートでも自分を客観視することは、新しい可能性を切り開くきっかけになるだろう。サリー・ヘルゲセンとマーシャル・ゴールドスミスの『コーチングの神様が教える「できる女」の法則』は、女性のキャリアアップの邪魔になる悪癖について解き明かしたビジネス書だ。
12項目ピックアップされている悪癖のなかで、最も身につまされたのがその8の「喜ばせたい病」。みんなに好かれたい、みんなの役に立ちたいという欲求が強すぎて、自分を犠牲にしてまで他人に尽くしてしまう病だ。
なぜそういう病を患うかというと、女の子は従順さや愛想のよさを褒められて育ち、大人になってからも他人のニーズを読み取って応える能力で評価を受けることが多いから。本書が提案しているように、自分のコントロールできる範囲を見極めて行動を変えてみることができたら、これまでとは違う世界が見えるはず。
『コーチングの神様が教える「できる女」の法則』
著/サリー・ヘルゲセン&マーシャル・ゴールドスミス 訳/斎藤聖美
日本経済新聞出版社
よい仕事をしていれば自然と周りの人が認めてくれると思い、自分が何を達成したかをはっきり言わないなど、女性のキャリアアップのさまたげになる12の悪癖を解説し、行動を改める方法を伝授する。仕事で行き詰まったとき、参考になるヒントが満載。
2019年Oggi6月号「『女』を読む」より
撮影/よねくらりょう 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
TOP画像/(c)Shutterstock.com
石井千湖さん
いしい・ちこ/書評家。大学卒業後、約8年間の書店勤務を経て、現在は新聞や雑誌で主に小説を紹介している。著書に『文豪たちの友情』(4月13日発売予定)、共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』がある(すべて立東舎)。