スパイスカレーや間借りカレー、イベント…【2019年】カレーまとめ
2019年も終わろうとしています。今年は近年注目度を増しているカレー業界の盛り上がりが一段階と言わず、二段階くらい上にレベルアップした一年だったように思います。今回は2019年の締めくくりに、カレー業界がどのように変化したのか、一年の総括的な意味も含めて、5つのトピックにまとめ、さらに個人的に特に印象に残っているカレーをご紹介したいと思います。
1.スパイスカレーの全国的認知度上昇
2019年のカレー業界を見た時、まずはスパイスカレーがTVなどのメディアで取り上げられることが急増し、全国的な認知度が上昇したことがあげられます。
今年メディア登場回数が多かったカレーのお店といえば、大久保の「魯珈」でしょう。魯肉飯と南インドカレーをベースにしたオリジナルカレーを合わせる自由なスタイルは、実にスパイスカレー的。年末にはミシュランビブグルマンも初受賞し、ただでさえ人気店だったのがとんでもない人気となり、遂には開店3周年記念の特別営業日に「始発で食べに行って売切で食べられなかった」という新たな伝説を生みました。
▲2種カレー(ラム、チキン)、ぷち(野菜コルマ)
レギュラーメニューが安定して美味しいことに加え、週替わりのカレーも毎回美味しいのでできる限り、その全てを味わいたくて、僕は2019年も毎週のように通いました。今までも東京スパイスカレー界を引っ張る存在でしたが、全国のカレーを盛り上げる大きな存在として2020年以降も活躍されること間違いなしの注目店です。
2.間借りカレーの増加
間借りカレー。バーなどの飲食店の空き時間を借りてカレーを出すお店のことですが、この店舗数が飛躍的に増えた一年だったと思います。僕がTBS「マツコの知らない世界」に出演し、間借りカレーの世界をプレゼンさせていただいた2018年当時から比べると、そのお店の数は都内だと2倍から3倍近くまでに増えました。
様々な個性を持つお店が誕生し、間借りから実店舗オープンという、大阪の人気店によく見られる流れが都内でも一般化しつつあります。
一方では実店舗ではなく、間借りのまま2店舗を開店させた飯田橋の「極哩」のようなお店もあり、カレーの自由度もさることながらお店の形の自由度も上がってきたように感じています。
▲極 the WORLD
極哩のカレーは昔ながらの欧風カレー的なビーフカレーと、今時のスパイスカレー的なキーマ、そして日替わりの創作カレーの3本立て。スパイスカレー全盛の現在にあって欧風カレーを投入してきたあたりが個性的であり、全てのカレーが美味しいので素晴らしいです。
間借り営業は開店のハードルが低いことからチャンスが増えたという長所がある反面、ハードルが低いが故の危険な部分も相変わらず孕んでいるのですが、上記の極哩は大手の飲食関係企業である吉野家ホールディングスが手がける軒先レストランというサービスを利用したものであり、様々な面で安心です。つまりは日本有数の大手企業も間借りカレーに注目しているとも言えます。今後も発展していきそうな分野です。
3.第二次南インド料理ブームの到来
昔は日本でインドカレーといえばナンで食べる濃厚な北インドカレーがほとんどであり、それとは全く違う形の南インドカレーがあると全国的に認知が広がったのは2010年前後にアーンドラキッチンやエリックサウスなどの名店のオープンが続いた頃でした。
その時期に都内では南インド料理店が急増したのですが、その当時を第一次南インド料理ブームとするならば、2019年はその当時と同じか、それを超えるレベルで南インド料理店が増えた、第二次南インド料理ブームと言える年でした。
元々は八重洲周辺に南インド料理の名店が集まっているのですが、2019年は日本一のカレー激戦区である神保町エリアに名店が誕生しました。小川町駅近くにオープンした「三塔舎」は名店出身のシェフによるお店で、人気ドラマ「孤独のグルメ」でも最近取り上げられたのは記憶に新しいところですね。
▲サントウシャミールス
カレーの街という以上に〝カレーライスの街〟である神保町エリアにおいて、カレーライスしか知らなかった人に衝撃を与えたお店だと言えるでしょう。さらには八重洲エリアの人気店「バンゲラズキッチン」が神保町にお店を出したのも画期的でした。
▲ナンドゥカレー、マッタライス
こちらは南インドでもマンガロールというマニアックな地域の郷土料理に焦点を当てたお店です。銀座にある本店はミシュランビブグルマンを初獲得し、インド人居住者の多い船堀にも姉妹店を出すなどノリに乗っているお店です。都内で顕著だった南インド料理の動きですが、大分の別府でも南インドの波が来ていたりと、今後全国に飛び火していきそうな気配を感じています
4.カレーイベントの全国的な増加と盛況
大阪では既に定着していたカレーと音楽のイベントや、様々なカレーのお店が一堂に会するイベントがこの一年で全国的に増えました。僕が関わっているものだと「The Curry Universe」は東京のみならず福岡でもイベントを開催し、どこも大盛況でしたし、「全国カレーコレクション」も前売ソールドアウトしました。
▲全国カレーコレクション2019 全国の名店コラボプレート
さらにはこのイベントで初出しされたカレーが神田カレーグランプリで見事優勝するなど、イベントから別のイベントへとリンクしていきました。
他にもカレー細胞さん主催の「SHIBUYA CURRY TUNE」は毎月レギュラー開催され、こちらは渋谷のDJ BAR東間屋で地方のカレーの名店が出店し、それを食べられるというもの。
▲全国カレーコレクション2019 静岡ロストコーナーの3種あいがけ(SHIBUYA CURRY TUNEにて)
このように全国の名店の味を食べるチャンスが都内でも増えたことにより、カレーマニアの全国的な交流も少しずつ深まってきているように感じます。そしてこの流れは今後さらに深まっていくでしょう。
5.モダンインディアンの波
グルメ界で注目されている「イノベーティブフュージョン」という新ジャンルがあります。イノベーティブとは革新的、フュージョンとは融合という意味。つまりは別ジャンルの料理の革新的融合がなされた新感覚の料理というものです。
インド料理の世界でもフランス料理など別ジャンルの調理法や発想を加えたものが「モダンインディアン」と呼ばれ、世界的にも認知度が上がってきています。日本ではまだまだカレーは単品料理という認識が強いのですが、コースの中で今までに食べたことがないような形でカレーが出てくる楽しさは、カレー好きなら一度は味わっておきたいものです。
今年僕がインドに行った時にモダンインディアンの最高峰と呼ばれる「インディアンアクセント」に行ってきたのですが、非常に良い経験となりました。
▲インドはデリーの名店「インディアンアクセント」のカダイチキン
本場のモダンインディアンを味わって思ったのは、日本のモダンインディアンも負けていないということです。福岡の中間市で個性が強すぎる名店としてマニアに知られる「KALA」のおまかせコースのクオリティは世界に通用するものです。また、千葉駅近くにある「ベンガルタイガー」では、一般的にはコース仕立てでそれなりの値段もするモダンインディアンを、単品でしかも廉価で感じさせてくれるということで、モダンインディアンに興味はあるものの高価な料理に手が出しにくいという方におすすめのお店です。
▲ベンガルタイガーバターチキンカレー、ロティジャラ
他にも渋谷の「エリックサウスマサラダイナー」でもモダンインディアン的コースを味わえますし、銀座には「SPICE LAB TOKYO」が開店するなど、モダンインディアンの波が来ていることを感じます。
2019年のカレー業界をまとめるには他にも色々と取り上げないといけないくらいに多種多様の盛り上がりが見られたのですが、いずれにしても言えることは「カレーの多様性」が認知されてきたということと、全国的な広がりが確実にあるということでしょう。
ブームと言われると一過性のものとなってしまいますが、カレーは元々強い人気があった分野です。一過性のブームというよりは、中長期的にカレーがさらなる発展をしてきていて、それに対する注目度が高まってきているのを感じています。
2020年にはオリンピックもあり、世界から多くの人が東京に集まります。今年が日本のカレー文化の面白さと美味しさが世界に広まる一年になることを期待しています。
AKINO LEE カレーおじさん\(^o^)/
ヴォーカリスト、パフォーマーとして自身の活動の他、様々なアイドルの作詞作曲振付プロデュースを担当。ヴォイストレーナーとして後進の育成にも力を注いでいる。
音楽ライターとしても各種雑誌、ムック本などで執筆を担当。また、カレーおじさん\(^o^)/としても知られ、年間平均1000食以上のカレーを食べてきた経験と知識を活かしてTVや雑誌など各種メディアにおいてカレーについて語っている。
http://www.akinolee.tokyo/