331人が回答! 海外旅行中に薬を持って行く?
◆3分の2が海外で下痢・腹痛になったことがある
まず、「海外で下痢・腹痛になったことがあるか」を聞いてみると、63.4%が「はい」と回答。ほぼ3分の2の人が下痢や腹痛を起こしていたことがわかりました。
途上国はまな板や包丁が汚染されている場合が多く、サラダやカットフルーツなどには食中毒を起こす菌が付着している可能性が高く、ときには薬剤耐性菌が体内に入る機会にもなりえます。また、惣那先生いわく、「屋台での食事もリスクが高い」と。
◆8割以上が海外旅行に薬を持って行く
次に、「海外旅行に薬を持っていくか」を質問したところ、84%が「はい」と回答し、高い割合で薬を持っていく人が多いことが判明。
市販の薬や医師に処方された薬を、万が一のために持って行くのは悪くありませんが、問題とされるのは使用法。特に抗菌薬においては、以前処方されて余った薬を持参し、自己判断で中途半端に服用することは、絶対にいけません。薬剤耐性菌をつくってしまうことにつながってしまいます。
◆約43%が抗生物質(抗菌薬)を持参または服用したことがある
最後に、「海外旅行に抗生物質(抗菌薬)を持参したり、服用したりしたことがあるか」を尋ねると、約43%が持参または服用している結果に。
抗菌薬の服用にはメリットとデメリットがあることを頭に入れておくことが重要。抗菌薬は医師の説明通りに正しく服用すればメリットがありますが、自己判断で服用した場合には以下のデメリットが考えられます。
【海外旅行で抗菌薬を服用するデメリット】
1.薬剤耐性菌が体内に残り、腸内で増殖し国内へ持ち込むことになる
身体に有益な菌も死に、現地で体内に入った抗菌薬が効かない薬剤耐性菌だけが残り、腸内で増殖。身体の中に持ったまま日本へ持ち込む可能性が高くなります。
2.マラリアや腸チフスなど命にかかわる感染症の診断と治療が遅れる
旅行者下痢症でない下痢の場合、抗菌薬を服用することでかえって診断や治療が遅れることも。特にマラリアや腸チフスの場合、命にかかわることもあります。
3.抗菌薬の服用による下痢と区別がつかなくなる
抗菌薬を服用すると腸内細菌のバランスが崩れて下痢が起こることも。熱が出たからと抗菌薬を自己判断で服用すると、他の原因の下痢症と判断がつかなくなります。

【調査概要】
調査:AMR臨床リファレンスセンター(厚生労働省委託事業)
対象:東南アジア、南アジアへの海外旅行経験のある一般人 331人(男女 各50%)
調査期間:2019年6月
「AMR」って何? 海外旅行でのAMR対策8か条
海外から持ち込む菌で、とくに増加しているのが“インバウンドAMR(薬剤耐性)菌”。現在、薬剤耐性のことを世界的に「AMR(Antimicrobial Resistance)」と呼んでいます。
細菌などの微生物が増えるのを抑えたり壊したりする薬が抗菌薬(抗生物質)ですが、微生物はさまざまな手段を使って薬から逃げ延びようとします。その結果、薬が微生物に対して効かなくなることを「薬剤耐性」といいます。
抗菌薬が使用されると、その薬が効く菌が減少し、AMRをもった菌が生き残るため、それらの菌が体内に増殖し、人や動物、環境を通じて世間に広がります。抗菌薬は大切な薬ですが、適切に使用することが大切。
海外から持ち込まれるAMRで、現在事例が増えているESBL産生菌(薬剤耐性菌の一種)は大腸菌の仲間なので、腸内にいる分には感染しても自分自身には症状はありません。楽しく旅行から帰ってきたものの、気がつかないうちに日本国内へAMR菌を持ち込んでいることになってしまいます。

今回、海外旅行でAMRに感染しないよう、惣那先生に「海外旅行でのAMR対策8か条」を教えてもらいました。
【海外旅行でのAMR対策8か条】
1.現地ではまめに手洗いを行う
感染を防ぐ手段は手洗い。海外では手洗い場が少ないが、ウェットティッシュよりも水で流すことが効果的。

2.加熱した食品を食べる
野菜サラダやフルーツなど生ものには菌がついていると考えて。特にカットされたものはリスクが大きい。
3.屋台の食品を食べない
菌に汚染されているリスクが高く、加熱されたものでも口に入れない方が良い。
4.ペットボトルや密閉容器に入った飲料を飲む
途上国では水道水や氷は口にいれず、水分をとる場合はペットボトルや密閉容器に入ったものをとる。
5.旅行の1か月前にはワクチン接種を行う
ワクチンで予防できる感染症は多くあるので事前に予防接種を行う。マラリアなどワクチンはなくても予防薬がある感染症もある。トラベルクリニックを1か月以上前に受診するのがおすすめ。

6.軽い下痢なら整腸剤で様子をみる
下痢を起こしてもすぐに抗菌薬をのまずに、軽い場合は整腸剤などで様子をみる。軽い場合は2~3日で自然治癒することが多い。
7.ひどい下痢になったら現地の医療機関にかかる
下痢が重い場合は、現地の薬局で薬を買ったり、自己判断で抗菌薬を服用せず、医療機関にかかる。
8.自己判断で抗菌薬を服用しない
熱や下痢で抗菌薬を自己判断で服用しない。抗菌薬は必ず医師の指示通りに服用する。
もうすぐ夏休み! 海外旅行の計画を立てている人も多いのでは? 惣那先生が教えてくれた「AMR対策」をしっかり行いながら、旅行を楽しみましょう♡

お話を伺ったのは… 医師 惣那賢志先生
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国際感染症センター 国際感染症対策室 医長 国際診療部 副部長(併任) 国立国際医療研究センター 国際感染症センターに2012年より勤務。海外から持ち込まれる感染症、エボラ出血熱などの新興再興感染症、 デング熱などの動物由来感染症を専門にしている。