熱中症は全ての年代の人が注意しなければならない「国民病」
地球温暖化の影響で、年々気温が上昇している日本の夏。気温の上昇に伴い、熱中症を発症する人も増えています。
熱中症は健康にまったく問題がない人でも発症することがあり、応急処置や治療が遅れると死に至るケースもあります。
【目次】
・熱中症と熱射病、その違いは?
・熱中症と熱疲労、その違いは?
・熱中症と熱痙攣、その違いは?
熱中症と熱射病、その違いは?
熱中症とは、気温や湿度が高い場所に長時間いることで体温が上昇したり、多量の発汗によって水分と電解質が失われる病気のことです。
私たちの身体には生まれながらにして、外気温の影響を受けずに体温を維持するための仕組みが備わっています。具体的には、暑い場所にいると汗をかいて皮膚の温度を下げると共に皮膚を走行する血管が拡張して血液を冷まし、体温を下げる仕組みが作用します。反対に寒い場所に行くと、皮膚の血管が収縮して血液の熱が放散するのを防ぎ、体温を上げる仕組みが作用します。
ところが、長時間にわたって暑く、汗が蒸発しにくい湿度の高い場所にいると、このような体温調節の仕組み上手く働かなくなり、体温が上昇して熱中症を引き起こすのです。
体温調節機能の破綻によって引き起こされる熱中症は、重症度によってⅠ~Ⅲ度に分類されており、最も軽症の熱中症をⅠ度、中等症をⅡ度、重症をⅢ度とします。
熱射病はⅢ度の最も重篤な状態
熱中症は脱水や体温の状態によって徐々に症状が変化していくのが特徴です。発症初期のⅠ度の段階では、水分と電解質の不足によるめまいや筋肉の硬直などの症状が現れ、皮膚血管に血流が集中することで脳への血流が低下し、失神を引き起こすことがあります。
一方、さらに進行したⅡ度では重要な臓器への血流量が低下することで、頭痛や吐き気、倦怠感、脱力感などの症状を引き起こします。
そして、Ⅲ度ではⅡの症状に加え、意識障害やけいれん、肝機能障害、腎機能障害などの非常に重篤な症状が引き起こされます。
熱射病は、脱水と血流量の低下がさらに加速し、脳などの重要な臓器への血流が著しく低下することで強いダメージを受け、意識障害や肝臓、腎臓の機能が低下する状態となったものを指します。また、体温調節機能も著しいダメージを受けるため、体温が40度以上に上昇するのも特徴です。
熱射病にまで進行した熱中症は、命の危険も
病院での集中治療を行っても命を落としてしまうケースも少なくありません。また、回復したとしても脳や肝臓、腎臓などに重大なダメージが加わるため様々な後遺症をのこすこともありますので、熱射病に進行する前の段階で適切な対処を行い、進行を防ぐことが大切です。
熱中症と熱疲労、その違いは?
熱疲労も熱射病と同じく、熱中症の一つのタイプ
熱疲労は重症度の分類では中等症のⅡ度に該当し、できるだけ早く応急処置を行う必要があります。
体温の上昇に伴って皮膚の血管が拡張して血液が集めるため、脳や心臓などの重要な臓器へ送られる血液量が低下し、めまいや頭痛、吐き気、倦怠感などの症状を生じるのが特徴です。
体温調節機能も低下するため、体温はやや上昇しますが、40度以上の高熱になることはまずありません。また、脳への血流低下によるダメージも引き起こされますが、意識障害や錯乱などの重度な神経障害は見られません。
多量の発汗による脱水の悪化が原因でⅠ度から進行しますので、さらなる悪化を防ぐには、身体をしっかり冷やして十分な水分補給をすることが大切です。また、発汗によってナトリウムなどの電解質も失われるため、身体に必要な電解質を含んだ経口補水液やスポーツドリンクなどを飲むようにしましょう。
熱中症と熱痙攣、その違いは?
熱痙攣は、主にⅠ度の熱中症で見られる症状の一つ
多量の汗をかくと、体内からは水分だけでなく電解質も同時に失われます。このため、汗をかいた後は電解質が含まれた水分を摂ることが勧められています。
しかし、十分な電解質が含まれない水分を多く摂ると、血液中のナトリウムをはじめとした電解質の濃度が低下することとなります。その結果、電解質によって収縮運動が調整されていた筋肉が上手く働かなくなり、ふくらはぎや腕、腹部の筋肉に強直(こわばり)、痛み、けいれんなどの症状を引き起こすことがあるのです。
熱痙攣は、このように電解質の喪失によって筋肉に異常を引き起こす症状のことを指します。対処法としては、水分と共に十分な電解質を摂ることです。吐き気などの症状が強く、水分摂取がままならないときは塩や塩飴を口に入れるなどの応急処置を行って、なるべく早めに病院で治療を受けるようにしましょう。
成田亜希子先生
一般内科医。プライベートでは二児の母。
保健所勤務経験もあり、医療行政や母子保健、感染症に詳しい。
国立医療科学院などでの研修も積む。
日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会所属。