離婚を経験して、相撲にハマった理由
「3月の大阪場所も現地で見るよ」「今度、相撲を見に博多行く」。そんな話をすると、けっこうな人に驚かれます。相撲好き女性、略してスー女の私は、解説を聞きながら画面越しに相撲を見るのも好きです。
ただ、本場所(※1)15日間のうち1日くらいは会場で見たい気持ちがあり、観戦チケットが取れさえすれば、いわゆる“遠征”をします。
※1 一年の奇数月に6回開催。1月・5月・9月は両国、3月は大阪、7月は名古屋、11月は博多。
遠征をする最大の理由は、力士の息遣いや音までもが聞こえる、臨場感あふれる生観戦の面白さがハンパないから。遠出することでついでに旅もできます。
また、個人的に応援している“推し力士”たちの取り組み時に、彼らの四股名を呼んで、声援を送るのも楽しみのひとつです。
NHKで中継されない、下位力士たちが取り組みをする午前から会場入りして、「琴手計ー!」「塚原ー!」「陽翔山ー!」など、彼らに声を届ける勢いで、思いっきり叫びます。
■母性が泡みたいにぶくぶくと生まれる
昨夏、二十歳の力士と知り合い、ときどきLINEをしています。高校卒業後に上京し、角界入りしたキャリア2年の若手は、私より一回り年下です。
18歳の若さで勝負の世界に身を置くことを決断し、まずは関取(※2)になるという目標に向かって精進している。毎日の稽古はもちろん、付け人として先輩関取のサポートをしながら闘うその子を応援したいなと思いました。
※2 十両という地位以上の力士。十両以下は無給で、一人前とみなされない。地位は下から序ノ口、序二段、三段目、幕下、十両、前頭、小結、関脇、大関、そして最高位の横綱。
中学卒業後から入門できる大相撲の世界で、一番若い力士は15〜16歳の年になる男子。最近は大学卒業後に入門する力士が増えていますが、今でも中学・ 高校を卒業した後、入門する子もいます。
まだ線が細くて力士の身体ではなくても、果敢にぶつかりにいく若手を見ていると心を打たれます。「この子も応援したいな」という気になって、声援するのはもちろん、日々情報をチェックしたり、後援会に入ったりと、応援者目線になるのです。
推し力士が土俵に上がるとき、両手を祈るように組んで、恐る恐る見守るときもあります。「がんばって」「勝ちますように」「どうか怪我をしませんように」など、いろいろな思いが混ざり合っています。
そんなとき、私は子どもを見守る母親になった感覚をおぼえます。とは言っても、母になった経験はないのですが、母性というものがポコポコと泡のように発生して、消えて……を繰り返す感じ?
■彼のことは愛してる。でも、彼の子どもは欲しくない
3年前の1月、離婚しました。結婚生活は2年2ヶ月で終了。ふたりの関係が破綻した理由はいくつかありますが、一番大きかったのは「子どもを持つか、持たないか問題」だったと思います。
はじめのうちは、ふたりとも「子どもはいなくていい」考えを持っていましたが、離婚の半年前くらいに彼が「子どもが欲しい」と言うようになったのです。
でも、私の考えは変わりませんでした。“彼とふたりだけで”結婚生活を続けたかったからです。彼のことは大好き。でも、彼と私の子どもはいらない。
なぜか? 彼は(当時の私にとって)好もしいタイプの男性で、ふたりで暮らす分には申し分のない相手でした。ただ、親としてタッグを組んで子育てできる相手ではない。根拠はないものの、そう本能的に感じていたのです。
彼のことは愛しているけど、彼の子どもを産みたいとは思わない。そもそも私と彼との子どもは作らないほうが正しい選択のような気がする。その思いは変わらず、「方向性が違う」という理由で別れることにしました。
■独身生活を満喫する自分に足りないもの
離婚して3年経ちますが、パートナーはできないままです(欲しいけど!)。相撲のほかにも趣味がいくつかあって、楽しいと思える仕事をできていて、自由に使えるお金もあって、遊べる人も何人かはいる。おかげで基本的には豊かな生活ができていると思います。
でも、何かが足りない――。その“何か”を自覚したのは、人から「相撲にハマりすぎている理由」を聞かれて話していたときでした。
今の私には応援する、見守る存在が身近にいません。5月には33歳を迎える年齢だと、子どもを持つ人も多いのです。母も33歳のときには、子ども3人を育てていました。彼女にとって応援する、見守る対象は私たち子どもでした。生きていくなかで、いろいろな応援をしてもらったと思っています。
子を育てるというのは、とてつもなく大きな仕事だとは思いますが、私たちの成長を見ることが、母にとって楽しみだったことは確かです。ときどき、迷うことがあります。元夫との間では子どもを持たない、と頑なに決めていたけれど、占いに行って「あなたは35歳頃に再婚して、子どもをひとり産んで大事に育てる。良い母になる」なんて言われると、ああ、そういう生き方もあるんだと想像します。
■母になっても、スー女を続けているのだろうか
大人になって生活にすこし余裕が生まれ、誰かを応援して、見守りたい感情が出てきたのを感じています。だから今は、好きな相撲を通して、力士を応援しています。
「関取になる夢を叶えてほしい」「さらに上の地位に上がる目標を達成してほしい」「とにかく怪我のないよう15日間(あるいは7日間)相撲を取りきってほしい」。
そんなふうに応援する対象があると、推し力士が良い結果を残したとき、とてつもなく幸せな気持ちになると気づきました。「自分のことのように嬉しい」レベルではなくても、幸福感は得られます。
自分がいつか子どもを持つことがあるとすると、相撲への熱が冷めるのかもしれません。でも、子どもを持ったら持ったで、「それとこれとは別」として、相撲好き女性、スー女を続けているような気がしないでもない……。
とにかく相撲は面白い! 今場所も7日目に大阪で思いっきり叫んできます。推し力士の名を。
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