旅の醍醐味のひとつは、民藝品との出会い
旅人クロシマである。
今回は悪友キタガワに誘われ、早い春を探しに大分県は湯布院までに行くことになった。
今回は地元の方が色々案内してくださるということで、一期一会を求め、おまかせノープラン。トランクひとつで待ち合わせの北九州空港に向かった。
あいにくの曇り空のもと、空港で出迎えてくださった素敵なマダム、ヨシミズさん。彼女から今回のスケジュールを聞いていたら。。。。
「日田というところにね、素敵な窯元があるの。焼き物。オンタヤキって言うんだけど」
んん? んんんん???
オンタヤキ?
おぉおーーーっ!
たしか「トビカンナ」の柄で有名な? 私でも聞いたことのある響き。
「トビカンナ」とは「飛び鉋」と書く。
みなさんも和食のお店や、もしかしたら家の食器棚の中にひとつくらい入っているのではないだろうか?
私の友人の中でもとびきり日々の料理が素敵なヒライさん(男性ですがww)。
彼のインスタでも上がっていた、この皿。そうそう、コレです。この細かい飛び柄がトビカンナ。
そして、日本を代表するトビカンナで有名なのが小鹿田焼(オンタヤキ)である!
行きます、行きます! 行きたいでーす!!!
とすぐさま二つ返事。(いや、三つ返事か?)
ノープランでもちゃんと出会いたいものに出会えるものだ。うーれーしーい!
ところでみなさん、旅といえば?
名所旧跡めぐり、ご当地フードの食べ歩きに加えてもうひとつ。
クロシマがおすすめするのは、「民藝品めぐり」だ。
日本古来からの庶民の暮らしに必要な日用品。端正を込めてひとつひとつ大事に作られてきたそれらは、どの土地にも必ず「民藝品」として存在する。竹でできた道具類、織物。そして様々な器…。
美術品ではない無名の工人が民衆のために作る日用雑器、そこに美を見出す。それがかつて柳宗悦という思想家が提唱した「民藝」。
毎日使える。そして安価。気兼ねがない。
そう! 我々の旅の土産にはぴったりなのだ! そして民藝品は全国に必ずある。もし、その産地まで訪ねることができたなら、脈々と続く歴史やらものづくりの思想までより深く知ることができる。
モノというのは。その裏にある“こころ”や“ストーリー”があるからこそ楽しい。
帰ってきて使うたびに思い出すその品を手に入れるまでの行程。それを思い出すからこそ旅の土産の器は帰ってからも趣があるのだ。
前置きが長くなりましたが、今回は大分県・日田という人里はなれた陶芸の集落を訪れてみました。
小鹿田の里は、仙人でも出てきそうな夢の世界だった!
数年前の九州地方の大きな地震とその後の天候不順による災害で山は川に沿って大きく崩れていた。まだ倒れた木々もあり、川沿いの県道もあちこち修復作業をしている真っ最中。。。
“こんなことになっていて、集落は大丈夫なのかしら??”
不安になるくらいのボロボロな道をどんどん山に向かった先に、その集落は奇跡的に残っていた。
透き通った源流の流れる合間の急な斜面に身を寄せ合うように佇む集落。美しい。
ちょうど雨がしと降る中での訪問。実は今は閑散期。火入れはもう少し後らしい。集落を歩いていてもほとんど人には出会わない。
地図によると集落にある10軒が小鹿田焼(おんたやき)の窯元。
「ギィーッ、ザザー、ゴトン」。谷間の里に川のせせらぎ以外の音が響く。
なになにー???
気になってふと川を見下ろすと、、、、
おぉおおおおお〜。
でっかいシシオドシ(のようなもの)が川の水を含んで行ったり来たり。この土地の土なんだろう。やや赤めの土が盛られた中に杵がゆっくりと何度も打ち付けられている。
これが、なん百年も前からの続く韓国から渡来の技術、「唐臼」(からうす)。
癒される。。。。
誰もいない、我々だけだ。そして川のせせらぎとギィーガッタンゴットンだけが鳴り響く。
まだ、一個も作品を見てないのに、もう確信! ここはすばらしい!
山の上の方から窯元を確認しながらゆっくりと降りてくる途中。また気づいた。
まだ春も浅い3月の上旬だというのに、どちらのお宅も素晴らしく手入れが行き届き、花が満開を迎えていた。
紅梅、白梅、ミツマタ、しだれ梅。。。ひょっとしてここは残された数少ない桃源郷なんじゃないか? ちょっと仙人とかも出てきそうな夢の世界へ誘われた気分になる。
我々が昔から心の片隅で覚えている日本の原風景。来てよかった。。。
登り窯、というのだろうか? 長屋のような釜が続いている。
「ここは共同釜で集落全体で使っているんです」
人気のない里でやっと出会った青いネルシャツの若い窯の主が答えてくれた。
木と土で作られた釜。レンガで補強された釜の入り口。大の大人がかがんで入れる大きさ。自然とマッチした素朴さが心に染み入る。最盛期はこの中で何万という皿やカップが焼かれる。
初春。今、まさに最盛期を迎える前の準備段階。
ここ小鹿田(皿山地区)は約三百年前に開窯した。その時から続く柳瀬家、黒木家、坂本家の子孫でずっと脈々と技が保たれている。
小鹿田は「一子相伝」
「一子相伝」とは、一家で一人の人にだけ作り方や秘伝を教えていく日本古来から技術の伝承方法。そう、二人兄弟ならどちらかにしかその“作り方”は教えてはならないのだ! それを厳しく守りづつけて存続しているこの小鹿田焼。
民藝とはいえ、由緒が非常に正しいのだった。
しかし、どこも人はほとんど家に籠って出てこない。作業場から動いている影が見えるだけだ。どの民家の軒先にもある、作品(商品)展示スペースも光を落とし張り紙があるだけ。
「御用の方はブザーを押してください」
商売っけ一切なし。。。笑。商人というよりずっと“作り手”、なんだね、この集落の人たちは。
それぞれの家? 窯元? の軒先の展示スペースを全て確認して回る。ここでの買い物の重要なポイントはただひとつ!
「買ったら本当に使うか????」である。
民藝は使ってナンボの世界だ。使うためにある。床の間に飾って眺めたり拝んだりするために買うのではない。
何が必要か??? 改めて自分の胸に問うてみる。茶碗も大皿も飯碗もすべてある。。。(むむむ…)
でも、そうだ! ずっと鍋の時に取り分ける器がなくて困っていた。今あるやつは少し浅い。鍋の取り分け用の器はきちんと深さがなくてはならない。
その観点から廻りながらチェック。(むむむ…)意外と浅い皿っぽいのしかないな。。
その時ふと目に留まったのが。。。
コレだ! 片口です(日本酒を入れるやつ)。
トビカンナがイレギュラーに打刻された、ちょっとシンプルでデザインもカラーもかなりオーソドックス。ただ深さもちょうどいいし、これを片口じゃなくて鍋の時に器として使うのは、もしかしてアリ? 口のところにちょうど使っているお箸も休めそうだしwww
鉄則:実際に使うものでなくてはならない!
ということで4客欲しかったけど、2客だけ購入。出てきたお母さんが丁寧に最後、底や縁をヤスリで仕上げて包んでくれた。(このごろセットで買わずに2つずつ揃えるのがクロシマの中でのトレンド。すべて揃えちゃうと次の楽しみが減るしね)
やれやれ、満足マンゾク。やっと気持ちが落ち着いた。
ところででもさっき見た窯元でどうしても気になっているものがある。一番初めの坂本正美窯でみつけた、素敵な水差し。
水差しなんて、、、絶対使わない!(そんな優雅な生活はしていない。。)。けれど、心を奪われる美しい青磁色の刷毛目。やっぱり欲しい。。。
「いいじゃん、花瓶として使えば」
さすが悪友キタガワ、買い物への一言アドバイスが冴えている! 背中を押されたクロシマ、えーい、旅の思ひ出だ! と奮発♬
消費しました! あースッキリ。
前に買ってあった竹村良訓氏の花瓶とうまい具合にマッチ。こんな感じでオブジェとしてクロシマ家に収まったのだった。買ってよかった!
やっぱり旅は帰ってからも思い出せるのが良いね!
【おまけ】
▲見てください、この美しい風景。庭先に残された失敗作(?)の数々が風景に溶け込んで素晴らしいハーモニーでした。
▲どこかの窯元の軒先に活けられていた、いきいきと伸びたネコヤナギ。
ホワホワの白い毛に覆われて中だけうっすら赤い。美しいスイーツのようだった。旅先で食べるスイーツより甘い気分になれた一瞬。
大事だいじ。こういう感覚を体に刻むって!
また行こう。すぐ行こう。川のせせらぎと唐臼の音に癒されて。
今度は窯元もじっくり勉強して自分の贔屓を見つけるのもいい。
そして、一期一会の“作品”との出会いを見つけに。
そんな気になる素敵な日本の原風景、小鹿田焼の里でした。
黒島美紀子 MKシンディケイツ代表
消費家・商業マーケティングコンサルタント
アパレル、セレクトショップ・百貨店を経て独立起業して早や10年余。数々のお買い物の実践と失敗を繰り返し、ファッション、ビューティ、グルメ、ライフスタイルの動向を消費者目線で考察。また、世界各地の商業スペースやブランドをチェック、消費活動を通じたマーケティングを行い、企業と消費者を結ぶ。