やりたい事をセルフコンサルテーションする。沖縄⇄東京の「二重生活」
「ここから先は道が細くなっています…」
機械的な女性ボイスが不安なナビをする道を、私はそっと慎重に左折する。
この頃のレンタカーは住所さえ入力しておけばどこでも連れてってくれるのがいい。レンタカーを使う醍醐味を覚えた私の旅は、このところ飛躍的に活動範囲が広がった。
さて、今の私は日本の南端、沖縄の真ん中へんの小さな小道をまさに左折したところである。
ナビの不安げなメッセージとは裏腹に、小道沿いはクリーンで、緑に囲まれたモダンな住宅が並んでいて、むしろ私の心は弾み出す。
均一的なコンクリート造りの平屋がポツンポツンとあり、どこも周りは緑で覆われて、小鳥のさえずりとともに牧歌的な気分を盛り上げる。そして、それぞれのお家には003.005など、イミシンなナンバリングが…。
住宅が何軒か集落のように固まったその奥にあるこちらの建物。
そうです。全国区でファンがいる天然酵母のベーカリー「宗像堂」さん。
友達のユーゾー君が沖縄に来るたびにSNSにアップしていて、私も是非とも寄りたかったお店。もう、沖縄にできて15周年を迎えるこのお店にはひっきりなしにお客様がやって来る。
どーれーも美味しそう! だが、一番シンプルで一番キメの細かいライ麦100%のパンが目に止まる。…100%!?!?!?!?
酸味のあるライの味を思い出すとたまらない。迷わず購入。ライ麦パンとそしてクルミとレーズンのエピバゲット。パンは冷凍しておけば1ヶ月はもつ。そして、蒸したらモチモチになる、だって!?!?!?!?…試さなきゃ!
うっそうたる木々に覆われたお店の裏には石釜が。
ここで丁寧に薪をおこし、火入れがされて毎日じっくり焼きあがるパンたち。
長く引き継がれてきた天然酵母と、3代目にもなる石釜での焼き。こんな奇跡的な組み合わせは、日本広しといえど、なかなかないらしい。それがこんな沖縄のそれも小さな小道の外人住宅街にあるなんて。そこらじゅうに広がる香ばしい香りに包まれて、“来てよかった”と心から思えた時だった。
しかし、私の旅の目的は本当は宗像堂だけではなかった。さっきこのエリアに入ってきた時、すでに視界の隅で確認済み。ハヤル気持ちを抑えて、敢えて先に宗像堂さんに行った私。。。
そう、ここです。
宗像堂が「LIQUID」というお店と共同で運営している発酵研究所。あえて存在感を消してそぅっと店内へ。…が、すぐにバレた!
「ええーっなんか、すごいの来たよー!!」(って、久しぶりに会う私に最初にかける言葉かっ、それが!!)
はい、今回のオキナワへの旅の一番の目的はここ「LIQUID」への来訪、そしてオーナーのジュンくんとの久しぶりの再会だったのです。
数年前に急に、「沖縄に住むことにしたー。クロシマさん遊びに来てねー」と、身軽に南の島へ行ってしまったジュンくん。沖縄で「LIQUID」という素敵なお店をオープンさせたというお便りはいただいていたものの、なかなか叶わず、オープンから早1年でのやっとの来訪となったのだ。
発酵という工程を経てできるお酒や商品を扱うお店。日本酒やら、ワインやら。宗像堂さんによる発酵のワークショップも度々催されるこの店内。
そして、打ちっ放しのモルタルの壁に素敵にディスプレイされたグラスや器の数々。ここが「LIQUID」だ。
ジュンくんがひとつひとつ吟味しディレクションもした、「飲む」という行為にまつわる最高の食器たちだ。素敵なお店を作ったじゃーん!
と、久しぶりの再会を喜ぶ間もなく、私はここで宗像発酵研究所を後にすることになる。お客様が来たからだ。
その女性は噂をききつけてやってきたのだろう。お酒に興味津々、ジュンくんが私との会話を中断し、接客を始めると、、次々と質問を浴びせかける。そして、ジュンくんは細かくお酒の味や醸造の過程を説明し始める。
そういう細かい会話と新しい関係づくりが楽しいのだ。ということで、私はそっとここで退出。また、明日来よう。
▲こんなブロックを使ったサインもとってもオシャレに映る。
さて、次の日。抜けるような高い青い空。今日は母屋のほうにお邪魔する(お店が二つに別れているのです)。
10時半にはトントン。
光がいっぱいに差しこむ店内はモダンとクラシックとコンテンポラリーと伝統がひしめき合っている。洗練された品々に、思わず見入ってしまう。
片口と枡の形の日本酒セット?(いやお茶かな?)お盆の上で一つの世界観が完結している。
「この塗りのスプーン、熱が伝わらなくて、熱いものは熱く、冷たいものは冷たく食べられるんだ!」いとおしそうにジュンくんがつぶやく。
上出長右衛門窯とは可愛いコラボ商品をディレクション。沖縄ならではのスパムの上に座ったお坊さん(?)がかわいい。ちなみに、去年のバージョンはシーサーだったそうだ。
ピーターアイビーのコンテイナーも。
イイホシユミコさんのコンテンポラリーな日々の食器シリーズは買いやすい値段と圧倒的な知名度で海外からのファンが押し寄せてくるそう。
実際ここには、東京だったらありえないようなデザイン界の巨匠の作品が厳密に、そして奇跡的にセレクトされて並んでるのだ。わかる人には垂涎もののオンパレード。
もともとは米軍住宅だという古い建物。シンプルでクリーンで窓も大きく、とにかく気持ちいい。大きく見切った窓から見える青い空とただただひたすら白い屋内のコントラストが素晴らしい。
実はキッチンも完備。レストランも運営したかったけれど、今はイベントの時に振る舞う程度だそうだ。もったいない、もっと使ってもらいたい!
ジュンくんが丁寧に淹れてくれた、ドリップコーヒー。
バケツいっぱいに入った氷の中でていねいに冷やされ、ひんやりとした水滴がみっしりついたタンブラーで出される(あ、ライフスタイルギャラリーだから、普段はイベント以外ではコーヒーは出てこないです…笑)。
濃いけれど、さっぱり。朝飲んだコーヒーより5倍くらい美味しかった。ありがとう。
数年前に思い立って沖縄に移住し、東京や大阪での仕事も抱えながらの二重生活。デュアルライフ。
ジュンくんは、なんだかんだで月のうちの10日は沖縄から離れている。これからの新しい生き方に合った商品開発のコンサルを大手企業にしているのだ。
彼の沖縄⇄本土の行ったり来たり自体が新しい生き方。そしてこんなところ(失礼!)での、美しい空間と素敵な品々との新しい暮らし(この暮らし方は宗像堂も一緒だ)。
LCC飛行機やら、メールやスカイプの進化があってこそできる、同時多発的なライフスタイルだ。
ジュンくんにとってのこの「LIQUID」は、お店だけれどもむしろ商売とか損得から離れた、「自分の好きなもの、やりたい事をセルフコンサルテーションしながらの実験台」だ。自己表現の場なんだ。
「そんな全然売れないし、生活していくの大変だよー」と言いながらも彼の顔つきは清々しい。
来年の春に、ここに戻ってこよう。そしてキッチンを借りて、ジュンくんと小さな晩餐会を開いて、みんなでワイワイしたいと思う。
沖縄に友達作りに来よう。
【編集後記】
お昼すぎにLIQUIDを後にしようとしていた私にジュンくんが声をかけた。
「お昼どこに行くつもり?」「え、沖縄ソバでも食べに行こうかなって…ゆし豆腐そば」「えーっ、それも美味しいけど、せっかくならここから10分のタコス屋行って欲しいなぁ、絶品。絶対クロシマさんに食べて欲しいなぁ」
わーっ! すでに口の中はタコスのスパイシーな香りを求め始める!
行く行く行く行く! というわけで、そこから10分。
来ましたよ。お店の周りには人がワサワサとたむろしている。激混みなこのお店。
その名も「メキシコ」。まんまである(笑)。
人だかりを見て、並ぶのを覚悟。そんなに行きたいとこがあるわけじゃないし、ま、いいか。
が、あれ? 店内の待ちリストに名前を書くと、上から2番目。そんなに混んでないやん。
そう、よくよく見るとワサワサの人たちのほとんどはテイクアウト待ちだった。地元の人の日曜の少し遅めのランチ。ひと皿が4ピース。それを3、4、5とオーダーして持って帰る人たちが山のようにいた。
期待がさらに高まる!
前のカップルが名前を呼ばれた。彼らのオーダーをそれとなく聞いて、勉強する。
「3皿とテイクアウトで2皿」どんだけ食べるんだーー? テイクアウトつき、この人たちも地元民だ。地元の人が待ってでも食すタコス。期待度マックス!
無くなり次第終了の店! ドリンク(水含む)は、片隅にある冷蔵庫から勝手に取り出して飲む店。
で、おまたせしました、私のタコス! こちらです。
ひとつひとつ、丁寧に揚げたタコスの皮が絶品。硬そうに見えますが、持ち上げると柔らかく、綺麗にまとまり、お口へぽん。ほぼ二口でいける!
フチの辺りはカリっとしながらも、全体的には柔らかモッチリ。よく、タコスの硬い皮で口の端を切ったりするけど、そういうのとは無縁!
絶品のもうひとつの理由は自分でかけるサルサソース。サルサソースとは言っても、ほぼトマトソース。ほんのり辛味もあるけれど、トマトの香りがひと口でお口に広がるフレッシュさ。
どんどんかける量が増え、えーい! ダイエットなんて気にしてる間か!! 「追加お願いしまーす!」タコスもソースも追加!
はい、1.5人前完食のうまさでした。
このタコスもあるし、やっぱり来年の春には絶対帰ってこよう! 沖縄へ。
なでしこのみんなもぜひ、「LIQUID」「宗像堂」そして「メキシコ」へ!
#ちいさなデュアルライフのはじまりか?
#オキナワはやっぱり何かを持っている
#パスポートなしに行ける異国琉球
初出:しごとなでしこ

黒島美紀子 MKシンディケイツ代表
消費家・商業マーケティングコンサルタント
アパレル、セレクトショップ・百貨店を経て独立起業して早や10年余。数々のお買い物の実践と失敗を繰り返し、ファッション、ビューティ、グルメ、ライフスタイルの動向を消費者目線で考察。また、世界各地の商業スペースやブランドをチェック、消費活動を通じたマーケティングを行い、企業と消費者を結ぶ。