アメリカの有名イラストレーターが手がけた犬の本に新刊が登場
マイラ・カルマンの新刊『たいせつなきみ』は、どのページをめくっても、必ずワンちゃんが登場します。中型犬がドーンとアップで登場したり、セントラルパークで小さいコが散歩してたり、大家族が囲む食卓の足もとではもっと小さいコがチョコンとおすまししていたり。
「犬が好きすぎて、絵のテーマと関係なくてもつい犬を描き込んでしまうんです」と笑うのは、マイラ・カルマン。由緒ある文芸誌『ニューヨーカー』誌の表紙や、NYタイムズ・マガジンの挿し絵などで、アメリカではすっかりおなじみのイラストレーターです。
彼女が描く街角の風景や人物は、とびきりおしゃれでスタイリッシュ。ちょっとシニカルなユーモアをちりばめた、大人の洗練と遊び心は、日本のデザイナーやイラストレーターの間でも絶大な人気が!
およそ40年にわたって描いてきた、膨大な数の絵やイラスト。中でも人気は、お利口なんだけどつい何でも食べちゃう犬・ピートのシリーズだとか、パリに住む「詩人犬」ことマックスのシリーズとか、犬が主人公の絵本は全米の学校図書館に置かれ、子どもと大人に読み継がれている大ベストセラーです。
マイラが今回日本でリリースした『たいせつなきみ』には、ピートやマックスはもちろん、MoMAとのコラボで描いた絵画や、大人向けビジュアルエッセイ本のために描き下ろしたイラストに登場した「わんちゃんたち」が続々、登場!
実家にいたテリアとか、友達が飼っていたパグ犬とか、どこかで会ったような子たちばかり。この絵の中にも、身近なワンちゃんのそっくりさんはいませんか?
「もともと、犬は大の苦手だったんです」とマイラ
今はこんなに犬好きなマイラですが、意外にも昔は犬がこわくて仕方なかったとか。
でもある日、人にこう言われました。「犬を飼いなさい」。
そんなのムリ! って彼女は思います。実はその時、最愛の夫が不治の病に伏せっていたのです。
夫チボーは、伝説のグラフィックデザイナー。マイラと一緒に始めたデザイン事務所〈M&Co.〉では、多くの定番デザインを生み出しました。たとえば「広げると内側に青空が広がっている、雨ガサ」などがそう。この〈スカイ・アンブレラ〉は、MoMAストアなどのデザインショップで見たことがある人も多いでしょう。
チボーが生きるか死ぬかという時に、犬を飼い始めるなんて!
でもマイラに何かがささやきます、「これは子供たちのためですよ」。まだ小さい娘と息子にとって、心の支えになるかもしれない。マイラはテリアを飼い始めました。
実は支えられたのはマイラも同じ。最初こそ、苦手な犬におっかなびっくり(笑)。でも、ピートと名付けたちっちゃなテリアはすぐさま心のドアを開け、幸せと笑いでみんなの暮らしを満たしてくれるのでした。
その後、悲しい出来事にも見舞われます。だけどいつもピートはそばにいてくれました。何も言わないけど、いつもそこに。
この『たいせつなきみ』は、マイラが出会ってきたわんちゃんたちをぎゅっと収めた、宝箱のような絵本です。ページをめくっていると、後半、モダンなインテリアを背景にした白いマルチーズの姿が現れます。
そう、これはこの春に急逝したデザイナー、ケイト・スペードの愛犬ヘンリー。ケイトはマイラの長年の友達であり、仕事でコラボレーションもする仲でした。何年も前に描かれたヘンリーの絵はかわいくて、同時にどこか切なさも覚えます。
粋なソフィスティケーションが魅力だけど、温もりにも溢れてる。大人も子どもも楽しめて、つい誰かに贈りたくなる一冊です。
著者からビデオメッセージも(クスッと笑えるので必見)!
マイラ・カルマンから、日本の皆さんへのビデオメッセージ!
■『たいせつなきみ 犬が教えてくれたこと』
マイラ・カルマン著・絵。原題『Beloved Dog』。手描き文字・赤井稚佳、装丁・角谷 慶。160ページ、2,000円。創元社刊。
【マイラ・カルマン プロフィール】
Maira Kalman マイラ・カルマン
1949年生まれ。『ニューヨーカー』誌のユーモラスな表紙が特に有名。大人向けのイラストエッセイ本13冊、児童書18冊を出版。メトロポリタン美術館やMoMAも作品を所蔵。日本で出版されている著書は『せかいでいちばんあたまのいいいぬ』(訳/矢野顕子・坂本美雨、リトル・ドッグ・プレス刊)、『しょうぼうていハーヴィ ニューヨークをまもる』(訳/矢野顕子、リトル・ドッグ・プレス刊)、『STAY UP LATE おこしておきたい、おそくまで』(訳/神宮輝夫、マガジンハウス刊)ほか。
Text/Mika Yoshida(翻訳家、アート・ライター、在・N.Y.)
初出:しごとなでしこ