アイディアは“盗み聞き”から!?
たじまなおこさんと言えば、昨年のCM好感度ランキング1位にも輝いたアマゾンプライム「変身する犬」篇のCMを手がけるほか、昨年配信されたネスレ日本の「いつか、会える日まで」など多くのブランデッドムービーを手がけることでも有名です。
インタビューvol.1では、人々の心に記憶に残る作品を続けるためにしていることとは、育児と仕事を両立するコツなどうかがいました。
vol.2では、ショート(ブランデッド)ムービーの魅力やインスピレーションを得るためにしていることなどをうかがいます。
Profile
たじまなおこ(CM・映画監督)
CM・映画監督。慶應義塾大学卒業後、ロンドン映画学校へ進学。2003年から2012年まで、博報堂プロダクツ企画演出部に所属し、ディレクターとして活躍。短編映画の脚本、演出、撮影監督作品においては、カンヌ映画祭、ハリウッド映画祭、ショートショートフィルムフェスティバル&アジアほか、数々の海外映画祭で受賞、入選経験あり、2012年より独立。プライベートでは2児の母
――ショートフィルムやCMの魅力とは、どんなところにあるのでしょうか。
たじま:いつも制作に携わるときは、初心に戻ってやっているので、すごく刺激が多いんです。特にCMなどは、社会の動きを敏感に読み取っている人たちの中でやっているので、すごく“気づき”をもらえるんですよ。
クライアントさんの商品を紹介するにあたっては、企業の世界観や向かう方向などを考えてわりと長い尺で自由に書かせてもらい、演出もさせてもらえるので、両方できている今はすごく幸せです。
さらにMVは、曲からアーティストさんの想いが伝ってくるので、それを映像化するのはすごく面白い作業なんです。
――そのアイディアを鍛えるために、いつも実践していることはありますか?
たじま:よく、人の話を盗み聞きしているんです(笑)。
――あはは。バスや、電車ですか?
たじま:そうです、そうです! それを実践するようになったのは、ロサンゼルスで脚本のクラスを受けていた時。
最初の授業で、「盗み聞きをしたことをノートに書いてきなさい」という課題を出されたんです。その言葉から脚本を作り上げていくんですが、こういう話し方なら、こういう人物だろう、こういった人生を送っているのだろうということをどんどん肉付けして、物語として仕上げていくんですが、これが本当にいいエクササイズになったんです。
それが本当に面白くて、この授業以来、盗み聞きが趣味になってしまいました(笑)。
――たまに、街中ですごいことを話している人っていますよね。
たじま:この前は、ラーメン屋で隣に座っていたおじさんが、電話で「2000万をどうしてくれるんだ!」って言いだしたんですよ。一体何があったんだって思うじゃないですか(笑)。そこから勝手に妄想が始まったりするんです。
結婚は一筋縄ではいかないもの。それをわかったうえで結婚したいと思う瞬間を大事にしたい
――あはは。すごく壮大なドラマがありそうですね。
たじま:その先を妄想するのが大好きなので、この仕事は本当に向いていると思います(笑)。私が手掛けさせていただいたネスレ日本の『いつか、会える日まで』も、自分が結婚することで思ったことを映像にしたんです。結婚って、一筋縄ではいかないじゃないですか。
――間違いないですね。
たじま:あはは。子供がいないときの関係や、妊娠中の関係、そして出産後の関係。いろんなチャレンジがあることを、結婚の前に知っていたら、本当に結婚していただろうかと考えたときに、それでも“YES”と言えるのってすごく大事なことだと思ったんです。もちろん、これから“NO”という日は来るかもしれない。それはわからないけど、いま“YES”と言える瞬間を大事にしたいと思い、この作品にメッセージを込めたんです。
――そう考えると、日々いろんなところにアイディアの題材があふれているんですね。
たじま:そうなんです。でも、いまはみんながスマホをみながら黙って歩いている人が多いので、盗み聞きがしずらくなったのが悩みです(笑)。
取材・文/吉田可奈 撮影/天田陸人
初出:しごとなでしこ