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LIFESTYLE

2018.06.09

人気カレー店「エリックサウス」のフリッパーズギターメソッドとは!?

11年間1日たりとも欠かさずにカレーを食べ続けているカレーおじさん\(^o^)/こと、縫田曉言さんのカレー愛に溢れたコラム。前回に引き続き、人気カレー店「エリックサウス」の最重要人物で稲田俊輔さんをゲストをお迎えしたスペシャル対談(後編)をお届けします。

日本のカレー業界に新たな風を吹かせた人気南インド料理店「エリックサウス」を手掛ける円相フードサービスの専務取締役である稲田俊輔さん

▶︎スペシャル対談前編
カレーと音楽は共通点が多い!? 人気カレー店「エリックサウス」の原点

カレーの話に至るまでに稲田さんの深すぎるグルメトークや音楽話に花が咲き、前編ではカレーの話までたどり着けませんでした。カレーの連載なのに!(笑) というわけで今回の後編では、たっぷりとカレートークをお届けします!

エリックサウスの最新店、渋谷エリックサウスマサラダイナーのお話もしっかりと。前編と合わせて読んでいただければ、面白さも倍増するかと思いますので是非!

「インドカレーは面白くないと思い込んでいた」(稲田)

カレーおじさん\(^o^)/(以下、カ):そしてやっとここでカレーの話になるわけですが(笑)、稲田さんがカレーにハマったきっかけについて教えてください。

稲田俊輔さん(以下、稲):先程も言ったとおりジャンル問わず様々な美味しいものが好きだったわけですが、タイ料理に関しては他のジャンルよりも好きの度合いが高めだったんです。

カ:それには何か理由はあるんですか?

稲:他の料理は割と想像がつくと言いますか、こうやって作ればこうなるだろうというのがわかりやすかったんです。でもタイ料理に関しては、そのパターンから外れていたというか、自分の知らないパターンで美味しかったので、タイ料理のゲーン(いわゆるタイカレーの現地での呼び名)って凄いなと思ってまして。

カ:最初はゲーンからだったんですね。でもそれがどうして南インドに?

稲:正直言うとインドカレーは面白くないと思い込んでいたんです。といっても昔のことですから、インド料理に慣れていない日本人向けに徹底的に食べやすくアレンジされたようなものにしか当たらなくて。

本場の人がやってる店だからと期待して行っても、なんだ普段食べてるカレーと印象の上でそんなに変わらないじゃん、みたいな。それが、2005年頃に京橋のダバインディアで南インド料理を初体験した時に、こんなに美味しくて面白いインド料理があったのかと気づきまして。当時はまだ都内でも南インド料理専門店が数える程しかなくて、ダバインディア、ダルマサーガラ、それから…

カ:エーラージですね。

稲:まさしく! その中でもダバインディアが僕の初体験だったわけですが、これはタイのゲーンよりさらに自分の知らない範囲で凄いことになっている料理だし、タイ料理と南インド料理って似ている部分もあって面白いし、なんなら南インド料理の方がもっと面白いなと思いまして、そこからハマったんです。

稲田俊輔 縫田曉言 スペシャル対談

カ:そうでしたか。しかし円相としては最初からエリックサウスではなく、エリックカレーが先だと思うんですが、それについてはまたどうして?

稲:僕が南インド料理にハマって、インドカレーの面白さに気づいたちょうど同じくらいの時期に、仕事でカレー屋をやらなければいけなくなったんです。それが川崎のエリックカレーなんですが、あそこは元々シェフが一人でやっているお店でして、レシピから何からその人しか知らないワンマンタイプのお店だったんです。しかし、そのシェフが失踪してしまったということで、そこのオーナーからその場所で何かお店をやってくれと頼まれたんです。

でも実は最初からカレー屋としてやろうと思っていたわけではなく、おにぎり屋が良いんじゃないかと思って進めはじめたんですが、オーナーがやっぱりカレーで行きたいと心変わりしまして。でも無理だって言ったんですよ。レシピもわからないし、カレーを仕事でやったことは無かったし。そしたらそのオーナーから「カレーなら何でも良いから好きにやってくれ」と言われまして…。

好きにやって良いのであれば、ちょうどその時ハマりだしていた南インド料理のエッセンスを、カレーライスのカテゴリに注入していけば面白いんじゃないかと考えて、引き継ぐという形で始まったんですよ。

カ:そうだったんですね。ちなみにその元々のお店の名前ってどんなものだったんですか?

稲:エリックカレーです。

カ:え? ということはその名前そのまんま引き継いだんですか?

稲:そうなんですよ。だから今でもたまに「エリックサウスのエリックってどういう意味ですか?」って聞かれるんですけどね、僕自身、意味を知らないんです(笑)。

カ:ほんとですか(笑)!? いやぁ、でもそんなところもインドっぽくて面白いですね(笑)。

稲田俊輔 縫田曉言 スペシャル対談

「当時のインディーズブームの雰囲気と、今のカレー業界の雰囲気って似てると思います」(稲田)

カ:そしてそのエリックカレーから、より南インド色の強いエリックサウスが生まれたのはどういういきさつがあったのでしょうか?

稲:はい。エリックカレーはその後、新橋と岐阜でも出したのですが(現在は閉店)、カレーライスのカテゴリの中での南インドということで、思い切ったことができなかったんですよ。どこかで思い切った南インド料理をやってみたいなと思うようになっていた所で、八重洲のあの場所で何かやらないかという話が来まして。

カ:流れに乗ったんですね。

稲:ええ。こうなったら思い切ってやろうということで、カレーマニアとしての目線で、自分が欲しいものをぶっこんでみたんです。ただ、あまり広くない場所ですし、駅の地下街という雰囲気もあり、本格的な南インド料理店と同じように営業するのは難しいと考えまして、あまりマニアにばかり向けるのも違うかということもあり、わかりやすく値段をできるだけ下げようという考えがありました。

それはエリックカレーでの経験も役立っていますし、何よりも円相のきっかけとなった居酒屋の手法が役に立ちました。

稲田俊輔 縫田曉言 スペシャル対談

カ:と、言いますと?

稲:居酒屋っていうのは、全ての飲食店の中でもとにかくコストカットの方法論ができあがっていて、徹底しているんです。そこから比べるとインド料理店というのはその努力が足りないんじゃないかと思える部分が結構ありまして。ならば居酒屋の手法でコストカットを真面目にやれば、あの場所で受け入れられる南インド料理店ができるのではないかと思い、色々と工夫したんです。

カ:素晴らしい! 僕がエリックサウスで初めて食べた時に一番凄いと思ったのは、その安さなんです。この美味しさがこの値段で食べられるお店は今まで無かったぞって。それは他ジャンルの飲食店も手掛ける円相だからこそできたものだったんですね。

稲:そうかもしれません。それから、ちょっと話はそれますが僕が音楽をやっていた頃の経験も実は活きているんですよ。当時のインディーズブームの雰囲気と、今のカレー業界の雰囲気って似てると思いません?

カ:はい! 本当にそう思います。これ、他のミュージシャンのカレー界隈の方と話しても同じ話がよく出ますもの。

編:そうなんですか? でもどのへんが似てるんですか?

稲:まずファンのスタンスというか見方や考え方ですかね。アーティストが大衆に迎合しようとするとファンに嫌われるとか。

カ:ですね。カウンターカルチャーだからこそカッコイイ的な考え方が当時のリスナーには強くありました。

稲:そうなんですよ。だからね、昔から言ってるんですが、エリックサウスのやり方はフリッパーズギター(小山田圭吾、小沢健二による渋谷系を代表するユニット)と一緒なんだって。

編:ええっ!? フリッパーズギター?

カ:元ネタありきでってことですよね。それをどう再構築するかという。

稲:その通りです。元ネタを意図的に消さずに残しておいて、わかる人がニヤっと笑ってくれればこちらとしても嬉しいんです。

「ゆっくりとした時間の流れの中で、一つの物語としてのインド料理を楽しんでもらいたい」(稲田)

カ:そこからさらにエリックサウスマサラダイナーに至るまでの流れを教えてください。

稲:紀尾井町のエリックサウスも名古屋店も、名前は同じですが違う店をやるつもりで始めたんです。八重洲ではできなかったことをやろうということで、紀尾井町では八重洲では出せなかったよりマニアックなメニューを出したり、名古屋ではドーサをはじめてみたり、やっていくうちにどんどん出てきた新しいやりたいことをそれぞれのお店でやり始めました。そしてその集大成といいますか、この渋谷の場所を見て、やりたいこと全てを出せるお店になりそうだと思ってワクワクしているんです。

カ:僕もメニューのラインナップ見てワクワクしました! ではそのマサラダイナーの売りはどのような部分でしょうか?

稲:カレーマニアから一般的な方、お一人様でも団体でも、どんな方にも楽しんでもらえる店だと思っています。多くの方が持っているインド料理という偏見をとっぱらいたいんですよ。つまり、カレーだけ食べて終わりという。そうではなく、ゆっくりとした時間の流れの中で、一つの物語としてのインド料理を楽しんでもらいたいと考えています。

カ:それがモダンインディアンコースですね。

稲:はい。必ずしもコースではなく、知識のある方ならご自分でお好きなものを前菜から肉料理、カレー、デザートと組み立てていっていただくのも良いですし、わからない方の為にはコースも有りますし、という感じです。

カ:肉料理も美味しいですもんね! グリルの肉盛り最高でした!

稲:ありがとうございます。ここも実はこだわりで、インドのタンドールを使ったグリル料理って、いわゆる肉バルやビストロで出されている肉料理に勝るとも劣らない技術と美味しさが詰まってると思うんです。マサラダイナーではそこからさらに発展して石窯を使うことにより、タンドールでできることだけではなく、タンドールではできないこともできるようになりました。ですから肉バル的な感覚で使ってもらっても、他所にはない美味しさや楽しさを存分に感じてもらえる自信はあります。カレーを食べずに終わっても構わないんです。

カ:確かに。とにかく自由度が高いお店ですよね。

稲:はい。自由度があるので何でもやりたいし、やっていくつもりです。でも、南インドの伝統の部分は大事にしないといけないと思っていますから、ミールスは原理主義的に伝統に忠実なものを出し、そうでない部分で同時に新しいことに挑戦していきたいですね。

カ:今後新たに挑戦したいメニューなどあるのでしょうか?

稲:ひとつの挑戦として、モダンインディアンコースは2か月ごとにメニューを入れ替えていく予定です。肉料理に関してもジビエという可能性もありますし、具体的に決まっているわけではないのですが、思いついたことを色々と挑戦していきたいですね。

カ:可能性は無限ですね。期待も広がります。今回は本当にありがとうございました!


エリックサウスマサラダイナーの凄さはその発想の自由度と再現する技術力の高さだと思います。

何を食べても美味しいお店なのですが、僕が一番すごいと思ったのは「豪州産ラムの赤ワイン煮込みと2種の特徴的なグレイヴィ 皿上で完成するラムカレー」というメニュー。

ラムカレー
▲豪州産ラムの赤ワイン煮込みと2種の特徴的なグレイヴィ 皿上で完成するラムカレー

まず、メインの皿にはフランス料理のナヴァランにスパイスを加えたもの。これだけではギリギリカレーなのかカレーじゃないのかという立ち位置にある料理ですが、味は十分完成された美味しさ。これに赤のグレイヴィを加えると欧風カレー的な味に変化。そして緑のグレイヴィを加えると中東料理的な味に変化。

最後に全てを混ぜるとインド料理的な味に完成するという、料理のマジックを見せられているようなとんでもない逸品です。一皿でフレンチ、中東料理、日本の高級カレー、インドカレーの4種類の味を楽しめてしまうという凄まじさ。これぞモダンインディアンといえるものであり、日本では他に食べられないカレーです。

前菜5種盛り合わせ
▲前菜5種盛り合わせ

前菜盛り合わせには本来南米の料理であるセビーチェのインドアレンジしたものが入っていたり、グリルの肉盛りにはゴアソーセージが入っていたり、日本ではまだ珍しいモダンインディアンを堪能できる素晴らしいお店であり、カレー、そしてインド料理の概念を変えてくれる名店です。

肉盛り
▲肉盛り
パロノワール
▲パロノワール

インド料理の知識が無い方でも、接客が丁寧なので質問すればわかりやすく教えてくれて安心です。普段使いの一人ランチから、特別な日のご馳走まで、どのような形でも対応してくれる夢のようなお店。稲田さんはノーベル賞受賞者を多数輩出した京都大学の出身ですが、食のノーベル賞があったとしたら稲田さんが受賞しても何の不思議もないといえる程の天才です。

それでいて非常に気さくで親切でユーモアもあり、料理人としても、プロデューサーとしても一流であり、同じ時代に生まれて良かったと思えるお方。僕は常々、料理は人柄だと考えているんですが、人間力に溢れた稲田さんだからこそのエリックサウスであり、エリックサウス卒業生のカレー界での大躍進も、稲田イズムを受け継いでいるからだといえるでしょう。今の時代を生きる美味しいもの好きはすべからく、エリックサウスマサラダイナーへ足を運ぶべし!

エリックサウスマサラダイナー

東京都渋谷区神宮前6-19-17 GEMS神宮前 5F
営業時間:[月・水~土]11:30~15:00 17:30~23:00(L.O.22:00)、[日・祝]11:30~22:00(L.O.21:00)
定休日:火曜日

初出:しごとなでしこ

AKINO LEE カレーおじさん\(^o^)/

ヴォーカリスト、パフォーマーとして自身の活動の他、様々なアイドルの作詞作曲振付プロデュースを担当。ヴォイストレーナーとして後進の育成にも力を注いでいる。音楽ライターとしても各種雑誌、ムック本などで執筆を担当。また、カレーおじさん\(^o^)/としても知られ、年間平均900食以上のカレーを食べてきた経験と知識を活かしてTVや雑誌など各種メディアにおいてカレーについて語っている。
http://www.akinolee.tokyo/

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Oggi12月号で商品のブランド名に間違いがありました。114ページに掲載している赤のタートルニットのブランド名は、正しくは、エンリカになります。お詫びして訂正致します。
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