現役のアラサー女性弁護士が解説する今知っておきたい法律問題や相談内容にお答えする連載、第3回目は「婚約破棄」について。
1回目の記事はなでしこ法律相談室「ネット上に悪口を書かれた! 消す方法はある?」、
2回目の記事はなでしこ法律相談室「これってネットストーカーなの?」でした。
今回は29歳の女性からの、聞くも涙、語るも涙のご相談です。
相談「突然の婚約破棄! どうしたらいいの?(涙)」
「私は29歳のOLです。去年、大学時代から付き合っていた彼から、ついにプロポーズされました。サプライズで婚約指輪を渡され、お互いの実家へ挨拶に行き、結納を済ませ、これぞ幸せの絶頂♥♥だったのですが…。いよいよ挙式まであと3ヶ月、というところで突然、“他に好きな人ができたから別れてほしい”と…婚約破棄を言い渡されたのです。
結婚準備を進めるうちに喧嘩が増え、険悪なムードになることもあったとはいえ、まさかまさかで…。しかも、激務の彼を支えたいという気持ちから、私はもう仕事も辞めてしまっていたのです…。これからどうしたらいいんでしょう? 彼のことを許せそうにありません」
さっそく働く女性の仲間のひとり、弁護士なでしこ先生に聞いてみましょう。
はたして、“婚約”とはいつ成立するのか
facebookでもよく目にする【ご報告】婚約しました♥の文字。
ですが入籍に至るまでには、プロポーズ、婚約指輪の購入、親への挨拶、結納、式場の予約、などなど、様々なイベントがありますよね。
では、このうちどのタイミングで“婚約した”ということになるのでしょうか。
いつ婚約が成立するかついて、実は民法などの法律には特に定めがありません。
この点について裁判所は、親への挨拶や結納など形式的な儀礼の有無にかかわらず、誠心誠意を以て将来結婚しようという合意があったと認められれば、婚約が成立したと判断しています。
精神的なショックについて、慰謝料請求できるの?
婚約が成立して幸せいっぱいの時期に突然、婚約破棄を言い渡されたら、本当につらいと思います。そんなことがあったら、彼に慰謝料を請求してやりたい!と憤る気持ちはよくわかります。
結婚するかどうかは個人の自由とも思えるし、慰謝料請求はできるのでしょうか。
もちろん結婚は個人の自由なので、婚約をしたからといって、入籍することまでを法律によって強制することはできません。
ですが、本人同士の約束があった上で、相手から正当な理由もなく婚約を破棄された場合には、慰謝料を請求することが可能です。
今回の場合、“他に好きな人ができた”というのは、婚約を破棄する正当な理由とはいえませんから、慰謝料請求が認められる可能性が高いです。
ケースによって事情が全く異なるので、相場をお伝えするのは難しいですが、おおむね10万円~300万円程度の範囲で認められているようです。慰謝料額を決める際には、入籍に向けた準備の程度(結婚式などの準備、家族や知人への紹介状況等)や破棄の理由(浮気、暴力、性格の不一致等)、その他、交際期間、同棲期間、妊娠の有無、年齢等が考慮されます。
経済的な損害については、損害賠償請求できるの?
婚約破棄によって損をしたお金についても、当然取り戻したいですよね。
では、どんなことは認められるのでしょうか。
◆結婚式場・新婚旅行のキャンセル料等
これは明らかに婚約破棄により生じた損害ですから、当然認められます。
◆仕事を辞めたことによる逸失利益
一定程度認められています。しかし、最近では、結婚により仕事を辞めることが普通ではなくなっており、自分の人生の選択という側面が強くなっています。したがって、彼から仕事を辞めるよう頼まれたわけではなく、今回のように、自らの意思で彼のためを思って辞めたという場合には、損害賠償請求が認められない場合もあります。
これまでお話してきたとおり、入籍までしていなくても、正当な理由もなく婚約破棄がされれば、損害賠償請求の話が出てきます。なかなか難しいことではありますが、入籍前と言わず、婚約前に、相手がどんな人かよく見極めておきたいですね。
初出:しごとなでしこ
弁護士なでしこ
有名大学ロースクールを修了後、司法試験に合格。都内法律事務所で働くアラサー弁護士女子。業務分野は企業法務から一般民事まで幅広い。趣味は旅行。今は『東京タラレバ娘』にハマり中。