お茶界に、サードウェーブ!?
茶道とはひと味違う、「セッション」を体験
寒波が日本中を覆った先週末。
私は朝から青山を目指した。
到着したのは、古いマンションの一室。
扉を開けると、そこには別世界が広がっていた。
丸若屋。
「日本の伝統工芸の再生屋」として名を轟かせる、業界の鬼才・丸若裕俊が主催するアトリエだ。
週末に彼がわざわざ私を招いて行ってくれるという、秘密(?)のセッション。
それが来訪の目的。
通されたのは、小さな部屋だった。
冬特有の遠い薄陽が、部屋の中の造作を際立たせる。
部屋中を包み込むお香のような香りと、時を刻む無骨な振り子時計のカチカチ音。
不思議と気持ちも凛となる。
そして、そのセッションは始まった。
お茶だ。
彼は、ひょんなことから九州で若手茶師と出会い、お茶の世界に足を踏み入れた。そして改めてお茶のすばらしさに気づき、日本や台湾で自ら茶畑を買い、できるだけ直接的に日本、そして世界に提案し始めたのだ。
「茶道となると、お茶のおいしさより、お作法が先にきちゃうでしょ? 僕は純粋に茶葉のおいしさ伝えたい。だから、僕がやりたいのは“茶道”ではないんです」
「お茶を飲む時、淹れ方をくどくど言ったりするけれど、お茶は別にぬるま湯じゃなくても、熱湯で淹れても本当はおいしいんですよ」
なんてことを話しながらも、彼はアンティークのストップウォッチを目の端で確認している。
1分くらい蒸らすのは、やはり美味しさのコツみたいだ。
そして彼は注意深く最後の一滴まで急須からお茶を注ぎ、ちいさな茶器を私の前に置く。
一煎目は深く甘く、二煎目は芳しく。
今回、いただいたお茶は三種類。
「釜炒り茶」「紅焙じ」「玉緑茶」
ちょっと間違えば、邪道になり兼ねないギリギリのハイテクニック×ハイクオリティ。でも決して儀礼的ではない普通の所作。
「よりおいしい、質のよいお茶を、カジュアルにみんなに味わって欲しい…」そんな彼の気持ちが強く伝わるセッションだった。
お茶の伝統と現代人のライフスタイルと嗜好が絶妙に融合。
まさに、これぞお茶界のサードウェーブだ。
繊細な仕事は、人間の欲求の原点を熟知してこそできる
実は彼は、昨日の夜中、台湾の山奥のお茶畑での茶葉チェックから戻って来たばかり。
ダウンを着たまま、倉庫の床にセンベイ布団を敷いて寝泊りし、現地のオジさんオバさんと酒を酌み交わし、そして最高級の茶葉をコップのまま、飲みくらべたりしていたそうだ。
「これはね、昨日タンさんから貰って来たばかりのおいしい烏龍茶でできた紅茶」
愛でるように、茶さじで茶葉を掻き出して最後に淹れてくれたのは確かに紅茶の香り。とろけるように甘く香ばしい。
人間の欲求の原点をわかっているからこそ、人間の欲求の頂点のような、この繊細な感度を提案できるのだ。どっちもわかっているって大事だね。
できるだけ、平素にシンプルに。でも感度高く。
その気持ちは茶葉と同時に彼がプロデュースしている茶器も同じ。
「ほら、このお急須、蓋が広いからとても淹れやすいし、洗いやすいんだよ」
こだわり抜いた新しいお茶の世界がさらに拡がる。
奇しくも、茶道の世界は正月の初釜。
私も彼のこのお茶のニューウェーブの世界を、少しずつ手伝い、一緒に提案していこうと思った。
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初出:しごとなでしこ
黒島美紀子 MKシンディケイツ代表
消費家・商業マーケティングコンサルタント
アパレル、セレクトショップ・百貨店を経て独立起業して早や10年余。
数々のお買い物の実践と失敗を繰り返し、ファッション、ビューティ、グルメ、ライフスタイルの動向を消費者目線で考察。また、世界各地の商業スペースやブランドをチェック、消費活動を通じたマーケティングを行い、企業と消費者を結ぶ。