芥川賞・直木賞の選考会。会場は築地の料亭・新喜楽
正月もはや半ば。毎年この時期になると、芥川賞・直木賞はどの作品が受賞するのか、が出版界の注目事となります。今回は、この「しごとなでしこ」の運営元である小学館刊行の作品、森見登美彦氏の「夜行」が直木賞にノミネートされていることもあり、発表が待ち遠しい限り。選考委員会は1月19日(木)17:00より開催。その会場が築地の料亭、新喜楽であることはつとに知られています。
新喜楽は築地場外市場の新大橋通りを隔てた向かいに位置します。今回のこのコラム、新喜楽がらみで築地の料亭をテーマに綴ることにしましょう。
▲新大橋通り沿い、築地市場の向かいに「威容」を誇る新喜楽。芥川賞の選考は1F、直木賞の選考は2Fの座敷で行われるらしい。
まずは、「料亭」の定義、というか、意味するところは? デジタル大辞泉には「主として日本料理を出す高級な料理屋」とシンプルに書かれています。イメージ的にはこれに加えて、個室が充実し、専門の接客係によって会席料理が提供され、接待・商談等に多く用いられる、といったところでしょうか。また、誰がいつ名づけたのか、「日本三大料亭」という存在が広く知られています。三大料亭とは、吉兆、金田中、そして新喜楽です。
築地、銀座界隈では今も多くの料亭が営業中。新橋花柳界=東京新橋組合のホームページには、新橋料亭・茶屋として8軒のお店が紹介されています。HP掲載順に書くと、新喜楽、金田中、東京吉兆本店、米村、松山、やま祢、小すが、ふぐ料亭Wanofu(わのふ)、の8店。このうち築地アドレスに位置するのは新喜楽(4丁目)、小すが(2丁目)、ふぐ料亭Wanofu(4丁目)の3店。他5店は銀座7、8丁目に集中しています。また、少々遡ると、築地4丁目にあった立花は2009年に閉店、同じく4丁目にあった河庄双園(かしょうそうえん)は、つい先日2016年9月に閉店してしまいました。この河庄双園は65年続いたとのこと。女将からの「閉店のお知らせ」がHPに丁寧に綴られています。
ほかに築地で名のある料亭としては、「つきぢ田村」(2丁目)、「つきじ植むら」(1丁目)が挙げられます。そして明石町の「つきじ治作」も隅田川沿いに800坪という広大な庭園を擁する料亭として著名。名物は水たき。テレビ東京系の番組「和風総本家」の収録もこの店で行われています。
▲つきぢ田村は、築地駅からすぐの田村ビルの中。夜のコースも8000円から(~5万円)と、さほど敷居が高いわけではありません。
▲広大な敷地、と形容するにふさわしい、つきじ治作。夜には「治作」の文字がこの正面と背面(隅田川向き)の両面で明るく輝きます。
高級料亭=値段が高い、のは当然ですが、実はこの中にはランチ営業を行っていて、リーズナブルな価格で昼食が食べられる店があります。今回は、つきぢ田村、そしてふぐ料亭Wanofuのランチをご紹介。
リーズナブルな価格で昼食が食べられる料亭は!?
まずは「つきぢ田村」です。東京メトロ日比谷線築地駅を出てすぐに位置するこの店。三代目の田村隆氏がいくつかのCMに登場していることもあり、店名は広く知られています。ビルの1Fがテーブル席。12:00に入店すると、テーブルはほぼ埋まっていました。
ランチは大原弁当(3500円・税別)とコース料理の宮島(6000円・税別)の2種類。宮島を予約してありました。内容は、前菜・お椀・お造り・焼物・中皿・煮物・止・水物・甘味、と本格的なコース。どれひとつとっても美味なのは言うまでもありませんが、それに加えて昼からこんなに食べていいのか、というほどボリュームもたっぷり。2時間かけてたっぷりと堪能しました。大原弁当も、内容は先付、お刺身、焼物、煮物、ご飯、お椀と、こちらも田村のエッセンスを詰め込んだ内容。お手軽な料亭ランチとしては、こちらがおススメです。
▲当日の昼コース「宮島」の御献立。これだけ見ても「おなかいっぱい」と感じ取っていただけるのでは。
▲料理写真を全部アップすると10枚になってしまうので前菜だけ。小鯛ずし、いか雲丹焼きなど全8品。
そして「ふぐ料亭Wanofu」。前身は新橋料亭石蕗(つわ)。時代のニーズに合わせ、新感覚の日本料理店として誕生したとHPでは説明されています。この店は、昨年11月末、総務省が公表した政治資金収支報告書をもとに朝日新聞が分析した、閣僚と政党党首の都内「行きつけの店」トップ10の10位にランクインしていました。晴海通りから見て京橋郵便局のちょうど裏手に位置しており、1Fの入り口を入ってすぐがテーブル席。この店のランチはバラエティーがあり、断然おススメです。例えばお値段的にも、特製親子丼(1000円)、牛すじの味噌カレー(1000円)からとお手頃。この日は、Wanofuの定番メニューの鯛茶漬け(1600円)をいただくことに。
▲料亭Wanofuの外塀。京橋郵便局の裏手には、ほかにも「ちょっとよさげな店」が点在しています。
鯛茶漬けはゴマダレの中に新鮮な真鯛の刺身がたっぷり。最初はそのまま刺身のままで、という店員さんのおススメに従い、出し汁をかけずに食することに。うーん、刺身とゴマダレのマッチングが絶妙。おひつで供されるご飯がいくらでもいただけそうです。そして途中からはたっぷりの出し汁をかけて。どちらも美味しく、茶碗4杯食べてしまいました。
▲鯛茶漬け。卵焼きやおひたし、お新香にデザートも付きます。中央がゴマダレに浸かった鯛刺し、右端がたっぷりの出し汁。
また一番の人気メニューという銀だら西京焼き(2600円)。1週間漬け込んだ肉厚の銀だらを遠火でじっくりと焼き上げる、と紹介されています。微妙な火加減で焼き上げたと思われる柔らかさと火の通り具合で絶品と評するにふさわしい味。こちらもご飯がいくらでも進みそうです。
今のところ、この2店以外の築地の料亭にはまだ足を踏み入れていません。
つきじ植むら本店は、昼の松花堂弁当が5000円、つきじ治作は、土日祝日のみの「御奉仕昼食」が、名物水たき、会席どちらも12000円。新喜楽には昼食の設定はないようです(というか、HPがないのでメニューは不明)。
もう1店、築地駅からすぐの「小すが」もちょっと謎のお店。何人かの方がブログで紹介していますが、どうやら連合艦隊司令長官だった山本五十六大将ゆかりの店とのこと。この店の前身である料亭「和光」の看板を書いたのも山本長官で、店内には長官の手になる書が多数残されているようです。しかしながら、いくら検索してもこの店の店内写真やメニューなどは現れません。足を踏み入れるには少々勇気が必要かも。以上、奥深い、というにふさわしい築地の料亭の紹介でした。
前回のこのコラムで、「正月の築地市場はひっそりと静まり返っています」と書きましたが、これは年末に書いた予測記事。正月2日、場外は営業する店もちらほらあり、すでに賑わっていました。波除稲荷神社も昨年よりかなり多い人出。これも「観光地」の証ですね。
そして、1月14日、豊洲市場の地下水検査の最終結果が公表されました。テレビ、新聞で報道されているように、環境基準を大きく上回るベンゼンだけでなく、シアン、ヒ素も検出、という専門家も驚く内容です。今夏の予定だった移転判断の可否も先送りになる模様。市場関係者の方は大変だと思いますが、築地市場の歴史はまだもう少し続くことになりそうです。
初出:しごとなでしこ
T.KOMURO
編集者。主として男性向け情報誌の編集長を歴任。2015年5月、住居を築地に移し、愛犬の悟空とともに週末TSUKIJIライフを楽しんでいる。