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2018.11.05

【私が決断したとき】サメだけやると決めたら、生きるのが楽になった|世界でただひとりのシャークジャーナリスト・沼口麻子さん

各界の第一線で活躍する先人たちは、どんなターニングポイントを迎えてきたのか。世界でただひとりのシャークジャーナリストとして活動する、沼口麻子さんにお話をうかがいました。

【沼口麻子】さんインタビュー

「適当に働いて、売れない営業で人生終わったら成仏できない」と感じた時代

渋谷でOLをしていたのが24歳から32歳の8年間です。大学院まで研究していたほどサメが好きだったのですが、日本だとサメでは就職先が見つからなくて。当時はITバブルで、プログラマーなら採用がたくさんあったんですね。パソコンの知識がなくても、研修を受けさせてもらえるとのこと。これからの時代に働くうえでは必要なスキルだろうと思い、会社にとっては失礼な話ですが、パソコンスクールに通う感覚で決めました。

プログラムのプの字もわからずに入社した私。仕事はまったくできなかったけれど、お客さんは大手のメーカーや官公庁、大学。同期と仲がよくてフットサルチームをつくったりして、土日も会社の人と一緒にいましたね。ただ、8年いて一度も昇級しなかったんです。プログラマーとしてなんの成長もできなかった。なんとかパソコンから逃れたくて営業に異動させてもらったのに、業績も上がらず、社外の営業セミナーに通い始めました。その講義の中で、先生が「8年やってダメだったら、その仕事は向いてないです」という話をされて。しかも参加者のみんながすごく優秀でして。自分では普通に頑張ってきたつもりだったけど、ほかの人はもっと全力。初めて外の世界に触れたというか、ぬるい環境にいたんだなと気づいたんです。

沼口麻子さん

そのうち、あまりに営業ができないストレスからなのか、体に異変が。ある朝会社に行こうとしたら、めまいと吐き気がひどく歩けなくなって。結局2週間立ち上がれなかったんです。携帯もテレビも見られない。このまま一生立ち上がれないで死んじゃうのかなと。適当にOLして、売れない営業で人生終わったら成仏できないなとも思いました。2週間たってやっと病院に行くことができ、精密検査を受けたものの原因はわからないまま。人手不足だったので無理やり会社に行ってはまた休む…をくり返しながら半年後に正式に休職しました。最終的には退職を選ぶのですが、転職するにもスキルがないですし、もし病気がなければそのまま定年までぼんやり会社員を続けていたと思います。

サメだけを仕事にすると決めたら生きるのが楽になった

休職していた時期は、調子がいいと3時間くらい動ける日がありました。何か自分で行動しないと状況は変えられないと感じ、コーチングを受けることに。子供のころに好きだったものや、褒められたことなど、私という人間をじっくり深掘りしていただいて。ほかにも営業セミナーの仲間と集まってお互いの考えを話したり、人生で初めて自分の心の声を聞くという作業をしていきました。そうすると、会社がすべてだった自分にも、「サメの研究をしていた」「プレゼンが得意」「教育に興味がある」…と本当にやりたいことがリストアップできてきた。それを元にSNSで、大好きなサメの情報を発信し始めました。

毎日発信することで、インターネットの世界では「サメに詳しい人」という認知をしてもらえるように。Facebookを通じて、NHKの番組や雑誌の取材など依頼をいただく機会が増えていきました。本名や顔を出すことに最初は怖さもありましたが、大学院時代の論文もこの名前で発表していて信用の裏付けになるので、自己ブランディングには必要なことだなと身をもって感じます。

シャークジャーナリストを始めてからは漁港に近い静岡に移り住み、この6年間で世界各地のサメにも会いに行きました。OL8年間の貯金を、調査や取材資金にしています。それ以外では、専門学校の講義やワークショップ、トークイベントなどを通じて、サメの生態や魅力を伝えるのが仕事。所属記者ではなく、フリーランスなので安定はしていません。それでも、少し成果を出すと足を引っ張られるようなこともあった営業時代と違って、今は周りの人がどんどん助けてくれます。私の居場所はこっちだったんだなと。

サメの歯

「だれも気づいていない困りごとを解決すること」がヒントに

ビジネスモデルの着想には、「ありそうだけれど、まだだれも気づいていない困りごとを解決するのが仕事だ」という営業セミナーでの教えがヒントになりました。サメ好きという立場で私が世の中に応えられることはなんだろうと考えたら、ふたつあった。ひとつは、サメ好きな人たちの交流の場をつくること。というのも、私自身がサメの話をしたいのに身近にサメについて語れる友達がいなかったんです。もしかしたら、全国には同じ思いの人がいるのかもという仮説を立てて、これを解決するために「サメ好き集まれ!」というグループをFacebookで立ち上げました。WEB上の交流だけでなく、談話会を主宰したり、合宿で勉強会を行ったり。今では下は1、2歳から上は70代の方まで約1200人の方が参加して、日本でいちばん大きなサメコミュニティになっています。

もうひとつは、サメ好きな子供たちが大人になっても関連活動ができるよう、研究室や企業と彼らをつなぐこと。今後は教育にも携わっていきたいですね。大きくなるにつれて、「サメが好き」と言っても「え? もっと現実見なよ」と周囲の人に言われてしまう。子供たちが本当にやりたいことをやれるような世の中になったらいいなと考えています。

社会がいいほうにに向かうお手伝いがしたい

理想は、日常の中でサメの話ができるようになること。その結果として主宰する談話会にひとりも人が集まらなくなったら、私の中ではむしろ成功なんです。そうしたらまた次の問題が出てくると思うので、いち早くキャッチして改善したいですね。社会がいいほうに向かうお手伝いができれば、お金持ちにはなれなくても、生きてはいけるんじゃないかな。今はもうサメ以外のものはいらないんです。サメだけやると決めたら、人生「選択」をしなくてよくなった。私は選択するのにずっとエネルギーを使ってきて、今も選ぶのが苦手なので、すごく楽になりましたね。

沼口麻子さん

サメのほとんどは野犬みたいなもので、こちらから近づかなければ危険な存在ではありません。ただし、彼らは自然界の冷たい海や深海、激流の中にいるので、会いに行くためにはやはり命の危険が伴います。スコットランドの海中でウバザメを撮影した後に低体温症になったときには、この写真が遺作になるかも…と思いながらカメラを握りしめていました。万一撮れてなかったら私すごくかっこ悪い!って(笑)。この仕事はゆるやかな自殺だなとも思うけれど、人生を8年サボってしまったし、めまい症だっていまだに原因不明でまたぶり返すかもしれない。だったら、これだと思ったものを見つけたからには、いつ死んでも悔いのないよう打ち込んでいきたいです。

人食いザメはいない!? 知られざるサメの魅力
『ほぼ命がけサメ図鑑』

『ほぼ命がけサメ図鑑』

4億年前から地球に生息し、世界中で500種類以上存在するとされるサメ。その生態についてはまだまだ謎が多く、ミステリアス! 怖いとしか認識されていないサメの本当の姿を伝えるべく、沼口さんが6年がかりで体当たり取材した渾身の図鑑は、驚きと発見が満載です。
¥1,800/講談社

Oggi10月号「The Turning Point〜私が『決断』したとき」より
撮影/相馬ミナ デザイン/Permanent Yellow Orange 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

ぬまぐちあさこ

1980年東京都生まれ、静岡県在住。東海大学海洋学部を卒業後、同大学大学院海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。在学中は小笠原諸島父島周辺海域に出現するサメ相調査とその寄生虫(Cestoda 条虫類)の出現調査を行う。現在は、世界で唯一の「シャークジャーナリスト」として、世界中のサメを取材し、サメという生き物の魅力をメディアなどで発信している。サメ談話会やオンラインサロン「サメサメ倶楽部」https://lounge.dm
m.com/detail/645/を主宰。


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Oggi5月号46ページに掲載しているアルアバイルのライトベージュのジャケットの値段に誤りがありました。正しくは¥49,500になります。
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