本日のテーマは、「極限環境微生物」についてです。ちょっと漢字だらけで難しそうですが、ゆるく説明していきますのでご安心ください。
極限環境微生物とアストロバイオロジー
極限環境微生物は、地球上の極限状態と呼ばれるような環境下でも生きられる微生物のことです。そのまま過ぎる…という声が遠くから聞こえてきそうなので、後ほどもう少し詳しく説明をしていくのですが、この極限環境微生物が注目される一つの理由に、宇宙の生命や最初の生命誕生などを研究するアストロバイオロジーが大きく関係しています。
宇宙空間は、「酸素もねぇ、重力ねぇ、水分なんてあるわけねぇ~♪」と、まるで吉幾三の歌のように「ないない尽くし」であり(吉幾三の歌、若い人は知りませんよね…)、あるのは超強力で有害な宇宙線(放射線)です。しかも気温はマイナス270℃の冷え冷え状態。
このように宇宙空間そのものが極限環境であるため、人間ならば生きていけないような極限環境で生きられる生物がいるのなれば、宇宙空間にもそういった生物が存在しうるのではないか!? ということで、こぞって研究されているのです。
人間が快適に生きられる環境VS極限環境
では、極限環境がどれくらい極限なのかを解説する前に、我々人間が快適に生きられる環境について考えてみたいと思います。人間が快適に暮らせる環境の条件には、かなり制約があります。思いつくままに書いてみますと、
・温度はせいぜい0℃~40℃…私的には20℃~25℃前後キボンヌ
・気圧は1気圧
・紫外線などがきつくない
・酸素がちゃんとある
・飲める水がある
・重力がある
まだまだ色々とあると思いますが、ざっとこんな感じです。我々って幸せ者ですね。こういった環境が当然のことのように与えられているのです。よく考えたらすごいことですね。
極限環境はどれだけ極限なのか
こちらに対して地球上で確認されている極限環境には、以下のようなものが挙げられます。
・温度(高温)…122℃
・低pH(アルカリ性)…pH-0.06
・高pH(酸性)…pH12.5
・気圧…1,100気圧
・放射線…最大30,000Gyのガンマ線照射
pHは、酸性・アルカリ性の度合いを表す単位です。pH-0.06は強酸性を表し、塩酸がこれにあたります。…肌荒れを通り越して溶けてしまいますね。また、pH12.5は強いアルカリ性を表しますが、身近なもので言うと、カビ取り洗剤や洗濯用洗剤にあたります。
放射線のGy(グレイ)は聞き慣れない単位ですが、物質が受けた放射線量を表す単位です。とある病院の放射線科が発表しているサイトによると、人間は1分間に0.5Gyを浴びただけで、白血球の減少などの体の変化が起こるそうです。ということは、30,000Gyならどうなってしまうんでしょうか。想像もつかない数値ですね。
そして、驚きなのはこのような極限環境で、「普通に」生きている生物が発見されているということです。
熱水の深海で悠々と生きる深海生物も…
例えば、深海の地熱で熱せられた数百℃という熱水が噴出する割れ目のことを熱水噴出孔(ねっすいふんしゅつこう)と言いますが、その周辺は高温というだけでなく、重金属や硫化水素といった有害な物質を豊富に含んでいるにもかかわらず、イエティクラブやチューブワームといった多数のかわいい生物の生息が確認されています。
このような極限環境で生きる深海生物の存在は、宇宙空間のような過酷な環境でも生きられる生物がいても全然おかしくないということに確かに通じそうですね。人間なら即死してしまうような環境が性に合っている生物もたくさんいるのです。次回の宇宙与太話は、極限環境生物のヒーロー「クマムシ」を紹介しようと思います。
【参考図書】
『YouもMeも宇宙人』いけのり著/東京大学名誉教授 松井孝典監修(地湧社)
いけのり
最先端のアストロバイオロジーを世界一緩く解説する『YouもMeも宇宙人』(地湧社)著者。一橋大学商学部卒業後、金融会社・楽天市場を経て独立し、オールジャンルでの執筆・編集業などで活動中。独り言サイト「いけのり通信」の更新がライフワーク。