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2026.11.04

「なんの役に立てるのだろう」と迷い続けて資格を〝武器〟にした。ワインジャーナリスト・水上 彩さんインタビュー

選択の多い30歳からの人生に、決断は欠かせないもの。各界の第一線で活躍する先人はどんな転機を迎えてきたのか? 今回は、異業種の大企業からワインの世界へ転身し、学びと発信を重ねて仕事を切り拓いてきたワインジャーナリスト・水上彩さんにお話を伺いました。

TEXT: Oggi編集部

Oggi編集部

Oggi編集部

「Oggi」は1992年(平成4年)8月、「グローバルキャリアのライフスタイル・ファッション誌」として小学館より創刊。現在は、ファッション・美容からビジネス&ライフスタイルテーマまで、ワーキングウーマンの役に立つあらゆるトピックを扱う。ファッションのテイストはシンプルなアイテムをベースにした、仕事の場にふさわしい知性と品格のあるスタイルが提案が得意。WEBメディアでも、アラサー世代のキャリアアップや仕事での自己実現、おしゃれ、美容、知識、健康、結婚と幅広いテーマを取材し、「今日(=Oggi)」をよりおしゃれに美しく輝くための、リアルで質の高いコンテンツを発信中。

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ワインジャーナリスト・水上 彩さんインタビュー

水上 彩さん

《Profile》みずかみ・あや/1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。 お茶の水女子大学理学部を卒業後、大手通信企業へ入社。ネットワーク回線やシステムの保守に携わる。2014年に退職し、ワインバーなどで現場経験を積みながら執筆活動を始める。2022年に国際ワイン資格WSET最高峰の「Level 4 Diploma」を取得。現在は、ワイン専門誌への寄稿や全国のワイナリー取材のほか、『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ビジネスや文化など多角的な視点からワインを伝える。Instagram:@muse_bacchus

手間も時間もかかるワインだからこそ、一杯を入り口に、知らない世界へ旅ができる

新卒で大手通信企業に就職し、ネットワーク回線やシステムの保守に携わりました。技術職の現場を経て、本社へ異動。会社員の王道を歩みながらも、大きな組織の中で自分の仕事がどこへつながり、何に貢献しているのかを見失っていきました。今思えば、まず一人前に目の前の仕事をしなさい、というおこがましい話なのですが。

自分探しで24歳ごろからさまざまな体験セミナーへ参加し、夢中になったのがワインです。もともとはむしろ苦手で、居酒屋では〝カシオレ〟派(笑)。表参道のカルディコーヒーファームで当時開かれていた500円セミナーに参加したところ、産地の歴史や料理との組み合わせを知ることが面白くて。同じ品種でも国や醸造家によって、味わいや香りが変わる。底知れない魅力や背景への感動をブログで発信すると仲間もでき、世界が広がっていきました。

水上 彩さん

一方で仕事では、自分の存在意義に悩み、入社4年目で体調を崩し3か月休職。回復してきたころ、知人のソムリエのすすめで、J.S.A.ワインエキスパートの勉強を始めました。2013年に合格し、新たな目標と共に、もう一度前を向けたんです。最初は逃避だったかもしれません。それでも、私を立て直してくれたのもワインでした。

資勉強中、あるイベントで熱心にメモを取る私を見たワインライターさんに、「コラムを書いてみたら?」と言われたのも、転機のひとつ。最初の課題はスーパーのワイン売り場を訪ねた感想で、知人のワインショップの公式サイトに掲載してもらったのが、書く仕事の第一歩です。まずは会社勤めのままできることを試そうと、半年ほどバーの手伝いやワイン会の企画、執筆を並行して経験するうちに、ワイン業界へ軸足を移したい気持ちが強くなりました。

それでも、安定を手放す決心はなかなかつきません。そんなころ、本屋さんで偶然手に取ったのが、オマル・ハイヤームの詩集『ルバイヤート』です。いつかは土に還るのだから、一瞬を楽しもう―― その潔さにハッとし、「一度しかない人生なのに、守りに入ったままでいいのだろうか」と思いました。後悔したくないという気持ちが勝り、28歳で退職を決意。ワインと詩のルーツをたどるように、ジョージア、トルコ、アルメニア、イランなどを2か月かけて巡る旅へ。知らない世界に触れることが好きなのだと改めて気づきました。

独立後、ワインの世界でバリバリ働くつもりだった私に訪れた、予想外の変化が29歳での結婚です。ワインを通じて現在の夫と出会い、夜が中心だったワインバーの仕事は、新しい暮らしとの両立を考えて整理。最後に残したのが執筆でした。意を決して飛び込んだものの、駆け出しライターへの依頼は微々たるもの。幸せな日々を送りながらも、「だれかの妻」ではない、「水上彩」個人としての居場所も欲しい。そんなモヤモヤが募っていきました。

そこで、仕事がない時間に始めたのが、自分なりの強みをつくることです。2016年に国際ワイン資格WSETのLevel 3を取得し、翌年から最上位のLevel 4 Diplomaを目指すことに。専門家として活動するなら、〝武器〟が必要だと思いました。同じころ、茶道や着物の着付けを習い、尊敬する作家・山口路子先生の影響で、33歳からはアルゼンチンタンゴにも挑戦。タンゴは、肩書きを脱ぎ、何者でもない自分でいられる場所になりました。

ワイン英語

仕事につながるかわからなくても、続けていたのが発信です。ホームページを開設し、ブログを書き続けた結果、『NIKKEI STYLE』や専門誌『日本ワイン紀行』、ワイン協会の仕事でお声がけいただくように。4年半かけて2022年にDiplomaに合格し、同年からは『Forbes JAPAN』でも、自ら企画を立てて国内外のワイナリーやイベントを取材し、執筆しています。地道に向き合ううち、次の機会につながりました。本当に亀の歩みですが、見ていてくださる人がいるのはありがたいことですね。

ワインの専門知識に加え、茶道や着物、タンゴ、本、映画など、一見仕事とは無関係に思えた学びも、すべて自分の視点や文章につながっています。2026年7月に刊行した初の著書『15か国・地域を飲んで旅するワインの世界地図』にも、旅の記憶や好きな映画の話、ハプニングやお酒の失敗談まで盛り込みました。「著者の色が出ている」と感想をいただくたび、30代で模索した寄り道もムダではなかったと思えます。

執筆を始めたころから出版への憧れはありましたが、〝いつか〟のまま10年が経過。『DIE WITH ZERO』という本を読んだことを機にタイムリミットを設け、1年ほど構想を練りました。数多くあるワイン本とは違うものにしたくて、ワインを歴史や経済、ビジネスとつなげて読み解く企画書をつくり、出版社へ持ち込みました。

刊行後は、「バラバラだった知識が一本につながった」「新しいワインを飲みたくなった」「旅へ出たくなった」といった声が届きました。業界の重鎮の方から、「自分の30年分のワイン人生が詰まっている」と言っていただけたことも励みに。会社員時代からずっと、「私はなんの役に立てるのだろう」と悩んできました。一方で、好きなことを優先して、自分勝手に生きているとも思っていたんです。でも、読者の方の声に触れ、自分の言葉がだれかの役に立つ喜びを実感することができました。

つくるにも味わうにも時間がかかるワインは、タイパとは対極の嗜好品かもしれません。でも一杯から、土地の歴史や文化を知り、遠い国へ思いを馳せられる。家にいながら旅ができるなら、何をもって効率的とするかは、捉え方しだいだと思うんです。

答えを急がないことは、人との関係でも大切にしています。たとえば、海外の資料を読み、現地を取材するには英語が欠かせませんが、短期留学を迷っていたとき、「妻が家を空けるのは難しいんじゃないか」と決めつけていたのは、実は私自身でした。夫に「挑戦したいから応援してほしい」と伝えると、「がんばっておいで」と快く背中を押してくれて。相手の考えを先回りせず、信頼して伝える大切さを知りました。

取材でも、用意した筋書きに戻そうとせず、相手から言葉が生まれるのを待つようにしています。よいワインをつくっていても、発信力の差で知られないまま経営に苦しむ生産者の方もいる。そうしたつくり手を見つけ、言葉の力で世に届けることが、私にできる役割だと思っています。これまで寄り道してきたものをワインにつなぎ、ジャンルを超えてその間口を広げたい。私自身も、まだ熟成の途中。完成するのは、死ぬ間際くらいでいいと思っています。

読むほどにだれかに語りたくなる!『15か国・地域を飲んで旅するワインの世界地図』が好評発売中

『15か国・地域を飲んで旅するワインの世界地図』

味や品種だけでなく、歴史、文化、経済、ビジネスまで、世界15か国・地域の産地をめぐりながら、ワインをひもとく入門書。初心者にもやさしい語り口で、伝説や時事ネタのほか、水上さん自身が現地を旅した記憶や等身大の体験談を交え、知的好奇心をくすぐる逸話が満載! 各章末には、1万円以下でその国の本質がわかるおすすめワインも紹介。ワインを囲む会話まで、豊かにしてくれる。
¥1,980/ダイヤモンド社

2026年Oggi11月号「The Turning Point~私が『決断』したとき~」より
撮影/石田祥平 構成/佐藤久美子
再構成/Oggi.jp編集部

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「Oggi」は1992年(平成4年)8月、「グローバルキャリアのライフスタイル・ファッション誌」として小学館より創刊。現在は、ファッション・美容からビジネス&ライフスタイルテーマまで、ワーキングウーマンの役に立つあらゆるトピックを扱う。ファッションのテイストはシンプルなアイテムをベースにした、仕事の場にふさわしい知性と品格のあるスタイルが提案が得意。WEBメディアでも、アラサー世代のキャリアアップや仕事での自己実現、おしゃれ、美容、知識、健康、結婚と幅広いテーマを取材し、「今日(=Oggi)」をよりおしゃれに美しく輝くための、リアルで質の高いコンテンツを発信中。

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