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2026.10.30

【歌舞伎俳優・中村隼人インタビュー】「30代は頑張り続けられる最後の10年」。32歳で挑む大役、通し狂言『仮名手本忠臣蔵』へ、いざ!

今年11月の歌舞伎座は、格式の高さも華やかさも、そして期待度も、最高潮! 演目は、「吉例顔見世大歌舞伎」で上演される、通し狂言『仮名手本忠臣蔵』。そして満を持して早野勘平を勤めるのは中村隼人さん。32歳の若さにして大役を担う素顔にせまります。

TEXT: 南ゆかり

南ゆかり

南ゆかり

エディター

インタビュー企画を中心に担当。映画、舞台、お笑い、韓ドラ、どれもまんべんなく好きです。

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通し狂言『仮名手本忠臣蔵』の早野勘平役を、いま演じる意味

歌舞伎三大狂言のひとつとして知られる『仮名手本忠臣蔵』。中村隼人さんが演じるのは、自身が演じてみたいと憧れ続けていた大役・早野勘平(はやの・かんぺい)。これまで、偉大な先輩方が勤めてきたこの役を、30代の若さにして演じることについて、こう語ります。

中村隼人さん(以下、隼人):歌舞伎において、年が近い役を演じる機会はほとんどなく、「吉例顔見世大歌舞伎」という特別な公演で、それも32歳のいま演じさせていただけるのは、誇らしくもあり、運命的なものを感じます。勘平という人物は、『義太夫』(浄瑠璃)によると20代後半から30代だといわれています。大人ではあるけれど、どこか未熟さや危うさもあるのが魅力です。かつてこの役を勤めた二世中村吉右衛門さんからは、「(勘平をやるには)すっきりしていないといけない」と言われたものでした。姿勢、足さばき、とにかくすっきり。そして「ほれられる役者にならないと駄目だ」とも。

また、ふだん歌舞伎では、ちょっと大人っぽく見せるということも多いし、女らしく、男性らしく、憑依させていくことが多い世界です。このように受け継がれてきた“気持ち”や“動き”は踏襲しつつも、32歳の今だからこそ出せる感情をそのままに、“素”で演じられたら。性根の部分は役になりつつ、でも無理をしないでやろうと思います。

いつかヨーロッパで歌舞伎公演を

――若くして大役を担うことになりましたが、隼人さんにとって30代はどんな位置付けになるのでしょうか。

隼人:かつてイメージしていた30代は、もっと「大人」で、仕事をばりばりやって、行きつけのご飯屋さんもあって…。でも、実際はまだまだです(笑)。一方で、20代後半から30代にかけては、さまざまな新しい挑戦がありました。スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)『新版 オグリ』、スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』といった古典歌舞伎とは一味違う歌舞伎への出演、テレビのバラエティ番組出演、さらに海外公演…。いろいろなことをやりながら、自分の得手不得手がわかった20代。それでも、目の前のことに精一杯で、お稽古だったり、新しいお仕事だったり、もっとやれたんじゃないか、という悔しさがあります。もちろん、スケジュールが合わなくてできなかった――縁がなかった――こともあるけれど、30代ではそれを取り戻し、やれることは迷わずやると決めているんです。やらなかった後悔を残したくないですから。

30代は、20代の経験を生かしつつも、頑張り続けられる最後の10年。ここで踏ん張れるかどうかで、この先の自分が変わると思っています。40代、50代になったとき、後輩たちに頼られ、歌舞伎界から必要とされる役者になっていたい。そしてプライベートでは、まだ行ったことのないヨーロッパに行ってみたいと思います。旅行をしながら文化や歴史に触れるのもいいし、いつか公演もしてみたい。これまで、トルコ、サウジアラビア、ニューヨークと海外公演をしてきましたが、それぞれの土地に合わせて演出や舞台の使い方を変えるのは、大変だけど面白い体験です。1日3公演もあったりして、体力も必要になります。だからこそ、若いうちに、できるだけ多くの海外公演を経験しておきたいんです。

――2025年は大河ドラマ『べらぼう』、2026年はドラマ『君の好きは無敵』など、歌舞伎以外の活躍も多かった近年。こうして古典作品に回帰して、あらためて感じる醍醐味はどんなところにあるのでしょう。

隼人:ドラマも歌舞伎も同じ演劇なので、表現方法は違ってもお芝居をするということでは同じです。自分の心を動かし、観ているお客さまの心を動かす。それは基本にありつつ、歌舞伎の舞台が違うのは、「型」があるということです。体の動き、セリフの音程…先人たちが上演し続け、研ぎ澄まされた演技方法がある。この「型」があってこそ、観る方にかっこいいと思っていただけるのではないでしょうか。

特に、私が勘平を演じる「五段目」「六段目」では、美しい型をたくさん観ることができます。それぞれに意味があって、でも難しいことはなく、わかりやすく表現しています。どうぞ楽しみにしていてください。

記念すべき初演としてずっと残るものに

――古典作品というと、難しいのではと思う人もいるかもしれませんが、これからご覧になるみなさんに、アドバイスをお願いします。

隼人:『仮名手本忠臣蔵』の題材となっている赤穂浪士の討入りについて、1分でいいので事前におさらいしておくといいと思います。そして、鑑賞の際はイヤホンガイドの利用をお勧めします。イヤホンガイドはもう、とにかく優秀で、僕たちが知らない背景や細かなことまで説明してくれる。もしかしたら、お客さまのほうが詳しいこともあるくらいなんじゃないかな(笑)。でも、僕たち役者は、それがなくてもわかりやすいように、表現をしていくつもりです。うれしい、悲しい、などの感情はダイレクトに感じられると思います。

初めての方でも、この機会にこの作品に触れたことで、「大作を観た」「隼人の(勘平役の)初演を観た」と、この先ずっと語れるかもしれない。それくらいの記念すべきものになるよう、僕も頑張ります。

公演期間中は、毎日のようにご先祖のお墓にお参りをし、同じ朝食をルーティンにするという隼人さん。これまでになく神聖な気持ちで臨む今回の公演では、さてどんな朝食になるのか…。そして、そこから繰り出される中村隼人の新たなる魅力は。ぜひ、舞台で確認してください。

2026年11月「吉例顔見世大歌舞伎」
通し狂言『仮名手本忠臣蔵』

江戸時代・寛延元(1748)年に書かれた作品で、歌舞伎三大名作のひとつ。江戸で実際に起こった赤穂浪士の討入り事件を題材に、大星由良之助をはじめとする四十七士の仇討ちまでの困難や、彼らを取り巻く人間模様を鮮やかに描き上げた全十一段。中村隼人さんは「五段目」「六段目」で早野勘平を演じる。
2026年11月1日(日)~25日(水) 歌舞伎座
>詳細はこちら

なかむら はやと
1993年11月30日生まれ、東京都出身。二代目中村錦之助の長男。2002年2月歌舞伎座『寺子屋』の松王丸一子小太郎で初代中村隼人を名のり初舞台。近年は、スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』のヤマトタケルで存在感を示すほか、大河ドラマ『べらぼう』、連続ドラマ『君の好きは無敵』などにも出演。

ジャケット¥231,000・シャツ¥56,100・パンツ¥138,600・ベルト¥24,200(ヨウジヤマモト プレスルーム〈Y’s for men〉) スカーフ¥16,500(ヨウジヤマモト プレスルーム〈Yohji Yamamoto〉)

撮影/田形千紘(Tron) スタイリスト/石橋修一 ヘア&メイク/川又由紀
構成/南 ゆかり、岡野亜紀子

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