メジャーデビュー30年を超え、新たな扉を開いたゴスペラーズの今
2024年にメジャーデビュー30周年を迎え、続く2025年には全国51公演を完走。そして2026年は新たな試みへと向かっているゴスペラーズ。まずは、怒涛の2年間を振り返り。そこには、「今」から「次」につながるヒントが散りばめられていました。
歌のためなら、ほかのものはいらない
――30周年イヤーを経て、2026年6月のEP発売まで、イベント続きだったこの2年。ご自身やメンバーの変化はどのように感じていますか?
安岡 優さん(以下、安岡) ムダなものをそぎ落として、自分が本当にやりたいことの中心が、より見えてきた期間だった気がしてます。あとは…老眼が進んだ(笑)。視力は今も1.5~2.0あって客席はすごくよく見えるんだけど、その反動で手元が。
北山陽一さん(以下、北山) 僕は2012年から大学で授業を受け持っているんですけど、教えている学生のお父さん・お母さんよりも年上になりました。それなのにみんな、僕からしても古いんじゃないかという歌が好きだったりして、面白いんです。授業で課題曲を選んでもらったら、『異邦人』(1979年)をあげてきたりね。
村上てつやさん(以下、村上) 新曲の制作もコンサートツアーも、飽きることはないし、いつも新鮮。ということは、自分が変わっていないということじゃないかなと。何かを積極的に変えようと思わないのは、僕の性格かもしれないですけど、「向上心」よりも「平常心」をどれだけ保っていられるか。それが大事だと思うようになりました。こう話すと、どうして?とよく聞かれるけど、やっぱり「好きだから」としか言えないんですよね。

村上てつや(むらかみてつや)/1971年生まれ。ゴスペラーズのリーダー。大ヒット曲『ひとり』の作詞・作曲を手掛けた。
黒沢 薫(以下、黒沢さん) そうなんだよね。30周年のツアーをやって、自分はこんなに歌が好きだったんだと、改めて思いました。歌のためならほかのものはいらない、というくらいにね。まあ、2025年は半年で全国51公演あったので、ツアー中は摂生しなきゃいけなかった、というのもありますけど。今はコンサートが大事。思った以上になんだか俺、すごいストイックなんだなって。

黒沢 薫(くろさわ・かおる)/1971年生まれ。CS放送の音楽番組『Spicy Sessions』でMCを担当。カレー好きとしても有名。
酒井雄二さん(以下、酒井) そういう黒沢を、よくテレビで見るようになったことが、グループでの大きな変化ですね。テレビ界が黒沢さんの使い方を発見してしまった。
黒沢 僕は全然意図してないし、たいして面白いことも言えないけどね。
酒井 だからいいんじゃないですか。俺が俺が!って前に出ていく人よりも、そっちのほうが。
全員 (うなづく)
――それでも、(ギャランティは)5等分という法則は変わらないのですか?
黒沢 変わってないですね。グループの仕事もソロの仕事も、全部5等分。いつの間にか5等分じゃなくなってるといいなと思ってるけど(笑)。
「どんな曲を書いてもいい」からスタート
――変わったこと・変わらないことがありつつ、今年32年目。発売されるEP『UNIVER5OUL』には、これまでの歩みがどう反映されているのでしょうか。
村上 30周年のツアーを通して、また『パール』(2024年)という曲で、応援してくれる皆さんへの思いを伝えたので、次は何か違うものを…と考えていました。一方で、自分たちの枠を決め込まず、広げたいとも思っていて、それには成熟しきった32年目はいいタイミング。それで今回、「ラブソング禁止」とだけ決めて、自由で面白い曲をつくろうとなって。
安岡 今まではテーマや方向性を決めてから曲をつくることが多かったけれど、今回は自分たちのパブリックイメ―ジをはみ出していこう、となったんです。誰がどんな曲を書いてもいい、っていうところからスタートしました。それができるのも、32年分のみんなの経験があったから。経験によって発想が広がって、作品に反映され…。テーマがなかったからこそ、バラエティに富んだ5曲ができました。

安岡 優(やすおか・ゆたか)/1974年生まれ。ゴスペラーズ楽曲の作詩を数多く手掛け、ソロ活動、ユニット活動もこなす。
黒沢 その制作期間、僕には「重ため」の楽曲しかつくれないとわかりました。軽めの曲もつくったけど、結局採用されなかったし(笑)。それで今回は、歌い手としてどうアプローチするか、じっくり向き合うことにしました。『UNItVERSE』を歌う前にはK-POPを聴いてみたり、『アカペラ音頭』なら三波春夫さんを聴いたりしてね。
そして『The Gospellers Theme』。かつてインディーズのとき、オリジナルメンバーでレコーディングしたきりで、それを今のメンバーでもう一度レコーディングして。単純にすごくうれしかった!
酒井 僕はね、詞をほめていただくことが増えて、やる気が出た(笑)。昨年、SnowManのみなさんのアルバムに北山・酒井・村上で楽曲提供をする際、役割分担で僕が歌詞を書くことになって(アルバム『音故知新』に収録された『約束は君と』)、やってみたら面白くて。今作も3人で『アカペラ音頭』をつくって主に歌詞を担当しました。人間、ほめられると頑張りますからね。
北山 今回つくった『Memória(メモリア)』は、僕たちの『虹』(1996年)を下敷きにした曲なんです。『虹』からちょうど30年、今だからできたことだと思います。
酒井 時の流れを感じるといえば、ライブに若い世代の子が増えた。『UNItVERSE』を作曲してくれたYUUKIくんも親がゴスペラーズを聴いていた影響で自分も聴いていたという世代。この続いていく感じが、すごくうれしいんですよね。

酒井雄二(さかい・ゆうじ)/1972年生まれ。類稀なクリスタルボイスをもち、作詞でも活躍。全国ローカルパンおたくとしても地道に活動中。
僕らのほうが、女性のパワーに助けられてる
――Oggi読者の皆さんは30代が中心です。ご自身が30代だった頃を振り返りつつ、今の30代に応援メッセージをお願いします。
北山 30代の僕は、「自分が面白いと思えること以外はやらない」っていう戦略でした。もちろん、長期的にみればそうじゃないこともやるけれど、やっぱり自分が頑張れるのは「やりたいこと」だけ。それでいいんだと思います。ただ、僕は夢中になりすぎて日常生活を犠牲にしてきたので…。みなさん、どんなに忙しくても歯医者にだけは行っておきましょう。
村上 歯は大事。
安岡 30代は、やりたいことへの気力と体力がいちばんあるとき。僕もあの頃、わがままなぐらいやりたいことをやってきてよかったと思います。体力の続くかぎり行きたいところに行き、たくさん食べて、寝不足になっても楽しんで。それが、今の財産になっていると感じます。みなさんも、30代のうちに遊び尽くしたほうがいいですよ。「あとで」と思っていると、「あとで」できなくなることも多いですから。
村上 とんかつは若いうちに食っておけ、だね。
安岡 そうそうそう。今食べたいものは、今食べたほうがいい。でも正直、今の30代の女性はそれを実践している人、多いんじゃないですか。
全員 (うんうん)
村上 僕らはそのパワーにめっちゃ助けられてるからね。遠征してコンサートに来てくださって、それだけじゃなくて周辺でおいしいものを探したり、足を伸ばして観光したり。それをSNSで見ると、こっちが元気になる。なんなら、僕たちのコンサートは「ついで」でいいんですよ。そういう推し活のかたち、素敵だと思います。
黒沢 自分の30代を思い返すと、忙しい合間でもよく遊び、だいぶ調子に乗ってたな。ヒット曲が出たのがちょうど30歳で、調子に乗ってやらかしたこともあったし、恥ずかしいこともたくさんありました。それが許されるのは30代まで。あとで後悔してもいいから遊びまくればいいんだと思います。それがのちの糧になるし、確実に今につながってくるんだから。
酒井 それと同時に、30代あたりは人生を賭けた大勝負も経験すると思うんです。そして、がむしゃらに生きている人ほど、自分の力ではどうにもならないことや挫折を知ることもある。そんなときには、自分を丁寧にケアしてあげてほしいと思います。プロのスポーツ選手が、プロの手を借りてメンタルケアをするようにね。それがもし恋愛の挫折だったら、そのときはぜひ『Lessons』を聴いてください。もう立ち上がれないくらいの経験でも、優しく背中を押してくれる曲です。

北山 「ワークライフバランス」という言葉がありますよね。あれは辛いときに「そんなに頑張んなくていいよ」という魔法の言葉。すごく頑張りたい人が、もっとやりたいのに「がまんする」ことではないんですよ。だから、むちゃくちゃ頑張りたい人・頑張りたい時期は、バランスを崩すくらいやり切っていいと僕は思うんです。いざというときは、ワークライフバランスの呪いにかからず、突破してください。僕自身がぶっ壊れているので。
安岡 (笑)北山は没入力がすごいからね。夢中になったら寝ずに続けて心配になっちゃう。でも、没入した先にしかたどり着けない場所はあるし、だからこそ生まれる音楽もある。ただ、音楽以外のことに没入してると、戻って来られるのかなって心配になっちゃう。
――そんな没入型の北山さんから「このメンバーのここがすごい」というのはありますか?
北山 バラバラの5人をまとめあげ、グループを背負ってきたリーダー(村上さん)はすごいです。
村上 背負ってない、背負ってない。
北山 個性も能力もバラバラの5人を、ひとつの正解におさめようとせず、それでもグループとしての形を32年守り続けてきた。誰にでもできることではありません。

北山陽一(きたやま・よういち)/1974年生まれ。主にベースボーカル担当。音楽活動のほか、母校・慶應義塾大学では講師をつとめる。
黒沢 村上には、ずっとゴスペラーズのリーダーでいほしい。一般にリーダーというと2パターンいて、個性を前面に出してメンバーを引っ張るタイプと、後ろからメンバーを見守るタイプ。うちは場面ごとに主役が代わるから、それを後ろから見て采配をふるうのがリーダー。村上がリーダーやめたらゴスペラーズ解散しますから。だから、長生きしてほしいし、たまには休んでほしいです。
村上 じゃあ、ひとり慰安旅行でもして来ようかな。
黒沢 僕たち同級生2人で旅に出るのもいいね。
なにげない風景を歌詞に落とし込む
――理想のリーダーを体現している村上さん。では村上さんから「この人のここがすごい」をあげると?
村上 酒井の突き詰める力、かな。その力が、まさか日本全国のパン屋さんに向かうとはね。「神は細部に宿る」というけど、単にパン屋さんの情報じゃなく、店の方針とか、会社の考えとか、隅々まで知り尽くしてるのがすごい。全国を旅しながら、パンの奥の奥まで見てるんです。
酒井 旅はね、いいですよ。
村上 そして安岡の構想力。なにげなく見た風景、星、周囲の人たちの物語を、歌詩に落とし込むには、発想力と構成力が必要で、そこが安岡のパワーであり、僕にはない感性です。
――「突き詰める」といわれた酒井さんからから見た、メンバーのすごいところはありますか?
酒井 やっぱり黒沢がね、テレビ見ててもね、すごいなって。
黒沢 (え、またその話?)
酒井 バラエティ番組で地方の名所を案内してる黒沢さんなんて、自我がない状態っていうのかな。前に出ていくことはなくて、歌手とはまた違うスタンス。歌だったら「俺の歌を聞いてくれ」って前に出るでしょ。
黒沢 歌では、そうですね。
安岡 しかも黒沢さんは、「そんなに歌いたいんだ」って思うことが多くて。かつて、10周年ツアーが終わったとき、初めて長いお休みをもらったんですよ。それまで、ほとんど休まず歌い続けていたので、さて休みは何をしようかと考えていたら…。黒沢さんはソロでCDつくってライブもやってた。それを見て、僕たちもソロ活動を始めたんです。それから15年以上毎年ソロ活動をやってますけど、ゴスペラーズでこれだけ歌ってもまだ歌いたいって、すごいな。
村上 「俺の歌を聴け」「俺のカレーどうだ」以外の自我がないってことだね。
酒井 これはすごいことなんですよ。仕事してたら「押し」の強さはどうしても出てくるし、そういう人が近くにいると「うっ」ってなるでしょ。それがないって、すごいことなんですよ。
――「押し」が強いわけじゃなくても、しっかりと優しさやメッセージが伝わるのが、黒沢さんはもちろんゴスペラーズ全体の魅力。そして、その魅力を最大限に堪能できるのがニューEP『UNIVER5OUL』。「32年目の今だからこそできたこと」とメンバー全員が口をそろえる最新作、ベテランファンも、ビギナーファンも、たっぷり楽しめること確実です!
Oggiのインスタグラムではゴスペラーズの皆さんからのメッセージ&ミニインタビューを掲載予定。こちらもお見逃しなく!
ゴスペラーズ ニューEP『UNIVER5OUL』2026年6月24日にリリース

タイトルの『UNIVER5OUL』は、“UNIVERSE”と“SOUL”を掛け合わせた造語。さらにSOULの頭文字Sを“5”に変え、メジャーデビュー当時から変わらず5人の声で魂を込めた音色を紡ぎ続けてきたゴスペラーズの想いを表しています。30周年を経て新たなスタートを切るゴスペラーズの新たな魅力を感じさせる全5曲を収録。
ゴスペラーズ/1991年、早稲田大学のアカペラ・サークル〈Street Corner Symphony〉で結成。メンバーチェンジを経て、1994年『Promise』でメジャーデビュー。2000年リリースのシングル『永遠(とわ)に』、アルバム『Soul Serenade』がロングセールスを記録しブレイク。2001年のシングル『ひとり』が、アカペラ作品としては日本音楽史上初のベスト3入りとなった。以降、『星屑の街』『ミモザ』など多数のヒット曲を送り出す。他アーティストへの楽曲提供、プロデュースをはじめ、ソロ活動など多才な活動を展開。全員がボーカリストであると同時に、全員が作詞・作曲も手がける。
撮影/山根悠太郎(Tron) スタイリスト/奥村嘉之 ヘア&メイク/凜 構成/岡野亜紀子、南 ゆかり



