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LIFESTYLE

2026.07.10

市川染五郎さんが語る役者魂 | 特別先行版『鬼平犯科帳 本所の銕(てつ)/密告』インタビュー

松本幸四郎さんが主演する『鬼平犯科帳』の映像化シリーズ最新作の特別先行版として、『鬼平犯科帳 本所の銕(てつ)/密告』が7月10日(金)に劇場公開! 『本所の銕』で〝鬼平〟こと長谷川平蔵の若き日の姿・銕三郎として市川染五郎さんが主演を務め、〝父子共演〟しているのも大きな話題です。歌舞伎以外にも活躍の場を広げ続けている市川染五郎さんにお話をうかがいました。

宮田典子

〝鬼平〟こと長谷川平蔵の若き日を描いた『本所の銕(てつ)』。
染五郎さん演じる銕三郎をたっぷり堪能!

池波正太郎の大ベストセラー時代小説『鬼平犯科帳』を原作とし、“鬼平”こと長谷川平蔵役を十代目・松本幸四郎さんが務める映像化シリーズの最新作がいよいよお目見え! 24時間365日、時代劇を放送する「時代劇専門チャンネル」での放送に先駆けて、特別先行版として『鬼平犯科帳 本所の銕/密告』が7月10日から全国の劇場にて公開。幸四郎さんの長男である市川染五郎さんが主演を務める『本所の銕(てつ)』は、平蔵がまだ銕三郎と名乗り、放蕩無頼な日々を過ごしていた青春時代を描いたオリジナルストーリー。幸四郎さん主演の『密告』へと繫がる前日譚になっており、2作品が連なる物語になっています。銕三郎から平蔵へ、どのように運命が紡がれていくのか注目です!

特別先行版『鬼平犯科帳 本所の銕/密告』で、前回のシリーズ出演から2年ぶりに再び銕三郎を演じた染五郎さんに作品の見どころ、そして仕事への向き合い方などをインタビューしました!

──テレビスペシャル『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』、劇場版『鬼平犯科帳 ⾎闘』から2年ぶりのシリーズ出演となりますが、銕三郎という⼈物への捉え⽅や深まり⽅にどのような変化を感じましたか?

映像作品のほかに、『鬼平犯科帳』のラジオドラマや歌舞伎の新作でも銕三郎を演じさせていただいたので、かなり愛着が湧きました。『本所の銕』の撮影をしていたのが昨年の5月から6月あたりで、翌月の七月大歌舞伎でも『鬼平犯科帳』を上演していましたので、その3か月間はずっと銕三郎でしたから、歌舞伎座の千秋楽は役から離れるのが寂しかったです。

今回の『本所の銕』は『本所・桜屋敷』『血闘』の撮影からちょうど2年経ってからの撮影で、写真を見比べていただけるとわかるのですが、顔つきも体つきも違っていて。自分でも2年でこんなに変わるものかと驚いたほどです。だからこそ観てくださる方には、よりパワーアップした銕三郎をお届けしなければいけないという思いも強まりました。時系列的にも平蔵の年齢に少しずつ近づいている感覚もあって、そのグラデーションをきちんと感じていただけるような銕三郎を目指しました。

──それだけ銕三郎という役に入り込んでいたのですね。前回はストイックな役作りも話題でしたが、今回はいかがでしたか?

今回も役づくりのために、日焼けサロンに通いました。500円を入れてマシーンに入ったら、自分でポチッとスイッチを押すだけなんです。不思議なもので、一度日焼けをすると1年経っても焼けやすくなるのか、今回はより早く黒くなれました。屋外の撮影でもカットがかかったときにスタッフの方が日傘を持ってきてくださったのですが、「いえ、必要ありません」と。むしろ裾と袖をまくって現場でも焼いていました。

──荒くれ者たちから「本所の銕」と恐れられた銕三郎の、凄みや危険な香りが見事に伝わってきました。そんな銕三郎が放蕩無頼になったきっかけとも言える、継母との確執も本作では描かれていましたね。銕三郎の父親は幕府の旗本ですが、実母は正妻ではないという複雑な出自があって…。

そういった生まれた環境、宿命を背負う中で思い悩む銕三郎の姿は、自分自身にもとても重なるところはありました。私も歌舞伎の家に生まれて、最初から道が決まっていたと言えばそうなのですが、それだけでは実力を証明したことにはなりません。恵まれた環境であることは理解しつつも、決められた道を歩む中で自分なりに何を果たすべきか、そんな決断の連続のように感じています。

────銕三郎は刀を抜かず、自らの腕っぷしで戦うことを美学としていましたが、今回その美学が大きく揺さぶられます。この経験こそが、悪を許さない〝鬼の平蔵〟へと脱皮する決定的な出来事になったのではないかと思うのですが、染五郎さんも大きく脱皮するようなきっかけが自身のキャリアの中でありましたか?

やはり八代目市川染五郎を襲名したときでしょうか。一概にどの日からとは言えませんが、確実に切り替わった瞬間はありました。昨日まで父親が名乗っていた名前を、今日からは自分が名乗る、背負うというのはなかなかないことで。そこから、どんな役者になっていきたいか、どんな自分であるべきなのかということをより考えるきっかけになりました。

──襲名をされたのは2018年1月で当時まだ12歳だったと思いますが、すでに今後の道について考えを巡らせていたのですね。銕三郎の人生ともリンクしているようで、物語により説得力が増します。そんな歌舞伎の世界で鍛錬されてきたからこそ、劇中での「江戸言葉」も滑らかで物語に没入できました。

時代劇と同じく歌舞伎の台詞でも、一度現代語に置き換えて考えてみるんです。そうすると、一見、様式的な台詞であっても、どこにアクセントを置いたらいいか、どの言葉を立てたらいいか、どこで区切ったらいいか、そういうことが見えてきます。身につけるものに関しても時代劇では着物ですから、歩き方や所作も変わってきます。たとえば、やんちゃな銕三郎の役を現代人に置き換えてみたとき、カッコつけるなら洋服のポケットに手を入れたりするかな、と考えたりしました。

──そうした細やかなアプローチによって生きた言葉になったり、粋な佇まいになったりするのですね。

そうですね。時代劇は今とは言葉や言い回しも違うので、そうしたことを強く意識するようにしています。どんなに熱量を込めてお芝居をしても、言葉に命が宿っていないと観客の皆さんには何も伝わらないと思うんです。お芝居はそれが大前提にあると思っていて。だからきちんと言葉を伝えることは、映像でも舞台でもとても意識しています。

──銕三郎の敵役でもあった横⼭⼩平次役の駒⽊根葵汰(こまぎね・きいた)さんとの共演はいかがでしたか?

単純な悪役ではない、人間らしい弱さもある小平次の役づくりにとても真摯でいらっしゃいました。そうした繊細な役づくりのお陰で、銕三郎にも火がついて対抗し合うことができました。とても大きな存在でいてくださったのは、私自身にとってはもちろん、銕三郎としてもありがたかったです。だからこそ、最後はスカッとする作品全体の印象にも繋がったのかなと思います。

先日、取材でご一緒して対談をさせていただいたのですが、お芝居の熱い話で盛り上がりました。クールに見える駒⽊根さんですが、とても熱いものをもっていらっしゃって、そこは自分とも通じるものを感じて。時代劇というものにもとても興味があり、日本の大切な文化として残していきたいというお話をしました。

──ふたりの対決シーンは大きな見どころのひとつですね! そして新たに密偵・相模の彦十役を務めた尾美としのりさんですが、中村吉右衛門さん主演シリーズで長年にわたり同心・木村忠吾役としてご出演されていたこともあって、往年のファンにとっては胸熱なニュースでした。尾美さんとの撮影時のエピソードはありますか?

劇中で、銕三郎が彦十から「これからは銕さんと呼ばせておくんなさい!」と言われるシーンがあるのですが、ここから彦十と銕三郎の新しい関係がスタートするんだ、という気持ちが込み上げてきて、とてもグッときました。尾美さんにしかできない彦十がすでに完成されていたので、すごいなと思いました。

──『鬼平犯科帳』のような時代劇のほかにも、先日は主演舞台『ハムレット』の大千穐楽を迎えられたばかりで、歌舞伎以外に取り組む機会も増えていますね。それぞれの現場でいろいろな出逢いがあると思うのですが、染五郎さんは人と比べたり、焦りを感じたりすることはあるのでしょうか?

芝居は観てくださる人がいて初めて成立するものです。ですので、自分が比べるというよりは、比べられることが役者なのかなと思っています。だから自分は常に求められる役者でいたいなという思いが強いです。求められなくなったら、それはもう役者として終わることを意味すると思うので。そこを保たなければいけないというプレッシャーは常にあります。私にとって役者という職業は、アーティストというより職人に近い感覚です。

──常に求められる存在でいなければいけないというプレッシャーは計り知れないです…。初めてのことに飛び込むとき、「失敗したらどうしよう」などと弱気な考えが芽生えることはないですか?

「失敗したところで、やるしかない」ということの連続で、これまでもやってきたように思います。やらない選択肢はないというか。失敗しようが、周りが何と言おうがやると決まったらやるだけという、そのスタンスでやってきました。

──それが経験値となって、色々な演技に反映されていくのですね。

本当に、ひとつひとつの経験がすべてそうだと思います。自分という1本の木があったとしたら、すべての経験がそこから枝のように伸びて実をつけるものだと思っていて、すべてが繫がっている気がします。だからといって、このときの経験をこれに生かそうといったことは考えないタイプなんですけれど。確実に今までの経験が自分の血となり肉となり、無意識的にもそれを使ってまた新しいことをやる。その瞬間ごとの積み重ねで、過去と未来が繫がっている感覚です。

──素晴らしい考え方です。今、染五郎さん世代の方やOggi世代は、失敗に対して臆病な感覚が強いかもしれませんが、「やるしかない!」と迷いを断ち切る気持ちも大切かもしれませんね。

そうですね。やらないで失敗するより、やって失敗したほうが自分のためになるかなと思うんです。やってみないと何もわからないですから。わからないままというのは自分としてはすごく気持ち悪いので、やらない決断をしてしまってそれを引きずるよりも、やって失敗したほうがいいというか。もちろん、失敗はなるべくしたくないですけれども。

──そういった気概があるところは銕三郎にも似ていらっしゃいますね。

自分と似ているなと思う部分はありますね。だからこそ、とても愛着があるのかなと思います。

──常に仕事に向き合い続けていらっしゃる染五郎さんですが、オン・オフの切り替えはどのようにしていますか?

切り替えている感覚はなくて、逆に走り続けていないと不安になるタイプです。何かをするために休むのはいいのですが、単純に休みがあるだけだと、何をしていいのかわからなくなってしまって。

──車の運転がお好きと聞きましたが。

そうですね、移動でちょこちょこ運転をするのが一番のリフレッシュかもしれません。

──オープンカーを選ばれたとのことですが、その決め手は?

決め手と言いますか…、欲しかった車がたまたま父と同じ車種で、色違いにはしたのですが、それだけだとただの色違いになってしまうので、父との差別化を図るためにオープンカーにしたのが本当のところです(笑)。

──オープンカーで思いきり風を感じたい、などの理由があると思っていたので意外です(笑)。

しかも、買ってから気づきましたが、オープンにできる期間は限られているんですよね。夏は暑いですし、冬は寒いですし、春は花粉が入ってきますので、オープンカーにできない期間のほうが多くて、結局あまりオープンカーにできていないという(苦笑)。

──秋になったら思う存分、楽しみたいですね。最後になりますが、今後、俳優業だけでなく演出もされてみたいそうですが、それについてお聞かせください。

演出に関しては、昔からやりたいと強く思っていました。ありがたいことに、歌舞伎の新作で主役をやらせていただく機会があるときは、脚本をつくる段階から参加していたり、舞台セットや衣装についても一緒に考えさせてもらうこともあります。でも、自分の頭の中にあることを出発点として作品をつくったことはなくて。いろいろと自分なりにアイディアは考えています。

──幼少期から、犬のぬいぐるみを歌舞伎俳優に見立てた劇団「犬丸座」の座頭として、舞台装置や総合演出などをしていて、そのころからお変わりないのですね!

そうですね、ずっと好きです。最近思っていることは〝水〟を使った演出です。普段から、私自身が川や滝など水の流れを見ることがとても好きなんです。水はひとつの形にとどまらない物質で、その流れを見ていると、すごく落ち着くというか。なので、いつか水を使った舞台演出をしたいなと考えています。歌舞伎の舞台装置としても本物の水を滝のように使うことはあり、その中に入って立ち回りをすることがありますが、それとは違う使い方をしてみたいです。主人公の感情を水で表現したりするイメージです。

──素晴らしいアイディアです! 早く染五郎さんオリジナルの作品を観てみたいです。

水や音楽が、その場面その場面でずっと主人公の心を表すものとして存在している――、そういう舞台をつくってみたくて、アイディアだけはたまっていく一方で。メモしてストックしておきます。

【取材メモ】
21歳にして、多くの出演経験を重ねてきた歌舞伎俳優・市川染五郎さん。多彩なジャンルへの挑戦を自身の進化に直結させる姿や、「失敗しようがやるしかない」「やらない選択肢はなかった」という言葉からは、宿命を自身の意志に変えてきた重みが伝わってきます。どこか孤高で、達観した大人のような雰囲気を醸しながらも、時代劇や演劇に対する熱量の高さがギャップとなって、唯一無二の魅力に。進化が止まらない染五郎さんの活躍に今後も注目です!

特別先行版『鬼平犯科帳 本所の銕(てつ)/密告』

【原作】池波正太郎『鬼平犯科帳』(文春文庫刊)
【監督】山下智彦  【脚本】大森寿美男 【音楽】吉俣 良
7月10日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー

【出演】松本幸四郎 市川染五郎
仙道敦子 中村ゆり 和田聰宏 尾美としのり
本宮泰風 浅利陽介 山田純大 久保田悠来 山口馬木也
中島瑠菜 阿佐辰美 北澤 響 黒沢あすか 松尾貴史 駒木根葵汰 山田真歩

©日本映画放送

【あらすじ】
長谷川平蔵がまだ銕三郎と呼ばれ、放蕩無頼な青春時代を送っていた頃。銕三郎を仲間に引き入れようと御家人・横山小平次が近づいてくる。歯牙にもかけない銕三郎だったが、執念深い小平次は後を付け回し、やがて周囲をも巻き込みある事件が起こる…。
時が流れ、火付盗賊改方長官となった平蔵の留守中、賊の押込みを知らせる密告状が届く。筆頭与力・佐嶋忠介らが出張ると、盗賊・伏屋の紋蔵一味が押込みを働いていた。一網打尽にし紋蔵を取り調べると、「自分は平蔵の息子だ」 と言い放つ。紋蔵と対面した平蔵は、かつて温情をかけた町娘・お百の息子だと気が付く。平蔵は密告状の主がお百だと推察するが、彼女の身には危機が迫っていた―。

番組公式サイト

ジャケット¥143,000・パンツ¥59,400(エム<ウジョー>) その他/スタイリスト私物

問い合わせ先
エム TEL:03・6721・0406

撮影/岡本 俊 ヘア&メイク/川又由紀 スタイリスト/中西ナオ 取材・文/宮田典子

八代目 市川染五郎(いちかわ そめごろう)
2005年3月27日に十代目松本幸四郎の長男として東京に生まれる。2007年6月歌舞伎座『侠客春雨傘』で初お目見得(歌舞伎デビュー)。2009年6月歌舞伎座『門出祝寿連獅子』童後に孫獅子の精で初舞台。2018年1月・2月歌舞伎座『勧進帳』源義経ほかで八代目市川染五郎を襲名。映画『レジェンド&バタフライ』、Amazonオリジナル『人間標本』など映像作品への出演や、舞台『ハムレット』で初のストレートプレイに挑むなど、ジャンルを超えて活躍中。

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