ひとつの仕事の経験が次の仕事に成果としてつながっていくことが、役者の醍醐味
24時間365日、時代劇を放送する「時代劇専門チャンネル」に、劇場版『鬼平犯科帳 血闘』が登場。“新たな鬼平”では長谷川平蔵を10代目松本幸四郎さん、若き日の鬼平・長谷川銕三郎を長男の8代目市川染五郎さんが演じています。
染五郎さんは「新春浅草歌舞伎」にも初めて出演を果たし、若手歌舞伎俳優として大きく期待されている存在。仕事観やオフの日の過ごし方など、たっぷり話していただきました。
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――お父様の松本幸四郎さんは歌舞伎のみならず他の舞台作品や映像作品でも活躍されており、そこで得た経験や技術を結集させて素晴らしいアクションを見せてくださっています。染五郎さんも、歌舞伎以外の作品でいろいろ吸収したいという思いはありますか?
2024年末に劇団☆新感線がたずさわる歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』に出演させていただき、父と敵同士の役なので戦うシーンもありました。鬼平の殺陣と比べて、テンポとスピードが速い印象です。
でもそれについていけたのは、鬼平で基本から殺陣をきっちり教えていただいたからだと、あとになって実感しました。鬼平で得た経験が『朧の森〜』につながっていくように、ひとつの役で得たことを次に生かせるのは役者としてとてもありがたいことだと思っています。
――歌舞伎の殺陣と時代劇の殺陣は、まったく違いますか?
「人を攻撃する」という目的は一緒だと思います。その心は同じですが、歌舞伎は様式的な動きがあるため形の美しさを重視します。でも映像の殺陣はひとつひとつの形を見せるのではなく、流れるように斬って、決めるところでしっかり決める。そんな感じでしょうか。
――『血闘』では長回し(1カットで撮影する手法)の立ち回り(アクションシーン)があったそうですが、それは最後のシーンですか?
そうです。室内での殺陣だったので、大きく動くとセットを破壊してしまうということで、動きの加減が難しかったですね。心配でしたが、限られた空間の中で最大限に動くことを意識して演じたシーンです。
――その撮り方だったからか、画面から出てくるような感じがしました。
ご自宅のテレビで観ても迫力が伝わるとうれしいです。
――俳優以外のお仕事で挑戦したいものはありますか?
自ら「これをやりたい」ということはないかもしれないです。「市川染五郎」という役者がそこに入ることに意味があるのであれば挑戦したいです。
――染五郎さんにとってリラックスできる時間はなにをしているときですか?
う〜ん、ゲームをしているときと車を運転しているときです。あと、『婦人画報』という雑誌で10年くらい絵の連載をさせていただいていて、月に必ず1枚は絵を描いています。そういった趣味の時間でしょうか。
――絵を描くことで気分転換になったりしますか?
基本的に歌舞伎の絵や自分が出ている舞台の絵を描いているので、気分転換というより役の研究に近いかもしれません。絵を描くにあたり歌舞伎の写真や資料を調べることで、それが自分の知識として積み重なっていくので。
歌舞伎は様式美の極みの表現ではありますが、同じ役でも演じる役者によってまったく違うんです。パッと見てわかるのが、衣裳や化粧の違い。資料をじっくりなぞると、そういう部分の発見になって興味深いです。
――染五郎さんが稽古場に必ず持っていくものはありますか?
稽古着くらいです。歌舞伎の場合、稽古期間は多くて5日間くらい。舞台をしながら次の作品の稽古をして、舞台が終わったら稽古場で次作を詰める…というサイクルです。
でも、『朧の森に棲む鬼』のように外部の演出の方が入ると稽古がひと月あったりします。それでも時間が足りないとスタッフさんがおっしゃっていて、驚きました。
――ミュージカルや普通の舞台をメインにしている方は、逆に歌舞伎のお稽古期間の短さにびっくりしそうです。
そうですね。歌舞伎は新作でさえ5日の稽古でやることもあります。
――2025年は20歳になる年です。どんな年にしたいですか?
「20歳になるから」ということは、特にありません。目の前のことをひとつひとつ丁寧にやっていくことの連続で、1年で区切るという感覚があまりないんです。求められたことを確実に着実に、全力で向き合うことを2025年もその先もずっとやっていきたいと思っています。
――最後に、鬼平シリーズのファンの方や今回の劇場版『鬼平犯科帳 血闘』の放送を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
王道の時代劇らしさを残しながらも、今までにないような新しさも感じられる新シリーズ。時代劇がお好きな方も、今まで時代劇に触れたことのないような若い世代の方にも楽しんでいただける魅力があると思っています。幅広い年齢層の方に、ぜひ観ていただきたいです。
歌舞伎、時代劇、映像作品と幅広い分野で活躍する若手歌舞伎俳優・市川染五郎さん。インタビューからは、ひとつひとつの仕事に真摯に向き合い、常に学び続ける姿勢が印象的でした。自身の役作りについて語る際の誠実な言葉からは、歌舞伎界の未来を担う役者としての覚悟と誇りが感じられます。2025年も、その成長から目が離せません。
撮影/岡本 俊 ヘア&メイク/AKANE スタイリスト/中西ナオ 文/斉藤裕子
ジャケット¥66,000・シャツ¥39,600・パンツ¥55,000(ヨウジヤマモト プレスルーム〈グランド ワイ〉) ブーツ¥57,200(ワイズ プレスルーム〈ワイズ〉)
[問い合わせ先]
ヨウジヤマモト プレスルーム 03-5463-1500
ワイズ プレスルーム 03-5463-1540
劇場版『鬼平犯科帳 血闘』を時代劇専門チャンネルで早くも独占初放送!
海外からも注目を浴びた大迫力の殺陣(たて)をテレビでじっくり楽しめる!
【あらすじ】
長谷川平蔵(松本幸四郎)が若かりし頃に世話になった居酒屋の娘・おまさ(中村ゆり)が密偵になりたいと申し出て来る。平蔵はその願いを退けるが、おまさは平蔵が芋酒や「加賀や」の主人と盗賊の二つの顔を持つ鷺原の九平(柄本明)を探していることを知り、独断で探索に乗り出す。その後、九平を探すうちに兇賊・網切の甚五郎(北村有起哉)の企みを知ったおまさは首尾よく網切一味の中へ入り込む。しかし、おまさは絶大絶命の危機に陥る。
【出演】
松本幸四郎
市川染五郎 仙道敦子 中村ゆり 火野正平
本宮泰風 浅利陽介 山田純大 久保田悠来 柄本時生
松元ヒロ 中島多羅
志田未来 松本穂香 北村有起哉
中井貴一 柄本明
【原作】
池波正太郎『鬼平犯科帳』(文春文庫刊)
【時代劇専門チャンネル放送情報】
2025年1月13日(月・祝)ひる1時/よる7時/深夜1時ほか<独占初放送>
◆時代劇専門チャンネル 松本幸四郎主演「鬼平犯科帳」特設サイト
八代目 市川染五郎(いちかわ そめごろう)
2005年3月27日に10代目松本幸四郎の長男として東京に生まれる。2007年6月歌舞伎座『侠客春雨傘』で初お目見得(歌舞伎デビュー)。2009年6月歌舞伎座『門出祝寿連獅子』童後に孫獅子の精で初舞台。2018年1月・2月歌舞伎座『勧進帳』源義経ほかで8代目市川染五郎を襲名。2025年1月若手歌舞伎俳優の登竜門と言われる「新春浅草歌舞伎」に初出演。映画『レジェンド&バタフライ』、劇場版『鬼平犯科帳 血闘』など映像作品への出演や、劇場アニメ『サイダーのように言葉が湧き上がる』で主演声優を務めるなど、ジャンルを超えて活躍中。