沖縄が目指す“エシカルな観光” ― 旅が、地域の未来を育てる

「エシカルトラベルオキナワ」。―― 沖縄で2020年に始まったこの取り組みは、自然環境・命の尊重・地域文化・公平性という4つの基準を満たした事業者だけが選ばれる、沖縄独自の認証制度。現在は約60の事業者が参加し、観光客・地域住民・事業者が“三位一体”で持続可能な観光をつくろうとしている。今回訪れたのは、その中でも個性豊かな8つのスポット。どれも「エシカル=我慢する旅」ではなく、「未来の沖縄を一緒に育てる旅」へと視点を変えてくれる場所だった。
サトウキビの風景を未来へ残す、バガスデニムとの出会い

旅の始まりは、浦添の静かな住宅街にある「SHIMA DENIM WORKS」。沖縄の象徴ともいえるサトウキビ畑。その“風景”を未来へ残したいという思いから、サトウキビの搾りかす=バガスを使ったデニムづくりを開始。

バガスを粉砕し和紙にし糸へと変えていく工程は、ものづくりというより再生。将来的には環境負荷をより軽減させるため、沖縄で完結させるものづくりを目指しながら、今は全国の工場と連携しながら製造を進めています。印象的だったのは、修学旅行生の訪問が増えているという話。これまでの沖縄修学旅行=平和学習に加え、環境学習や体験型の学びが求められるようになり、バガスデニムは“沖縄の未来を考える教材”に。
豚と共に生きてきた沖縄の知恵を、食卓で味わう

サトウキビの循環に触れたあとは、名護へ移動。訪れた「満味」で、沖縄が古くから育んできた“豚と人の循環”に出会う。実は、沖縄で語られる「アグー」とは、本来は地名であり、ブランド名ではないと聞いて驚く。ところが市場には「アグー風」の豚が溢れ、本来の価値が曖昧になっている状況に嘆き、満味では「本物だけを丁寧に提供する」という姿勢を貫く。

かつて沖縄の家庭では豚を飼い、すべての部位を余すことなく食べ、「肺が悪ければ豚の肺を食べた」というかつての命と食べ物とが繋がっていたという話を聞けば、まさに“食べることは文化を受け継ぐこと”… アグー豚を食べながらそんなことを考えたりするのでした。
旅の途中で参加するビーチクリーン

満味で“命の循環”に触れたあと、海へ。旅の途中で誰でも参加できる、「プロジェクトマナティ」。仕組みは驚くほどシンプル。地域のパートナー店舗で500円を支払い、専用バッグを受け取り、近くのビーチへ向かい、拾ったゴミを店に持ち帰って分別するだけ。

訪れた名護・安部地区は、昔ながらの集落が残る静かなエリア。観光地化されていないナチュラルビーチでのビーチクリーンは、沖縄の原風景に触れる貴重な時間にも。海をきれいにするという行為以上に、「旅人も地域の一員になれる」という、そんな感覚が得られるたりもします。
発酵と再生をテーマにしたホテル

今回泊まったのは、北中城村の高台に佇む「暮らしの発酵ライフスタイルリゾート」。名前の通り、“発酵”がコンセプトのホテル。発酵といえば、味噌や醤油のような“食”を思い浮かべがちだが、このホテルが教えてくれるのは、発酵=微生物の力を借りて、ものをより良く変えていくことという、もっと大きな視点。

1972年、沖縄がまだアメリカ統治下時代、ヒルトンとして誕生。その後シェラトン、日本企業へと運営が変わり、バブル崩壊後はゴーストタウンに。その後、“壊さずに蘇らせる”という選択をしてホテルを復活せたのが、EM研究機構。自社農場の有機野菜、無投薬の平飼い卵、白砂糖不使用、できる限り添加物不使用という食へのこだわりから、生ゴミは自社農場で肥料化し、村全体の廃棄物もバイオマスとして活用まで。“発酵”にこだわりつつ、「循環」という“未来の暮らしを体験する時間”。
ビールを通して、地域の記憶と未来を醸す

発酵をテーマにした宿を後にし、クラフトビールの世界へ。沖縄市の小さなブルワリー「CLIFF GARO BREWING」。オーナーは、イギリスのナショナルトラストに感銘を受け、「壊さず守る」という思想をビールづくりに落とし込む。醸造後の麦芽カスは微生物で発酵させ肥料にし、その肥料で育った農産物を併設のレストランでの料理に使う。麦芽袋はバッグへ再生し、空き瓶は琉球ガラスのグラスに。

沖縄では生産者が少ない大麦を自ら栽培し、養蜂家やベリー農家など地域の生産者とつながりながら、沖縄の風土を“味”として表現している。ビールを飲むことが、地域の未来を支える行為になる。そんな新しいカルチャーを目指すクラフトビールブリューワリー。
美しい心を育てる、琉球箸の工房

「工房うるはし」で作られる“琉球箸”は、シークヮーサーや桜の木を使い、膨らみのある独特の形状が特徴。膨らみ部分を指で挟むと自然と正しい持ち方になるよう設計されている。戦後、沖縄はアメリカ食文化の影響で箸を使う機会が減り、親も共働きで子どもに躾を教える時間がなく、「箸の文化を取り戻すと同時に、沖縄の美しい心も取り戻したい」という思いから、箸づくりが始まったといいます。

体験では、木を削り、磨き、名前を入れ、アマニ油で仕上げていきます。因みに、シークヮーサーの木は驚くほど丈夫で長持ちするということ。
かつての学び舎が、地域の未来を育てる“新しい学校”へ

箸づくりのワークショップが行われている場所は、「喜如嘉翔学校」。廃校となった小学校を再生した複合施設。

現在は14のテナントが入居し、宿泊・カフェ・工芸・食など多様な活動が行われている。教室だった空間に工房が入り、図書室だった部屋にカフェが生まれ、体育館のような広いスペースではイベントが開かれる。かつて子どもたちが学んでいた場所が、今は地域の大人たちの学びと交流の場に。

元焼却炉を利用したハーブサウナも併設され、やんばる産のレモングラスや月桃、シークヮーサーの香りが、ロウリュの熱と混ざり合って広がる。かつて燃やす場所だった空間が、今は癒やしの場所として生まれ変わったのだ。

また、2025年夏には宿泊施設「BUNAGAYA」もOPEN。喜如嘉翔学校は「廃校をどう使うか」ではなく、「学校という場所が持つ力をどう未来へつなぐか」を体現している場所だといい、地域の人が集まり、旅人が混ざり、文化が育つ“現代の学校”のような存在を目指している。
「廃てない」を徹底、小さなパティスリーの大きな覚悟

旅の最後に訪れたのは、豊見城の「ペストリーうんてん」。ここでは、洋菓子づくりの裏側にある“見えない廃棄”と真正面から向き合っている。洋菓子業界では、100個売るために150個作り、50個を捨てることも珍しくないという。一方で、農家には規格外のフルーツが行き場を失っている。その両方の“もったいない”をつなげるために、この店を立ち上げたという。

「廃棄を出さないために、作り置きをしない」という覚悟が、店のすべての仕組みを決めている。必要な分だけ作ることで、保存料や添加物を使わない。そのことで味期限は短くなり、流通にも適さなくなる。それでも、「美味しいだけでもダメ。安心安全だけでもダメ。両方を成立させたい」と頑張る。規格外のフルーツは“安く買い叩く”のではなく、適正価格で買い取る。ここにも、沖縄独特の文化、“ゆいまーる(助け合い)”の精神が息づく。そんな、沖縄の歴史や風景、文化を「お菓子という言語」に翻訳したような、そんな素敵な店。
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今回の旅で感じたのは、沖縄における“エシカル”とは特別なことではなく、沖縄の人たちが昔から大切にしてきた「つながり」「循環」「思いやり」の延長線上にあるということ。サトウキビの畑も、豚の文化も、海も、手仕事も、食も。すべてが未来へ向かって静かに繋がっている。旅は、誰かの暮らしの中にそっと入っていく行為。そしてその旅が、地域の未来を少しだけ明るくすることができるなら、それはとても幸せなことだと、そんなことを感じた今回の沖縄旅。

山下マヌー Manoue Yamashita
雑誌編集者を経て旅行文筆家に。渡航回数400回超、著作数は65タイトル。2022年よりANA「翼の王国」スーバーバイザーを務める。
After a career as a magazine editor, became a travel writer, embarking on over 400 journeys and authoring 65 books. Since 2022, has served as a supervisor for ANA’s 「Tsubasa no Ōkoku」



