耳恋♡ 推しの声が聞きたくて Vol.33|戸谷菊之介

戸谷菊之介(とや・きくのすけ)
1998年11月30日、東京都生まれ。2017年ソニー・ミュージックアーティスツ主催の声優オーディションで特別賞を受賞。2022年、『チェンソーマン』デンジ役でTVアニメ初主演を果たし、2024年には『第十八回声優アワード』新人声優賞を受賞。
声優・戸谷菊之介さん インタビュー
たくさんのものを与えて今につなげてくれた役
人間にはだれしも人生のターニングポイントとなる出会いがある。2022年に放送されたTVアニメ『チェンソーマン』の主人公・デンジ役が、戸谷さんにとってのそれだ。悪魔を身に宿した少年・デンジが、デビルハンターとして活躍する姿を描いたダークヒーローアクション作品で、原作コミックスの累計発行部数は現在3000万部超。そして、TVシリーズの最終回からつながる劇場版『チェンソーマン レゼ篇』が先日公開され、今、改めて注目を集めている。大人気少年漫画のアニメ化、その主人公に抜擢されたのが、新人声優の戸谷さんだった。
「はじめてオーディションで受かった役で、はじめての主人公。アフレコもはじめはわからないことだらけ。だけど、そんな中だからこそ得た学びや出会いがありましたし、デンジを演じたことで僕の芝居に興味を持ってくれた方がたくさんいる。何もわからなかった僕に、たくさんのものを与えてくれた役、そして今につなげてくれた役だと思っています」

そうして一躍、若手声優の注目株となった戸谷さん。評価されたのは、ナチュラルな演技だった。
「リアルに役をつくる、リアルにしゃべる、リアルに感じる… お芝居の基本ですけど、そこは徹底してやろうと決めています。形だけだとやり切った感じがしないし、お客さんにも伝わらないと思うし、自分も納得できないですから。
たとえば、役と同じ体勢になってみるとか、同じものを食べながらセリフをしゃべってみるとか… 作品の中でデンジが『美味い!』と食べていた〝最強のパン〟を自分でつくって食べたりもしました。いろんなジャムやバターや蜂蜜を混ぜてパンに塗って食べるんですけど、それが美味しくない(笑)。これを美味しいと思えるってどういうこと!? と考えたり、戦闘シーンで背中をぶつけるシーンがあれば自分も壁に背中をぶつけてみたり…。ぶつかるのは背中でも胸まで衝撃がくるんだとか、こんな声が漏れるんだとか、そういう〝本当のところ〟を考えるのが好きなんです」
事前の研究に裏打ちされたリアルな芝居。いざマイクの前に立ったときは、どんなことを考えながら役に向き合うのだろうか。
「いただいた台本から流れや感情をひとつひとつ読みといて、考えて、できるだけの準備をする。そしてそのすべてを持っていって、演じるときは何も考えない。それが僕のスタンスです。スタンスというか、目標ですね」

演じるまでに積み重ねていく準備。それは「すればするだけいい」というのが戸谷さんの自論だ。
「僕、緊張しやすいんです。特にアフレコの初回とかめっちゃくちゃ緊張します(苦笑)。だからこそ、原作をとにかく読み込んだり、セリフも裏側まで読み取ってやろうって。準備をすることで不安をなくして、緊張を解いていく… そんな感覚です。ここまでやれば、だれにも何も言われない。堂々としていられる。マイクの前でいかに集中できるかが勝負ですから」

楽しくて、楽しんで、声優の仕事をしている
目の前の仕事をストイックに〝満喫〟する戸谷さん。劇場版『チェンソーマン レゼ篇』についても「やりたいシーンや言いたいセリフが詰まっている。そんな『レゼ篇』の映画化を知ったときは本当にうれしくて」と笑顔で振り返る。
「『わかる〜』と思いながらずっと原作で読んでいた『俺は俺の事を好きな人が好きだ』というデンジのセリフを言えて光栄でしたし、レゼ役は上田麗奈さん! もともと上田さんのお芝居がすごく好きだったんですが、アフレコでは隣でレゼが生きているようで、とてもやりやすくて…『あのアニメ観てました!』から『それ、どうやるんですか?』まで、幅広くお話しさせてもらいました」
そうしたエピソードを語る言葉の端々から、仕事をまっすぐ楽しんでいる気持ちが伝わってくる。
「楽しくてこの仕事をしていますし、楽しんだことが仕事になったらいいなと思っています。だからこそ、ストレスがないように不安をなくしていく… 準備することが大事なんですよね。TVシリーズの収録中は、1週間まるまる作品のことを考えていたりもしました(笑)。『そこまでやる?』ってことも、何かそこにヒントがあるかもしれないって思うと、やりたくなるんです」

面白いことが好き。夢はお笑い芸人だった
多くの人に囲まれながらの撮影もインタビューも、笑顔で自然体。そんな戸谷さんは自身のことを「面白いことが好きな人」と語る。
「お笑いが好きで、もともとは芸人を目指していました。今も自分でネタをつくってイベントで披露しているんですよ。声優と芸人と… 職業こそ違えど『面白いことがしたい』気持ちは同じ。しだいにお芝居の面白さにのめり込んでいきましたが、大枠で見ると違いはありません。やりたいことをやらないまま終わりたくない。その気持ちだけはずっと持っていて、ゆえに今があるんだと思います」

そんな戸谷さんは、未来への思考もナチュラルかつシンプルだ。
「『こういう役がやりたい』とか『こうなりたい』という願望はなくて…。いろいろな役に出会えて、いろいろな役を演じさせていただけている。そんな〝今〟が変わらず続いていけばいいなって」
それは今が充実している何よりの証拠だが、新たな興味へのアプローチが消えることはない。
「最近は〝お笑いモチベ〟がすごく上がっていて、一度ちゃんとお笑いとも向き合いたいなと思っています。それから、音楽も好き。トロンボーンを吹いたり、ピアノの弾き語りをしてきたんですが… 最近はDTMでの作曲も勉強しています。新しいことを始めて、新しいことを知るのが好きなんですよ」
自分に素直に。まっすぐな行動の先に、面白い道が拓けていく。
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』大ヒット公開中!

大人気作品『チェンソーマン』が初の映画化! 悪魔の心臓をもつ〝チェンソーマン〟となり、公安対魔特異4課に所属するデビルハンターの少年・デンジ。憧れのマキマとのデートで浮かれる中、謎の少女・レゼと出会う。デンジの日常を変化させていくレゼの正体とは…?
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【衣装】ジャケット・パンツ/参考商品(三共生興ファッションサービス〈DAKS〉) その他/スタイリスト私物
2025年Oggi11月号「耳恋♡ 推しの声が聞きたくて Vol.33」より
撮影/遠藤優貴 スタイリスト/カワセ136(afnormal) ヘア&メイク/齊藤沙織 構成/旧井菜月
再構成/Oggi.jp
Oggi編集部
「Oggi」は1992年(平成4年)8月、「グローバルキャリアのライフスタイル・ファッション誌」として小学館より創刊。現在は、ファッション・美容からビジネス&ライフスタイルテーマまで、ワーキングウーマンの役に立つあらゆるトピックを扱う。ファッションのテイストはシンプルなアイテムをベースにした、仕事の場にふさわしい知性と品格のあるスタイルが提案が得意。WEBメディアでも、アラサー世代のキャリアアップや仕事での自己実現、おしゃれ、美容、知識、健康、結婚と幅広いテーマを取材し、「今日(=Oggi)」をよりおしゃれに美しく輝くための、リアルで質の高いコンテンツを発信中。
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