恋の終わりは「脳」から始まる!? 恋が一生続かない理由
「遅刻癖がやめられない」「夜に寂しくなってしまう」「後悔してばかり」…。このような「ついやってしまうこと」「できないこと」で悩んでいる人も多いでしょう。じつは生物学的には、そうした行動や感情は人間の遺伝子に予め組み込まれており、「やめられなくても当然」であることが判明しています。このような、人間が「努力してもしょうがないこと」の秘密を、明治大学教授で、進化心理学の第一人者である石川幹人氏が解き明かします。
恋をするとドキドキするのは「戦闘態勢」に入るため
理想の人に恋こがれると胸がときめきます。心臓がドキドキしたり苦しくなったりと、胸が締めつけられる状態になります。
……これは、生殖行動の予感です。あえて動物にあてはめれば「発情」です。危険を察知して恐怖を感じたときもドキドキしますね。これがネガティブな興奮であるとすると、恋心を感じたときはポジティブな興奮です。
戦闘や逃走と同じように生殖行動にも運動が必要なので、その準備のための興奮態勢が欠かせないのです。
恋の終わりは「脳」から始まる
ところが、興奮が繰り返されると沈静化するようになります。いわゆるハネムーン期間の終了です。
脳の中では、たびたび分泌されていた興奮のための神経伝達物質が出にくくなっていきます。繰り返しの興奮は体力を奪うので、脳に防御反応が備わっているのです。
そうなると、「あばたもえくぼ」に見えていた興奮状態から、「あばたはあばた」の冷静状態に転じていきます。恋心に隠れて気にならなくなっていたパートナーの悪癖が、いやに目立ってくるのです。離婚が多いのもうなずけますね。
パートナーが恋人から友人に変わるわけ
しかし、ヒトには人間同士を結びつける友愛が進化しています。恋愛が友愛に転換できれば、パートナーの関係を維持できるのです。
友愛は、愛情ホルモンとされるオキシトシンによって成立しています。オキシトシンは本来、子どもの養育行動を促す目的で動物に進化していました。それが、狩猟採集時代の人類では、集団の仲間を長期的に助ける目的に使われるようになったのです。
オキシトシンによって友愛が芽生えていれば、恋心がさめてもパートナー同士が助け合っていけます。高齢者になっても婚姻関係を維持できる原動力になっています。
母親が産後、心配性になり、夫婦仲が冷めるには理由があった
しかし、オキシトシン分泌はいいことばかりをもたらすわけではありません。関係を守る心理が逆に、関係破壊に対する過度な警戒を呼び起こすのです。
たとえば、出産を終えた母親では大量のオキシトシンが分泌されるので、子どもを守ろうという思いが強くなります。そのため、些細なことでも子どもに危険が及ぶと思いやすくなり、警戒心が高まります。産後うつをもたらすのです。
なお、出産をしない父親には通常、オキシトシンが母親ほど分泌されないので、父親の子どもに対する態度を母親が冷淡に感じ、母子が守られていないと母親が不安に思う傾向があります。
つまりオキシトシンは、内部の結びつきを強めるとともに見知らぬ者を排斥するという「部族意識」の基盤をも作っているのです。「愛国心=敵がい心」の関係ですが、こんなところにも生物学的な由来が見られます。
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▲『生物学的に、しょうがない!』(著者:石川幹人・出版:サンマーク出版)
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進化心理学者 石川幹人
1959年、東京都生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。
東京工業大学理学部応用物理学科(生物物理学)卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知科学、遺伝子情報処理。【生物進化論の心理学や社会学への応用】【人工知能(AI)および心の科学の基礎論研究】【科学コミュニケーションおよび科学リテラシー教育】【超心理学を例にした疑似科学研究】などの生物学や脳科学、心理学の領域を長年、研究し続けている。
「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。主な著書に、『職場のざんねんな人図鑑』(技術評論社)、『その悩み「9割が勘違い」』(KADOKAWA)、『なぜ疑似科学が社会を動かすのか』(PHP新書)ほか多数。