本当に「お金」が欲しい?
「お金持ちになる」と宣言してから、私の言動は少しずつ変わっていった。
一番わかりやすい変化は「お金がない」と口にしなくなったこと。そう言っていると、それだけで貧乏神になる気がして。
同時に「お金が好き」「お金があるって幸せだ」と思うようになったら、見える世界は徐々に変化していった。学食の二百五十円のカレーライスも、テニスコートまでの電車代三百四十円も、全部お金があるおかげなんだな、と思うと、何だかほっこりと幸せな気持ちを感じるようになった。
それでもまだまだ、金額としてはお金持ちであるとは言えず、この見習い状態を何年続けたらお金持ちになれるのかは、到底見当もつかなかったけれど。
「金持ちになりたい=お金自体が欲しい」ではない
「お金が『ある』のも、それに感謝できるのが大事だってこともわかったけど、ここからどう増えてくのか全然わからないよー」
いつものように証券会社のロビーで隣に座っていたえびすさまに、思わずぼやく。すると、えびすさまは不思議そうな表情で聞いてきた。
「あすかちゃんは、お金が欲しいの?」
え? 何でそんな当たり前のこと聞くんだろう。お金を持っている人がお金持ちだもんね?
「うん、欲しい。欲しいに決まってるじゃない。だってお金持ちって、お金を持ってる人でしょ? お金のない『お金持ち』なんていないでしょ?」
ははーん、としたり顔でえびすさまは頷き、訂正を始めた。
「お金を持っているのがお金持ち、というのは確かにそうなんだけど、そこを今の状態で目指すと、あすかちゃんが思っている方向とはかけ離れたところに行ってしまうんだよね」
「かけ離れたところ? どういうこと?」
「今のあすかちゃんの言葉は、目的と手段が混同してしまっている状態ゆえの台詞なんだ。金持ちは、お金自体が欲しいのではない。ちなみに、金持ちでない人もやっぱり、お金自体が欲しいのではない」
お金「自体」という言葉が妙に引っかかった。お金自体じゃないとすると、私が手に入れたいものって何なんだろう?
「お金が欲しい、と口にする人は確かにたくさんいる。でもそれは、実は多大なる勘違いなんだ。あすかちゃんも、そして他の多くの人もみんな、本当にお金が欲しいわけではない。お金が欲しい、と言う人ほど自分と向き合わず、自分自身を蔑ろにしているね。自分との対話がうまくできていない、ということだから。
本当に欲しいのはお金じゃない。求めているのはもっと別のもの…… その先の『感情』なんだ。手に入れたい感情があるから稼ぐ。そして、その感情を実際に手に入れるために、使う。お金は、そういった感情を得るための『交換券』に過ぎないんだよね」
交換券。お金が交換券だなんて畏れ多く感じてしまうけれど…… 文化祭の金券と一緒って思えば良いのかな。お団子や焼きとうもろこしを食べたり、お化け屋敷に入るのに使ったり。そう思うと交換券、っていうのも、まぁ、合っている気がする。
「交換券、って面白いね! いっぱい集めるほど、色んなものと交換できるってことでしょう?」
「そういうこと。交換先はモノ以外にも色々あるけどね。あすかちゃん。お金があったら何がしたい?」
えびすさまが楽しそうに聞いてくる。
求めるのはその先にある「幸福感」
「んー、星付きの美味しいレストランに行ってフルコースを堪能したり、ビジネスクラスで世界中を旅したり、かなぁ。おしゃれなブランドバッグも欲しいし、広いおうちにも引っ越したい! あ、就職はしないかな、お金があるなら、わざわざ働く必要もないし」
妄想で楽しくなってつい矢継ぎ早に答えてしまったけれど、あまりに俗世すぎて呆れられてしまったかしら……。
恐る恐るえびすさまの表情を伺うと、いつも通りのにこにこ笑顔でほっとひと安心。ちっぽけな私の夢をこんな笑みで聞いてくれるなんて、この人は本当に、どこまで寛容なんだろう。
「うん、叶えたいことはたくさんあるよね。今の段階ではなおさらだ。むしろ、数えきれないほどたくさんあっていい。ただ、これらの叶えたいことが決して『それ自体』をしたいのではない、ということをわかっていればね。
人がお金を稼ごうとするのは、叶えたい夢、それを実現することで得られる『幸福感』を求めているから、ということをきちんと覚えておく必要がある。どんな人も、感情からは逃れられない。人生は感情が全て。地位や名誉を求めるのも、モテたいのも、ちやほやされて『良い気持ち』になりたいから。求めているのは幸せや楽しさ、充実感なんだ」
欲しいのが『幸福感』? ここで、私にある疑問が浮かんできた。
「でも、それっておかしくない? 本当に幸福感が欲しいんだったら、それさえ得られるのであれば、お金は必ずしもいらないって話になるよね?」
「良いところに気が付いたねぇ」えびすさまは嬉しそうに笑う。
「そう、幸せな感情を満たすことに焦点を当てると、お金持ちになる前段階から、満ち足りた豊かな人生を歩めるようになる。これが、『お金がなくても幸せ』の原理だ。
十分なお金がなくても叶うことはたくさんあるね。その上で、お金があると、叶うことがもっと増える。幸せな瞬間を人生でたくさん集めたいから、多く体験したいから、だったらお金はあったほうがいいよね、ということなんだよ」
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次回は、お金持ちになるうえで自覚しておきたいポイントのお話です。
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職業お金持ち 冨塚あすか
個人投資家。1988年生まれ、仙台出身。慶應義塾大学卒。「お金を理由に何かを諦める、という事態とは生涯無縁でいよう」と決め、20歳のときに10万円から資産運用を始める。紆余曲折ありながらも持ち前の分析力と嗅覚、人当たりや運の良さで資産を順調に拡大。会社員を辞めてからは2年ほど、専業投資家として資産運用のみで生活をする。現在は、オンラインサロンを通じて、投資の仕方や生き方、女性がお金持ちになるために必要な「お金の帝王学」について指南している。趣味は旅行と食べ歩き、お金持ちの話を聞くこと。
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