新しいエンターテインメントのカタチ。ようこそ!【オンラインライブ】へ
これから主流になりつつ「オンラインライブ」について、音楽ジャーナリトの柴 那典さんに教えてもらいました!
音楽ジャーナリトの柴 那典(しば・とものり)さん
1976年生まれ。音楽メディア企業「ロッキング・オン」社を経て独立。雑誌、WEBなどさまざまなメディアで、音楽やサブカルチャー分野を中心にインタビューや記事の執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)など。
オンラインライブ元年の急速な幕開け
Oggi編集部(以下Oggi) 2020年はだれもが大きな変化を経験した年でしたが、音楽の楽しみ方も大きく変わりましたよね。ライブをオンラインで楽しむなんて、1年前は想像もしていませんでしたが、以前からあったスタイルなんですか?
柴さん(以下敬称略) 日本最大規模の野外フェス、フジロックフェスティバルが一部のパフォーマンスをYouTubeでライブ配信したり、チケットが取れないライブを映画館でライブビューイングしたり、という取り組みはありました。でも、有料で電子チケットを買って、スマホやPC、テレビなどでライブの配信を視聴する形が一般的になったのは、2020年が初めてのことでしたね。
Oggi オンラインライブが始まったのはいつごろでしたっけ?
柴 政府から、コロナ禍による大規模イベント自粛要請が出て、アリーナやホール、スタジアム級のライブが軒並み中止・延期されたのが2月下旬のこと。そのころから一部のライブが、無観客ライブとして無料で配信され始めました。会場の設営もリハーサルも済ませているのに中止になってしまったので、「ファンに少しでも喜んでもらおう」という思いからです。
Oggi ファンとしてはうれしいですが… 採算はとれませんよね。
柴 そう、このままではサステナブルではないということで、音楽業界の危機にいち早く対応したのが、ceroというバンドとZAIKOという電子チケット販売プラットフォームです。3月なかばにいち早く、有料オンラインライブを行ったんですよ。
Oggi すごいスピード感!
柴 その後、緊急事態宣言でライブどころか外出もままならなかった4〜5月を経て、次のターニングポイントになったのが6月25日に開催されたサザンオールスターズの配信ライブ。約18万人がチケットを購入し、推定50万人が視聴したと言われています。
このころには大手プラットフォームのライブ配信サービスも整い、「無観客ライブは無料ではなく、チケットを買って自宅で楽しむものなんだ」という認識が広まるきっかけになりました。先ほどお話ししたZAIKOだけでも、11月なかばまでの間に3500本を超えるライブが配信されたそうです。
オンラインライブはリアルなライブにとって代わる!?
Oggi オンラインライブが一気に広まったんですね。多くのライブが配信されて、何十万人という視聴者がいれば、アーティストたちもひとまず安心して音楽活動を続けられそうですか?
柴 それがそうとも言えなくて…。コンサートの事業者やプロダクションにも取材をしたところ、売り上げが戻ったかといえば、まったくそういうわけではないということでした。少し大きな話になりますが、CDが売れなくなったという話は聞いたことがありますか?
Oggi なんとなく…。ストリーミングサービスで聴くことも増えましたしね。
柴 ここ数年で、ようやくストリーミングサービスの再生回数が、アーティストの収益につながるようになってきました。でもこの20年間、1998年をピークに下降し続けてきたCDの売り上げに代わってアーティストたちを支えてきたのは、実はライブだったんです。大ヒットを連発するようなアーティストではなくても、地道にライブ活動を続けていれば収益が上がる構造ができて、ライブの動員数も市場も右肩上がりだったんですよ。
Oggi そこにコロナ禍で、ライブ自粛ですか…。
柴 そう、だからこそ余計に打撃が大きくて。もちろんオンラインライブもやらないよりはいいす。アーティストだけではなく、音響や照明など、ライブの現場スタッフたちの生活を支えることにもなりますし。でも、リアルなライブだったら全国10ヶ所以上で何十公演とツアーをしていたアーティストも、オンラインだと基本的には1回公演になってしまいます。何度も同じことをするわけにはいきませんから。となると、収益的にはオンラインライブ1回でリアルな全国ツアーを補うのはやっぱり難しいですね。
Oggi オンラインでグッズも買えるようですし、少しでも応援できるといいですね。アーティストたちはこの事態を、どのように受け止めているんでしょうか?
柴 正直なところ「観客のいない空っぽの空間でライブをするのは、やりづらい」という声は少なくありません。「やっぱり、ファンの前でパフォーマンスをしたい!」という思いは強い。でも一方で、オンラインだからこそできることを探求しています。ライブチャットを使ってファンとコミュニケーションをとったり、ミュージックビデオのような映像作品としてのクオリティ高めたり…。K-POPで顕著なのは、AR(拡張現実)といった最新技術やグラフィックを駆使したオンライン専用の演出。背景が全面ビジョンで、アーティストがCGの中でパフォーマンスしているような迫力ある映像が楽しめて人気ですよ。
Oggi それは観てみたい! もちろん、アーティストと同じ間で、大音響の振動を体感するようなリアルなライブの醍醐味とは違うでしょうが、楽しみ方はむしろ増えたのかもしれませんね。
リアルなライブと同時に配信する“ハイブリッドライブ”が今後は増えていくでしょう
柴 そうそう、CGのアバターがパフォーマンスをするVTuberのように、ライブ空間としてオンラインのほうが適しているアーティストも増えていますしね。
Oggi それに、これまでチケットが取れなかったライブや、地方在住や育児中などで会場に足を運ぶのが難しい人も、「オンラインなら!」とライブが楽しめるのはうれしいです。
柴 そうですね。リアルなライブも少しずつ復活していますが、オンラインライブも一時のブームに終わらず、今後も定着していくと思います。たとえばリアルなライブの全国ツアーを行って、ラストの公演をリアルと同時にオンラインで配信するといった〝ハイブリッド型〟のライブが主流になるのでは。より多くの人に音楽を届けることができる選択肢が増えたという意味で、音楽業界にとっても明るい展望があるんじゃないかな、と思っています。
オンラインライブはひと工夫でもっと楽しめる!
Oggi 私たちが、オンラインライブをより楽しむためのコツってあるんでしょうか?
柴 できれば、スマホではなく大きな画面で観てほしいですね。ネットやスマホ、PCにつなげられるテレビも多いですし、モバイルプロジェクターで白い壁に映すのもオススメ。部屋を暗くして大きな画面で観れば、ライブ空間に没入することができます。
Oggi 最近はリーズナブルなプロジェクターもいろいろ出ていますもんね。
柴 スマホで観ないメリットはもうひとつあって、デバイスがふたつあれば、ライブを観ながら手元のスマホでファン同士のコミュニケーションがとれるんです。Twitterのハッシュタグでも、リアルなライブに一緒に行っていたライブ仲間とLINEでも、「この曲、来たー!!」みたいな会話や感想を共有しながら盛り上がれるのは、オンラインならでは!
Oggi 楽しそう!
柴 それと、オンラインライブはたいていアーカイブでも視聴できますが、やっぱりオンタイムにライブで観るほうが、気持ちは高まります(笑)。
Oggi 同じ時間をアーティストやたくさんのファンと共有している実感がもてますね。年末年始、自宅でのんびり過ごしている人も多いと思いますが… オンラインライブのチケット購入はまだ間に合いますか?
柴 オンラインライブは告知も比較的直前にされることが多いですし、チケットは当日でも、なんならアーカイブ期間中にも買えます。ぜひチェックしてみてください!
2020年、音楽コンサートの市場規模は2019年の8割以上減!
▲ぴあ総研「2020年ライブ・エンタテインメント市場規模の推移」より ※’20年試算値(’20年10月25日時点)
ぴあ総研の調査によれば、ポップスからクラシック、演歌、ジャズまで、日本国内で開催されたライブ・コンサートのチケット推計販売額は年々増加し、’19年には’10年の2.5倍以上に。アーティストにとっては〝音源よりライブで稼ぐ時代〟になっていた。’20年のデータにオンラインライブは反映されていないが、また別の調査では、今後3~4年でオンラインライブ市場が1000億円規模に成長するという推計も。
オンラインライブにまつわる、覚えておきたい3つのキーワードを押さえよう!
1|ZAIKO
電子チケットの発券・販売、コンテンツ配信を一元化して提供するプラットフォームのスタートアップ企業。いち早く有料ライブ配信事業を始め、音楽だけではなく演劇、落語、人気声優のトークショー配信などでも注目を集めている。
2|K-POP
10月に行われたBTSのオンラインライブ(写真)はARや4Kを取り入れ、191の国と地域で99万人以上が視聴。SUPER JUNIORなどが出演するオンラインライブ専用サービス「Beyond LIVE」では、デジタルペンライトを使って応援もできる。
3|チケット購入
リアルなライブと異なり、チケット数の上限がないオンラインライブでは配信寸前までチケットが売れ続け、当日に購入する人も3割弱。なお、ライブチケットの価格はリアルなライブより安く、¥3,000~4,000に設定されていることが多い。
▼配信チケット購入のタイミング
ZAIKO「コロナ禍以降(2020年3月~8月期)におけるオンラインライブ配信に関するマーケット調査」より
2021年Oggi2月号「Oggi大学」より
イラスト/八重樫王明 構成/酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部