友達と会えなくてもさみしくない…。こんな自分って変なのだろうか?
友達と食事に行くこともままならない昨今。だけど「ひとりって悪くないかも」と気づいた人も多いはず。図らずも自分と向き合う時間を得て、改めて「ひとり」を考えてみよう!
おひとり様の自由さが人生を変える小説
『サキの忘れ物』
友達に会えなくてもさみしくない? 全然おかしくないと思う。だれにも気を使わず、自分の好きなことをして過ごすのは楽しいから。無理せず、ひとりでも満ち足りることができる人は、他人にもいい影響を与えるだろう。津村記久子の『サキの忘れ物』のように。9つの話を収めた短編集だ。
表題作の主人公・千春は18歳。高校を中退して病院併設の喫茶店で働いている。あるとき千春は常連客の女の人に興味をもつ。その女性客はいつも同じぐらいの時間にきて、平日は閉店まで本を読む。座る席にこだわりはなく、注文するメニューもバラバラだ。自分の母親よりも年上の女の人がひとりでクリームソーダを飲む光景を見て、千春のなかで何かが動きだす。
まず千春は、自分が遊ぶための費用を浮かせるためだけに喫茶店を訪れている、高校時代の友達の理不尽な要求に抗う。彼女のふるまいをイヤだと感じていたことに気づいたのだ。友達は怒るが千春の心は少し解放される。そして、常連客の女の人が忘れていったサキという作家の文庫本をきっかけに、夢中になれるものがなかった千春の人生も変わっていく。
『サキの忘れ物』(新潮社)
著/津村記久子
閉店が決まった紅茶専門店に訪れる人々をリアルに描いた「喫茶店の周波数」、威圧的な上司に言いがかりをつけられた会社員が思いがけない冒険をする「隣のビル」など9編を収録。「真夜中をさまようゲームブック」は読む人の選択によって話の展開が変わる、ロールプレイングゲームのようなユニークな構成。
心のマネジメント方法を教えてくれるエッセイ集
『くよくよマネジメント』
津村さんが書く小説の人物は、仲のいい友達は登場しても、依存しない人が多い。孤独を受け入れながらも、他人と緩やかに繫がっているところが魅力だ。津村さんの著書は、どれもひとりの時間を豊かにしてくれるのだが『くよくよマネジメント』を読むと、津村さん自身のものの見方がよく伝わってくる。日々の生活でいろんなことを思い悩みがちな自分と向き合ったエッセイ集だ。
なかでも真似してみたいと思ったのが「手書きによる心の保存方法」。文具好きの津村さんは、ノートをたくさん集めている。それで、ある時期に「手書きツイッター」を始めた。人にうまく説明できない心配事や不安をノートに書き留めたのだ。自分の感情の推移を記録することによって、「ある日の不安」が時間が経つにつれて、どうでもよくなってきているという事実が可視化されるのだという。
そういったことをSNSで外部に発信すると、どうしても周囲の反応を期待してしまう。望む言葉が得られないと余計につらい。津村さんのように「公開しない人生の部分」を大切にして、急がず自力で乗り越えたい。
『くよくよマネジメント』(清流出版)
著/津村記久子
悩みを人に言ったときのほうがストレスが長く続く理由を分析した「愚痴の危険な側面」、面倒くさいことから逃げたくなったときに役立つ「明日の自分を接待する」など、メンタルの状態を安定させる方法を考察した本。森下えみこによる4コマ漫画も、ゆるっとしたテイストで〝あるある〟が展開されて楽しい。
2020年Oggi10月号「『女』を読む」より
構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
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石井千湖
いしい・ちこ/書評家。大学卒業後、約8年間の書店勤務を経て、現在は新聞や雑誌で主に小説を紹介している。著書に『文豪たちの友情』、共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』がある(すべて立東舎)。