外出は少し控え気味の今。美しいものに触れて目の保養をしたい!
以前のように気軽に外出ができなくなり、美しい景色、刺激的なアートから少し遠ざかってしまった昨今。それならば、写真や絵など本から美しいものに触れてみるのはいかが?
女性写真家の勇気と情熱を感じる写真集
『ウーマン・オブ・ビジョン ナショナル ジオグラフィックの女性写真家』
インスタグラムでいろいろな人のスナップを見るのも楽しいけれど、紙に印刷された美しい写真には「モノ」として存在することの力を感じる。
『ウーマン・オブ・ビジョン ナショナル ジオグラフィックの女性写真家』は、11人の女性写真家による作品集。表紙に写っている少女は、北極圏でトナカイを飼う「サーミ」と呼ばれる遊牧民だ。この写真を撮ったエリカ・ラーセンは、「サーミ」の居住地で3年ほど手伝いをしながら暮らし、取材相手と関係を築いたという。独特な文化に敬意をもって向き合っていることが、被写体のやわらかな表情から伝わってくるようだ。
エイミー・トンシングの作品は構図が大胆でドラマティックだ。砂漠で焚き火を静かに見守るアボリジニの少年は、何を思っているのか。干ばつに襲われたオーストラリアの農夫とその子供たちは、失った緑の大地をいつ取り戻せるのか。自分の肖像画の下で愛犬を間にはさんで眠ろうとしている老兄弟は、どんなことを語らっているのか。写真の背景に広がるストーリーを想像してしまう。
30年間、アフリカのボツワナに暮らすビバリー・ジュベールの動物写真は、緑の葉っぱの隙間に光るヒョウの黄金色の瞳など、一瞬の切り取り方が鮮烈だ。たとえば「砂漠の洪水」。大雨で川が氾濫し、水浸しになったボツワナのデルタ地帯を3頭のシマウマが渡る。カラー写真なのに水墨画のような、幻想的な風景にひきつけられる。
戦争や社会問題を扱っている作品も多く、無邪気に「きれい」とは言えない。しかし、ページをめくっていると、かつては男社会だった〝写真〟という分野に挑戦して成功した、女性たちの勇気と情熱を分けてもらえるような感じがする。
『ウーマン・オブ・ビジョン ナショナル ジオグラフィックの女性写真家』(日経ナショナル ジオグラフィック社)
編/ナショナル ジオグラフィック
紛争地帯を取材中に暗殺者リストに載ったマギー・スティーバー、思春期に入る前に強制的に結婚させられる少女たちを撮り続けるステファニー・シンクレア。またサウジアラビアの女性の日常に切り込み、ナショナル ジオグラフィック誌と契約する数少ない女性写真家のひとりジョディ・コップなど、11人の傑作集。
アイディアがユニークな大人も楽しい写真絵本
『100』
同じものを撮っても、魅力的な写真とそうではない写真がある。いったい何が違うのだろう。ヒントになりそうな一冊が、名久井直子と井上佐由紀の写真絵本『100』だ。あるものを1個撮った写真があり、次のページに同じものを100個並べた写真が掲載されている。1個と100個を比較して見るだけなのに楽しい。
被写体は積み木や輪ゴムなど身近なものだけれど、自然光で撮影されていて色合いが澄んでいる。何をどこに配置するかという構成も絶妙。自分の家にあるものも100個並べて撮ってみたくなる。
『100』(福音館書店)
作/名久井直子 写真/井上佐由紀
名久井直子は日本を代表するブックデザイナー。谷川俊太郎の詩集からヒグチユウコの画集まで、数多くの本の装丁を手がけている。井上佐由紀は広告、CDジャケット、書籍など、幅広く活躍するフォトグラファー。本書は美しい写真が満載で、3歳から読めるほとんど字のない絵本だが大人も楽しめる。
2020年Oggi9月号「『女』を読む」より
構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
TOP画像/(c)Shutterstock.com
石井千湖
いしい・ちこ/書評家。大学卒業後、約8年間の書店勤務を経て、現在は新聞や雑誌で主に小説を紹介している。著書に『文豪たちの友情』、共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』がある(すべて立東舎)。