本の世界に没入できるおすすめ2冊!
「時間や空間を次々飛び越える脳内トリップ体験を」
まるで水中にいるかように、その世界へ入り込める本をご紹介。たまには〝友達とワイワイ〟ではなく、水音の中どっぷり読書に没入する静かな時間を過ごしてみませんか?
1『日本のヤバい女の子』
水のように自由に生きる昔話の女の子たち
女の子たちが手足を伸ばして、気持ちよさそうに水の上に浮かんでいる。はらだ有彩の『日本のヤバい女の子』は、カバーイラストからして楽しい。浦島太郎の乙姫、竹取物語のかぐや姫など、昔話でおなじみの女の子を考察したエッセイ集だ。
たとえば歌舞伎の題材にもなっている道成寺(どうじょうじ)の清姫(きよひめ)。彼女は旅の僧・安珍(あんちん)に恋をするが、彼は噓をついて逃げる。激怒した清姫は、なんと大蛇になって川を泳ぎ、安珍を追いつめて、最後は焼き殺してしまう。そのとき彼女は何を思っていたのか。はらださんの解釈を読むと、ただ恐ろしくかわいそうな怪物だった清姫が、自分がいちばん欲しいものに気づいて、普通の人にはない力を手に入れた無敵の女の子に変わるのだ。元ネタの伝説にはないクライマックスを空想するくだりもエキサイティングだ。
仕事中にセクハラしてきた男をやっつける「鬼怒沼(ききぬま)の機織姫(はたおりひめ)」、人魚の肉を食べて永遠の命をひとりで自由に生きる「八百比丘尼(やおびくに)」もカッコいい。ヤバくて面白い女の子にたくさん出会えて、冷たくてきれいな水を思いきり浴びたような爽快感が味わえる。
『日本のヤバい女の子』
著/はらだ有彩 柏書房
夫に尽くしすぎて死んでしまった「おかめ」、別れをきり出してきた浦島太郎に恐ろしい箱をプレゼントした「乙姫」、宇宙規模の遠距離恋愛を成就させた「織姫」など、昔話に出てくる女の子は何を思っていたのか。友達目線で読み解いたイラストエッセイ集。
2『統ばる島』
神秘的な離島を描いた連作短編集
池上永一の『統ばる島(すばるしま)』は、東シナ海に浮かぶ八重山諸島を舞台にした小説を収める連作短編集だ。島によって海の色も地形も文化も、それぞれ違うところに惹かれる。最初は「竹富島」で夏の盛りを過ぎたころに行われる祭りの話。神に奉納する舞踏の踊り手として抜擢された少年少女の青春を描く。
「波照間島」の水平線上にあらわれる南十字星、「小浜島」の100色の碧いステンドグラスをちりばめたような海、「西表島」の不思議な部族が住むという伝説のある山…。どの島の景色も美しく、現代的に開発されている部分がありながら、古い神々の気配が濃厚に残っている。物語のテイストも幻想的だったり、コミカルだったり、それぞれの島で異なっていて飽きさせない。8番目の「石垣島」にたどり着くと、『統ばる島』というタイトルの意味がわかる構成も見事。未知の世界に遭遇できる離島へ行ってみたくなる。
『統ばる島』
著/池上永一 KADOKAWA
竹富島、波照間島、小浜島、新城島、西表島、黒島、与那国島、石垣島。沖縄出身でベストセラー『テンペスト』の作者としても知られる池上永一が、八重山諸島の8つの島の風景と文化を描いた連作短編集。この文庫版には書き下ろしの「鳩ぱと間うま島」も収録。
2018年Oggi9月号「『女』を読む」より
撮影/よねくらりょう 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
TOP画像/(c)Shutterstock.com
石井千湖
いしい・ちこ/書評家。大学卒業後、約8年間の書店勤務を経て、現在は新聞や雑誌で主に小説を紹介している。著書に『文豪たちの友情』(4月13日発売予定)、共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』がある(すべて立東舎)。