働き方改革を考える本
「過重労働、パワハラ、セクハラ… 精神論では解決しない!」
自由な働き方、我慢しない人間関係など職場環境は日々進化しているけれど、うまく順応できずに戸惑いながら働くOggi世代も多い様子。今の仕事の仕方、職場の人とのつきあい方、これでいいの…? と思ったら。
1『わたし、定時で帰ります。』
長時間労働は偉くない! 痛快お仕事小説
過労で倒れたことがある。それでも無理をして、回復には時間がかかった。だから今回「働き方改革を考える本」のテーマをいただいたときに、まずおすすめしたいと思ったのは朱野帰子『わたし、定時で帰ります。』だ。
主人公の結衣は企業のウェブサイトをつくる会社に勤めている。入社以来、どんなに繁忙期でも残業しないと決めていた。
しかし、30代になってから職場の雰囲気が変わってくる。皆勤賞にこだわり体調不良でも出勤する同僚、産休を途中で切り上げてキャリアアップを目ざす先輩、有能で頼りになるが仕事中毒の元恋人など、自分を犠牲にして会社に尽くす人が増えたのだ。もっと頑張れという周囲の圧力をはねのけて、結衣は定時で帰ることができるのか? 働く女性の冒険を描く。
結衣の最大の難敵になるのは、かつてベンチャー企業の経営者だった上司。彼は予算も時間も全然足りない案件を引き受ける。取引先の担当者に悪く思われたくなくて、現状から目を背け、ずるずると無謀なプロジェクトを進めてしまうのだ。部下たちは苦境に追い込まれるが、みんなで力を合わせれば大丈夫みたいな精神論に着地しないところが新鮮で痛快だ。本のカバーの裏に印刷された〈ホワイト退社キャンペーンアンケートに寄せられた声〉も必読!
『わたし、定時で帰ります。』
著/朱野帰子 新潮社
主人公の結衣は、32歳の会社員。絶対に残業しないと決めていて、いつも定時に帰っている。ところが、新しく上司になったのは、取引先の無茶ぶりを安請け合いして部下をつぶしてきた人で…。定時の女王VSブラック上司の戦いを描いた痛快お仕事小説。
2『部長、その恋愛はセクハラです!』
こんなときどうする? セクハラの対処法
生きるためにはお金が必要で、お金を得るためには仕事が必要で、働くためには心身の健康が必要不可欠だ。牟田和恵『部長、その恋愛はセクハラです!』は、人の心を深く傷つけるセクシュアル・ハラスメントについて、わかりやすく対処法を教えてくれる本。
セクハラ問題の第一人者である著者によれば〈セクハラとは、単純な強要、あからさまなわいせつ行為として現れるよりも、もっと微妙な相互関係の中で起こってくる〉という。普通に恋愛しているつもりでも、結果、セクハラになってしまっている人がたくさんいるらしい。相手の言動がおかしいと感じても、セクハラと判断していいか迷う場合もある。なぜなのか。加害者と被害者の認識の違いを実例をあげながら解説する。
実際に裁判になった事件をもとに書かれているので説得力は抜群。自分が当事者になったときにも、同僚や友達に相談されたときにも参考になるはず。
『部長、その恋愛はセクハラです!』
著/牟田和恵 集英社
日本初のセクハラ裁判に深く関わり、現在も第一人者として調査を続けている著者が、多数の具体例をもとに加害者と被害者の認識のズレを解説。自分が当事者になったとき、どう対処したらいいかをアドバイスする。わかりやすく役立つセクハラ問題入門書。
2018年Oggi7月号「『女』を読む」より
撮影/よねくらりょう 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
TOP画像/(c)Shutterstock.com
石井千湖
いしい・ちこ/書評家。大学卒業後、約8年間の書店勤務を経て、現在は新聞や雑誌で主に小説を紹介している。著書に『文豪たちの友情』(4月13日発売予定)、共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』がある(すべて立東舎)。