朝ドラ『あんぱん』を語りたい!今週の見どころと感想をレポ
朝ドラ『あんぱん』観てますか? やなせたかし先生の妻・小松暢さんをモデルに、“逆転しない正義” 『アンパンマン』にたどり着くまでの愛と勇気の物語を描くドラマ。ヒロインの「朝田のぶ」を今田美桜さん、やなせ先生をモデルにした「柳井嵩」を北村匠海さんが演じます。
朝ドラ大好きOggiチームきってのNHK「連続テレビ小説」ウォッチャー、ライター・朝 ドラ子が、今週の『あんぱん』のツボを自由きままに語りたいと思います!
物語は第10週に突入し、いよいよ本格的な戦争描写に突入。アンパンマン誕生の背景にはやなせ先生が体験した、戦争による壮絶な「餓え」があるわけですから、朝ドラ『あんぱん』にとってもここからが、前半の重要な局面になりそうです。
第10週「生きろ」を振り返ると…
パン職人・ヤムおじさんが朝田家を去り、彼の壮絶な戦争体験が明らかになります。そして嵩の友人・健太郎に赤紙が。さらに、のぶの夫・次郎も「これからの航海は、予定通り帰ってこられるかどうか分からん」と船に乗り…ついに嵩にも赤紙が来てしまいました。絶望に次ぐ絶望…。
だれひとり乾パンをうまく作れない朝田家のみなさんに「これまでヤムおじさんにパン作り任せっきりだったん!?」「貴重な小麦を試作に使ってる余裕あるのか!?」などと突っ込みも入れつつ(笑)、もう後戻りができないところまで来ている戦況に、朝からへこみます。
朝ドラウォッチャーにとってはつらいターンの始まりを告げる、太平洋戦争開戦を伝える臨時ラジオの音。何度聞いても暗い気持ちになるものです。
朝ドラウォッチャーの「今週のツボ」

1. 戦争が本格化するほどに、「日常」の美しさが際立っていく
どう考えてもこれから激しい戦争描写とさらなる絶望が待っているのですが、一方で静かに、丁寧に描かれる登場人物たちの日常が胸にきます。
嵩は健太郎と、のぶちゃんは次郎さんと食卓を囲む。その優しい時間のなんと貴重なことか。これは朝ドラあるあるですが、急に(ここポイント)日常を丁寧に丁寧に描き出したらそのあと高確率で誰かに不幸がおこりがちなんですわ…。のぶは次郎さんに写真の撮り方を教えてもらい、実家で家族の写真を撮ります。照れつつもキメ顔する羽多子さん、「魂抜かれる〜」と逃げる釜じい。朝田家のみなさんはたいへんキュートでしたが、その瞬間がキュートで美しいほどに不幸フラグが高まっていき、気が気でありません。「この集合写真が最後の家族写真になってしまうのでは…?」と最悪のパターンを考えてしまいます(考えすぎであれ)。
そしてのぶちゃんに愛用のカメラを託し、次郎さんはもう帰ってこれないかもしれない航海に出発します。かつてのぶちゃんのお父さんが帽子を託して旅立ち、生きて帰らなかったことを思うとますます「やめて…!」という気持ちに。写真を撮って、とお願いする次郎さんに「無事に戻られたときに撮ります」と言うのぶちゃん。いやいや、これ「あのとき撮ってあげたらよかった」って後悔するやつやん!! フラグの連立に感情が忙しい1週間でした。どうか杞憂であってください。
2. 次郎さんの悲しい笑顔がつらい
世間からは「愛国の鑑」ともてはやされているのぶちゃんですが、このところ愛国教育に迷いが生じています。子供達を立派な兵隊に育て上げることが、本当に正しいのか? 先生をやっているときののぶちゃん、こころなしか目にハイライトがない。一方で、次郎さんと話しているのぶちゃんは大きな瞳がキラキラと輝いているのが印象的です。そう、のぶちゃんにとって次郎さんは、唯一本心を語れる相手なのです。
…それだというのに、次郎さんが「僕はこの戦争に勝てるとは思わん」とこぼした瞬間「そんなこと思うてはいけません! この戦争が終わるがは日本が勝つ時です。そう強う思わんといけません」と愛国モードになってしまうのぶちゃん。そうじゃないでしょうよ、のぶちゃん…(涙)そしてけっして反論はせず、「君の生徒の気持ちがわかったよ」とだけ言う次郎さん。その悲しい笑顔といったら…。次郎さんの本心も、もっとちゃんと聞いてほしかったなあ。
3.「正義は逆転する」ってこういうことなのかな
後々、のぶちゃんは本当は「生きて戻ってきて」と言いたかったけれど、その勇気が出なかった、と明かされます。ここからすごかったのが、再登場した嵩の母・登美子です。
登美子、序盤から本当に自由気ままで勝手で、嵩の言葉を借りれば「自分のことばっかり」で「言いたいこと言ってそれで終わり」な女性。見た目が松嶋菜々子さんじゃなかったらドラ子も大嫌いになっているところなのですが…。
とうとう嵩にも赤紙が届き、いよいよ入隊…というときです。街の誰もが「お国のために立派な奉公を」と送り出すなか、登美子は大きな声で言うのです。「死んだらだめよ!」と。どんなことをしてでも生きて帰れと。
我が子の無事を願わない親なんていないはず。でも、「生きて戻ってきて」と言うことが許されなかった時代。現代を生きる私たちからしたら、登美子の気持ちが絶対に正しいと思うのですが、この頃の「正義」は違ったのだと思うと、暗い気持ちになります。
登美子は、ある種自分の正義をつらぬいて生きる、気高い女性とも言えるのかもしれません。残念ながら彼女の発言は周囲に非難され、憲兵に連行されかけてしまうのですが…。朝ドラ『あんぱん』が描くのは“正義は逆転する”ということ。登美子の一連の言葉と周囲の反応に、この言葉につながる伏線であると感じます。
さて、登美子の叫びに触発されたのぶちゃんは、次郎さんに言えなかった「必ずもんてき(戻ってこい)」を嵩に伝えるのでした。
次週のサブタイトルは「軍隊はだいきらい、だけど」!
次週は嵩サイドメインになるのか、厳しい軍隊での日々が繰り広げられるようです。新キャラの八木信之介上等兵(妻夫木聡さん)も気になるところ。そして「愛国の鑑」をかなぐり捨てて嵩に「生きて帰れ」と言ってしまったのぶちゃん、今度は非国民のレッテルを貼られないかとっても心配です…!(が、何事もなく愛国の鑑に戻っている気もする。それはそれで悲しい) 来週も心して観たいと思います。
「朝ドラウォッチャー」ライター・朝 ドラ子
NHK「連続テレビ小説」(通称・朝ドラ)をこよなく愛するアラフォー。毎日退勤後に録画をじっくり観るのが日課。会議でのアツい朝ドラコメントが「天才的なウォッチャー」と編集長に認められ、この連載を開始。ナンバーワン朝ドラは『スカーレット』(2019年度後期放送)。