ピンヒールとミニスカートは、古い組織に対して「なめんなよ」という鎧でした
──医療ドラマの金字塔というだけでなく、働く女性にとって大切なことを教えてくれた『ドクターX』シリーズ、そして大門未知子。そのキャラクター誕生の裏には、脚本家・中園ミホさんのアイディアと、米倉涼子さんの並々ならぬ努力がありました。
シリーズファイナルとなる『劇場版ドクターX』の公開(12月6日から)を控え、だれよりも大門未知子を知るふたりが久々の再会。トークは、ドラマシリーズの振り返りから始まって…。
▲『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』は、2012年10月からテレビ朝日系列で7シリーズにわたって放送された医療ドラマ。その中心となるのは、「群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門医のライセンスとスキルだけを武器に」突き進むフリーランス外科医・大門未知子(米倉涼子)。シリーズ完結編となる『劇場版ドクターX』は2024年12月6日公開。ベールに包まれていた、未知子と晶(あきら/岸部一徳)の過去にも迫る!
©2024「劇場版ドクターX」製作委員会
未知子が、おしゃれも人生も楽しむことを教えてくれた
米倉さん(以下、敬称略):最近になって、ドラマシリーズを見返しているんですけどね。未知子の行動は一匹狼だし、何を考えてるかわからない。口も悪いけれど、シリーズが進むほどに愛されるキャラになっていくんです。そして未知子のやることなすことすべてが確実に前進していて、クールでありながらもポジティブで人に温かくて。それを改めて感じています。
私はといえば、見返しながらも「あのとき、ああすればよかったな」といまだ反省したりして。未知子のようにはなれていないんですけどね。
中園さん:実は、当初私が考えていた大門未知子は、もっとクールで、手術ロボットのようなイメージだったんです。けれど、米倉さんが演じるにあたって、実在のスーパードクターに取材をして、そこからいろんなアイディアを入れてくれて。それによって、ロボットではなく人間味のあるキャラクターになりました。たとえば、手術が終わってガムシロップを飲むところとか。
米倉:それから、手術が終わったときに患者の胸に手を当てる、というのも。
中園:それを放送で見たとき私、涙があふれたんです。台本には書いていなかったけれど、あの行動で、命や人への深い愛情をもつ人だったんだと伝わって。口では優しいことを言わない未知子だけれど、あのシーンだけでどんな人かがわかります。だから、大門未知子は米倉涼子がつくり上げたと言っていいと思うんです。
優しさだけじゃなく、未知子のおしゃれなところ、人生を思い切り楽しむところも、米倉さんだからできたこと。本当は、未知子のファッション────ピンヒールにミニスカートをはいて、おしゃれで────というのは、古い組織や男性陣に対して「なめんなよ」という鎧のようなつもりで(台本に)書いていたんです。それが、米倉さんが着こなすことで、だんだんファッションを楽しみにする人が増えてきて。未知子が、おしゃれも人生も楽しむということを教えてくれました。
もし台本のままだったら、疲れてギスギスした未知子になっていて、働く女性たちをがっかりさせちゃったかもしれないです。
お立ち台に乗って、投げられる槍を投げ返していく
米倉:それでも未知子は一匹狼で闘いに行っているので、私自身も気合を入れて臨まないといけない。でもシリーズを重ねるほど、敵対するはずの共演者たち────段田安則さん、勝村政信さん、鈴木浩介さん────と仲良くなって。いつまでもわいわい楽しくやっていたいのに、それを我慢して気持ちを切り替えるのが大変でした。我慢して、仕事スイッチをオンにして、撮影に臨み、彼らとケンカ腰でやりあって。すると、面白いものでみんなへの愛がさらに増すんです。
みんな舞台で活躍している俳優さんたちだから、アクションも大きくて、それがまた面白くて。そんなみなさんがデーモン(※)を作り上げてくれたから、私はお立ち台に乗って、投げられる槍を投げ返していくような感覚。私もそれを楽しんでいました。
※デーモン/大門未知子と敵対する医師たちが、怖いもの知らずの未知子につけたあだ名。「大門」をもじって「デーモン」(悪魔)と呼んだ。
特にカンファレンスはセリフも長く、敵対する周囲の主張に対して、私がひとりで立ち向かって説得しないといけない。あのときは、ものすごい緊張感でした。
中園:組織に属さない未知子と周囲の衝突は、(台本に)ひどいことをたくさん書いてしまったけれど、それ自体も楽しそうに見えてきたのは、不思議な感じでしたね。そんな関係性ができあがったあとだったので、実は『劇場版ドクターX』を書くのはすごく楽だったんですよ。みんなが私の頭の中で勝手に動いて、セリフを言って、それを書き取っているという感じでした。
米倉:そうだったんですね。その台本を最初に読んだとき、もう涙でびしょびしょでした。
中園:そして出来上がった映像を見たら、思っていたものと違う…。もちろんすごくいい意味でね。私はいつもの楽しい感じで(笑)ファイナルとなる劇場版を書いたけれど、米倉さんをはじめみなさんの迫力がすごいので、大きな化学反応が起きていて、びっくりしたんですよ。(後編に続く)
●後編では、さらなる『劇場版ドクターX』誕生秘話と、働く女性たちへの力強いメッセージをお届けします。お楽しみに!
映画『劇場版ドクターX』
2012 年 10 月期テレビ朝日系木曜ドラマ枠でスタートしたシリーズ1から12年――。シリーズ7までの12年間で連続ドラマクール平均第1位を記録。さらには橋田賞や向田邦子賞、エランドール賞を受賞し、高い評価を得ている国民的医療ドラマ『ドクターX』。特技・手術、趣味・手術。群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけを武器に突き進む、“絶対に失敗しない”大門未知子が難易度の高い手術を行い、さらに権威・束縛・群れ…といった概念を打ち砕いていく。
劇場版で明かされるのは、大門未知子の誕生の秘密。”失敗しないハケンの外科医”大門未知子はどのようにして生まれたのか―。ダークでミステリアスな孤高の未知子の壮絶な半生とは―。「ドクターX」のエピソードゼロがついに明かされる。そして、これまでのドラマシリーズでも幾多の危機を乗り越えてきた未知子が史上最悪の危機に挑む!
2024年12月6日(金)全国公開
監督:田村直己 脚本:中園ミホ
米倉涼子 田中圭 内田有紀 今田美桜 勝村政信 鈴木浩介 染谷将太 西畑大吾 綾野剛 遠藤憲一 岸部一徳 西田敏行
©2024「劇場版ドクターX」製作委員会
Profile
米倉涼子(よねくら・りょうこ)
1975年生まれ、神奈川県出身。1992年、第6回全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞。翌年からファッション誌『CanCam』の専属モデルに。1999年からは俳優として数々の作品に出演。代表作は 『整形美人。』(02年)、NHK大河ドラマ『武蔵』(03年)『黒革の手帖』(04年)など多数。舞台『CHICAGO』(08、10年)、『風と共に去りぬ』(11年)で座長をつとめた。
中園ミホ(なかぞの・みほ)
脚本家。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店勤務、コピーライター、占い師の職業を経て、1988年に脚本家デビュー。07年『ハケンの品格』が放送文化基金賞と橋田賞を、13年『はつ恋』『Doctor-X 外科医・大門未知子』で向田邦子賞と橋田賞を受賞。大河ドラマ『西郷どん』、連続テレビ小説『花子とアン』など、執筆作多数。ドラマ『ザ・トラベルナース』最新シリーズが現在放送中。25年のNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』の放送が控えている。また、現在も四柱推命の占い師としての活動を継続中。
撮影/高木亜麗 スタイリスト/栗田泰臣(米倉さん) ヘア&メイク/奥原清一(米倉さん) 構成/南 ゆかり