本当に30時間も並ぶの? 英国・エリザベス女王の棺、一般弔問がスタート
スコットランド・バルモラル城にて逝去した英国・エリザベス女王の棺が、2022年9月14日、荘厳な行進とともにロンドン・ウェストミンスターホールへ移動し公開安置に。同日17時よりスタートした一般弔問には、前夜からの徹夜組など早速大勢の人が英国じゅう、そして海外からも押し寄せました。
弔問は国葬が執り行われる19日朝までの4日間。間違いなく歴史的な出来事であるだけでなく、70年もの長きに渡り慕われた「国民の母」に別れを告げる最後のチャンス。でも、最近秋めいて気温が下がってきたロンドン、外で長時間並ぶのはかなり辛そう。
弔問スタート当初は、きっと誰しもが、自分の都合はもちろん、女王へ直接感謝を告げるべきか否か、その想いと体力&根性を天秤にかけ、迷っていたかもしれません。
ベッカムはあえて長蛇の列に加わった!
弔問が始まった翌日の早朝などは、約3時間半で辿り着いたというラッキーな知人もいました。しかし、週末に向けて列はどんどん長くなり、10時間以上はマストな状態に。16日、そこへサッカー元イングランド代表のキャプテン、デビッド・ベッカムさんが13時間も一般弔問の列に並んだとのニュースが流れてきました。
一般市民とともに参列したベッカムさんは「困難なときですが、私たちの思いは女王のファミリーとともにあります。ここにいて、共に並んだ人たちからさまざまな話を聞けたのは、とても特別でした。午前2時に来れば少しは空いてるかな、と思いましたが、それは間違いでした」とコメント。
実はベッカムさんはVIPとして長蛇の列を避けることもできた、とのこと。しかし、それでは大の王室ファンである祖母を失望させてしまう、とたったひとりで並んだ彼。国民的スターの、市民目線な行動に背中を押された人も多いはずです。
キャパ超えで締め切る時間帯も。週末の待ち時間はピークに
そうこうしているうちに、ウエストミンスターホールからテムズ川を超えて数キロ先のサザーク・パークまで延びた一般弔問の列。待ち時間は24時間とされ、収容人数超えで受付を中断した瞬間も。
それでも閉められたゲートの前に列は延び、過熱した様子がTVで絶え間なく中継されていました。
一般弔問の行列に参加。観光気分で楽しめた前半戦
優柔不断な私もいよいよ決心。金曜明け方に出かけるつもりが、英国政府発信のトラッカーを確認すると、16時間待ち。もうしばらくすれば、週末を狙って集まった人たちが少し捌けてスムーズになるかも、と土曜夕方に再チェックしたところ12時間、とやや控えめな予想が出たため出発。18:00頃にサザークパークに到着しました。
ジグザグに経路が設定されたパーク内で早速、入場のためのリストバンドが配られ、女王を弔問することが現実味を帯びてきます。ミネラルウォーターの配布もありました。
用意してきたハンバーガーやドーナツをつまみながら。
かなりのスピードでパークを抜け、公道へ。テムズ川の南側は煉瓦造りの建物が続き、インダストリアルなムードと、新たに開発されたモダンな空気感が絶妙にミックスされた趣深い地区。
タワーブリッジ、ロンドンブリッジ、テイトモダン名所が続き、まだ体力のあるこの頃はオーバーナイトハイクのような気分。行列はあまり休止することなく常に動いており、退屈することはなく進みます。
「12時間なら、日本からヨーロッパに行くフライトの感覚かな」と、iPadに気になっていたネットフリックスのドラマをダウンロードしていたのですが、それらを観る時間もありませんでした。簡易トイレや気分が悪くなった人のための休憩室なども各所にあり、安心。
事件発生! 絶望を味わった後半…
ロンドンアイを過ぎたあたりから、待ち時間が続き、川沿いの寒さもあって段々気持ちが下がってきます。そんなときは、明らかに私よりも年上の人たちが颯爽と歩いている姿に励まされました。なかには車椅子の人も。しかもひとりで参加している人の多いこと! 沿道で案内してくれるボランティアの人たちの「もう少しですよ!」の声かけにも救われました。
ホットチョコレートの無料配布のあとテムズ川北側へ渡るランベス・ブリッジへ。ウエストミンスターホールへは敷地内に設置されたジグザグの経路を抜ければすぐ、というところでショックな知らせがもたらされました。
「いま国葬のリハーサルが始まり、4:00くらいまでかかる見通しです」…あと一歩で約一時間半の待機を余儀なくされることに。気温は10度をきり、ダウンのうえにカシミアのケープを重ねていても、じっとしていると震えが止まらないくらい寒い。「なぜこんな夜中にリハーサル?」と思うも、仕方ありません。
ブランケットを何枚も配ってくれるボランティアの人たちの穏やかさに、なんとか乗り越えることができました。
女王の棺に対面! 人生に残る神聖でエモーショナルな瞬間
まさかロンドンで野宿を体験するとは…。ウエストミンスターホールを前に疲れと寒さですっかり気落ちしてしまいましたが、ようやく列が流れ、身体を動かせたことで体温が上昇し、気力も復活。
ジグザグを終えると、空港と同じような荷物検査とボディチェックがあり、食べ物や飲み物、液体などは持ち込み禁止、またそこから先は撮影禁止となりました。時刻はすでに4時を回っているにもかかわらず、係の人たちは終始穏やかに優しく対応してくれます。女王への熱い敬意を感じるとともに、さすがジェントルマンの国! と感心せずにはいられませんでした。
そして、いよいよホールのなかへ。初めて足を踏み入れる内部は想像以上に高い天井と、美しい装飾に息を呑む空間。またそれ以上に棺を守る衛兵たちが醸す張り詰めた空気に、疲労を忘れ背筋が伸びます。
それまでの騒乱が嘘のように静寂に包まれたホールには、中央に女王の棺が鎮座。在英9ヶ月の新参者で、俄かファンのような私はその荘厳さに圧倒されてしまいました。女王を思わせる、棺の上の王冠の眩い輝き。その残像が会場を出た後もしばらく心を掴み、離しませんでした。
18:00にスタートし、帰途についたのは翌日5:00。約13時間の旅路が無事終了!
偉大な時代の終焉を一丸となって見届けた国葬の日
天皇皇后両陛下も現地時間18日にロンドン入りし、各国の要人が出席した国葬が19日11時よりロンドン・ウェストミンスター寺院で営まれました。国営放送のBBCでは、数時間前から参列者が続々と到着する様子をリアルタイムで放送。またその様子は世界じゅうで中継され、日本を含めたくさんの人が見守り、英国らしい歴史と伝統を感じさせる葬儀に心動かされたと聞きました。
ロンドン中心部では道路だけでなく駅も閉鎖され、厳戒態勢に。少しでも最後の瞬間まで女王の近くで過ごしたい、とたくさんの人が街に繰り出しています。
パブリックビューイングが設置されたハイドパークも大混雑。葬儀会場から距離のあるこちらは比較的空いていました。国葬の最後、2分間の黙祷の際は全員起立し、国歌「ゴッド・セーブ・ザ・キング(国王陛下万歳)」を斉唱。長きにわたる無私の奉仕へ敬意と感謝を込めて、一丸となって女王を見送れたような気がしました。
特別な10日間が終了。通常に戻るも喪失感漂うロンドン
チャールズ3世をはじめロイヤルファミリーの面々はもちろんのこと、一般市民も歴史的な日々を過ごした服喪期間が終わり、新国王のもと新たな日常がスタートしました。
大量の献花が寄せられたグリーンパークのフラワートリュビュート。
政府の推計によると、一般弔問には25万人もの人が訪れたのだとか。そんなにも多くの人から慕われたエリザベス女王を失った喪失感は、国葬が済んだとともに即座に拭いされるものでもなく…。市民の深い悲しみと追悼の空気はしばらくロンドンの街に漂い続けそうです。
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