「NFTアート」って何ですか?
「一見怪しそう…」「でも面白い!?」YouTubeが始まったころも、こんな感じだった…? デジタルアートがコピペできない〝唯一無二〟の作品として認められ始めた、美術の新時代の幕開けを今から知っておきたい! アートテラー・とに~さんに「NFアート」について伺いました。
アートテラー・とに~さん
1983年生まれ。お笑い芸人を経て、美術を面白おかしく説明するアートテラーとして活動。美術館での講演ガイドやアートツアー企画運営などを行う。TBSラジオ『たまむすび』月1レギュラー出演中。著書に『名画たちのホンネ』(三笠書房)など。
今後ますます注目! NFTアートの楽しみとは
Oggi編集部(以下Oggi) 昨年くらいから、NFTアートという言葉を聞くようになりました。「高額で取引されているらしい」くらいの知識しかないんですが…。
とに~さん(以下敬省略) まずNFTはNon-Fungible Tokenの略。日本語では非代替性トークンと言って、代えがきかない〝唯一無二〟であることが証明できる技術のことです。NFTアートは、その証明書が付いたデジタルアートのことですね。
Oggi デジタルアートって要するにデータですよね。簡単にコピーできるのでは?
とに~ たとえばリアルなアート作品でも、版画は物理的には何枚でも刷れますが、ギャラリーなどが「10枚しか刷りません」と鑑定書を付けて売るんです。NFTアートも同じで、証明書が付くことで価値をもつようになります。
Oggi デジタルの絵を鑑賞するだけなら、スクショでもいいか、と思ったり(笑)。証明書付きだといいことがあるんですか?
とに~ ひとつは単純に、所有する喜びだと思います。オンラインゲームで、みんなが欲しがるレアなアイテムを持っていたら誇らしい、みたいな。Twitterではプロフィールのアイコンを、NFTアートと紐づけて証明できるサービスもテスト的に始まっています。あとこれからは、メタバース!
Oggi VRゴーグルをつけてアバターで… というアレですか?
とに~ はい。仮想空間内のギャラリーでNFTアートを公開する人は、これからどんどん増えるでしょう。想定外の楽しみ方も、今後は生まれるかもしれません。ただし、所有権と著作権は別物なので要注意。NFTアートを買っても、作品をTシャツにプリントして売ったり、商用に使うのはNG。あくまでも個人的に楽しむためのものですね。これは従来のアートでも同様です。
市場は急成長中だけれどカルチャーの成熟はこれから
Oggi NFTアートはいつごろ登場したんですか?
とに~ 2014年にケヴィン・マッコイというアーティストが、デジタルアートにNFTを結びつけたのが最初。その後、一気に注目を集めたのは’17年の「クリプトパンクス」というプロジェクトです。〝ドット絵〟と呼ばれる、昔のゲームのような解像度の粗いキャラクターのシリーズで、当初は1万点が無料配布されました。その後、作品を収集する人が増え、レアなキャラクターが高額で取引されるように。このようにコレクションできるシリーズものを〝コレクティブル作品〟と呼びます。トレーディングカードの値段が上がるのと同じ仕組みですね。
Oggi ブームの火付け役!
とに~ ちなみに、クリプトパンクスのインパクトが強すぎて、NFTアート=ドット絵だと思っている人も多いのですが、実際にはすごく精巧なCGや、写真、映像、音楽など、さまざまなタイプの作品があります。
Oggi NFTアートが約75億円で落札、なんて報道もありましたが… 高すぎませんか?(笑)
とに~ それはもうNFTアートに限らず、アートの価格はどう決まるのか、という話ですね。「なぜこの作品が75億円もするの!?」と言われたら、「買った人が、75億円の価値があると思ったから」としか答えようがない。ほかのだれにも渡したくないほど気に入ったからかもしれないし、今後もっと高く売れると考えたからかもしれない。少なくとも、NFTアートに未来を見出しているから、とは言えるんじゃないでしょうか。
Oggi 確かに、ゴッホの絵が何十億円、というのと同じかも。
とに~ 一方で、NFTアートはだれがいくらで買って、いくらで売ったのか、どうやって値段が上がっていったのか、という来歴がデータ上で可視化されるんです。たとえば小学生が描いたドット絵も、著名なDJが買ったことで、価格が上がった、とか。そういう意味では、これまでのアートより値付けの理由はわかりやすいと言えますね。
Oggi 安く買って高く売る、投機目的の人も多いんでしょうか。
とに~ もちろん中には、そういう人もいるでしょう。これからしばらくは値上がりしていく可能性が高いですし。ちなみに従来のアートの場合は、アーティストは作品をつくって売ったらそれで終わりで、その後に高騰してもアーティスト自身には一銭も入ってこない仕組みだったんです。でもNFTアートのプラットフォームでは、再度売りに出されたときも、売値の何パーセントかがアーティストに還元されるよう設定できるんです。
Oggi アーティスト側にもメリットがあるんですね。
とに~ はい。そんな背景もあって、従来は美術館で展示されてきたような現代アーティストたちも参入しています。僕は、今のNFTを取り巻く状況は、かつてのYouTubeに近いと感じていて。最初は一般の人の映像ばかりが上げられて、そのうち人気者のYouTuberが登場して、さらにはテレビで活躍している芸能人も参戦することで盛り上がって…。NFTアートも玉石混交ですが、今後はクオリティの高い作品が増えていくと思いますよ。
SNSのアイコンにしたり、ゆくゆくは仮想空間の中で飾ったり… ゲームでレアアイテムを買う感覚に似ているかも!? 美術の楽しみ方が広がりそうです
Oggi 急成長中の過渡期なんですね。でも、一般の働く人たちにとって、NFTアートを買うのは現実的とは言えないような…?
とに~ そんなことはありませんよ。1~2万円で買える作品もたくさんあります。それに、既存のアート作品は経年劣化や保管場所の確保など、維持費も考える必要がありましたが、NFTアートは初期投資だけでOK。自分でネット上で転売できるのも手軽です。もちろん、自分の作品を出品しても!
Oggi カジュアルに楽しめそうですね。下世話な話で恐縮ですが… 今後、値上がりする作品の見極め方もぜひ(笑)。
とに~ まったくの一点ものより、コレクティブル作品のほうが値が上がりやすいです。また、既存のアート界で活動してきたアーティストのほうが、NFTアート界でも間違いなく注目されます。まずはそういった作品からチェックを。
Oggi 購入時の注意点は?
とに~ ネット上で拾ってきた他人のデータを、自分の唯一無二の作品として出品してしまう、悪い人が世の中にはいるようで。NFTアートを売買できる世界最大手のプラットフォーム「OpenSea」などではきちんと審査されていますが、新サービスを利用する際は慎重に。また、NFTアートは多くの場合、仮想通貨「イーサリアム」で売買されています。レートによって価値が変動することと、売買の際には〝ガス代〟と呼ばれる手数料がかかることも覚えておきましょう。
Oggi NFTアートが一過性のブームで終わる可能性は…?
とに~ うーん、数年後にはオワコンになる可能性もゼロじゃない(苦笑)。でも、イギリスの著名な現代アーティスト、ダミアン・ハーストが昨夏発表したプロジェクトが面白いんですよ。1万点のコレクティブル作品を販売したんですが、実は紙に描いた現物の作品も存在していて、「購入者は1年後までに、NFT作品と紙、どちらかを選択しなければいけない。もう片方は破棄される」というコンセプチュアルな試みを行っているんです。
Oggi 壮大な社会実験ですね。
とに~ 値段はどちらも同じ。要は、人は現物とデータのどちらが欲しいのか、という踏み絵ですね。アーティストが「アートを所有するとはどういうことか」と突き詰めて考え始めたことは、美術史的にはすごくエポックメイキングなことだと考えています。
Oggi NFTアートはなんとなく怪しげなもののような気がしていましたが、奥が深い!
とに~ 美術館など既存のアート界には、NFTアートと距離をとっている人も少なくありません。でも、NFTアートが盛り上がることで、「デジタルアートってかっこいい!」と思う人も「やっぱりリアルな絵の具の質感がいいよね」と思う人もいる。結果的に既存のアート界も盛り上がって、メリットしかないと思うんです。それに、NFTによって若手アーティストの作品が気軽に買えれば、アーティストが生計を立てる糧になる。文化をつくること、社会貢献にもつながります。買ってみる価値はあると思いますよ!
気になる「NFTアート」Topics
【1】デジタルコラージュ作品がオークションで約75億円で落札
2021年3月、アメリカのデジタルアーティスト「ビープル」の作品が、存命するアーティストの作品としては歴代第3位の価格で落札された。落札者はシンガポールの仮想通貨ファンド「Metapurse」の創設者。
【2】夏休みの自由研究から始まった小学生の作品も総流通額は3500万円超え
日本の小学3年生「Zombie Zoo Keeper」の絵が高額取引され、世界的DJのスティーヴ・アオキ氏も購入。いちばん高く売れた絵は転売価格で約180万円(取引時のレート)。プラットフォームで転売されるたびに売値の10%が作者の手に入る。
【3】匿名アーティスト・バンクシーの作品も1万個に分割されて販売
世界的に有名な素性不明のストリートアーティスト「バンクシー」。既存のアート界でも作品が高額取引されているが、今年1月には既存の作品の所有権をNFTの集合体1万個に変換して販売、数千人が所有権を共有するプロジェクトが行われて話題に。
いざ、買ったり売ったりするときはプラットフォームを使えばいい?
OpenSea
世界最大規模のNFTマーケットプレイス
ʼ17年に設立されたNFT業界の老舗で、世界的企業へと急成長中。アートのほか、ゲームアイテム、音楽など各種NFTを取り扱う。決済は主にイーサリアムで、販売は固定価格orオークション形式で行われる。VRアーティスト・せきぐちあいみさんの作品が1300万円で落札されたことでも話題。
Adam byGMO
日本円でも売買できて手軽に始めやすい
昨年夏に開始した、日本発のサービス。イーサリアムのほか、口座振込やクレジットカード払いにも対応していて、仮想通貨に抵抗がある人も使いやすい。人気漫画家やイラストレーターの作品のほか、お笑い芸人のトレーディングカード、坂本龍一さんや小室哲哉さんの音源も出品されている。
今月の覚えておきたい3つのキーワード!
【1】非代替性トークン
仮想通貨でも使われている情報記録技術ブロックチェーンを用いて、デジタルコンテンツにほかのものと交換できない固有の識別情報を与え、所有権を証明する仕組み。だれでも作成でき、取引によって所有者を移すことも可能。作者、所有者、過去の所有者などの履歴情報が残る。
【2】メタバース
「meta=超越した」と「universe=宇宙」を組み合わせた造語。仮想空間の中でさまざまな活動が行えるようになる技術のこと。すでに一部ゲームなどで導入されていて、今後ビジネスでも発展する見通し。旧Facebook社が社名を「Meta」に変えたことでも注目が集まった。
【3】クリプトパンクス
24×24ピクセルで描かれたキャラクターのシリーズで、最古のNFTプロジェクトのひとつ。人間の男女の顔のほか、宇宙人や類人猿のようなレアキャラも。クレジットカード会社VISAが昨夏、1点を約1700万円で購入したことを公表し、人気に拍車がかかっている。
●掲載している情報は2022年2月9日現在のものです。
2022年Oggi4月号「Oggi大学」より
イラスト/八重樫王明 メイン画像デザイン/須賀祐二郎(ma-hgra) 構成/酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部