気象予報士と雨雲レーダー、どっちのほうが正確なの?
だれもがスマホで気軽に天気をチェックできるようになった今… 気象予報士と雨雲レーダー、どちらが正確なの? 気象予報のテクノロジーについて、天気予報士の天達武史さんに伺いました!
気象予報士 天達武史さん
1975年生まれ。2002年気象予報士試験に合格。ʼ05年から『情報プレゼンター とくダネ!』、現在は『めざまし8』(ともにフジテレビ系)などで天気予報を担当。著書に『天達のお天気1日1へぇ~ 自然にはびっくりがいっぱい!』(幻冬舎)など。
日々目にする天気予報はどのように行われているの?
Oggi編集部(以下Oggi) 天達さんが気象予報士になって約20年。その間に予報の方法もだいぶ変わったのではないですか?
天達さん(以下敬称略)大きくは変わらなくて、今も昔も気象庁に集まってくる世界中の天気図を解析するのが基本です。テレビなどで目にする天気図は地上の天気図ですが、実は高度ごとに1000m、3000mなど何枚もあって。毎日100枚程度の天気図を並べて見て、天気の変化を立体的にイメージしています。
Oggi そんなにたくさんの天気図を見るんですね。予報する内容は、人によって違うんですか?
天達 何をポイントに伝えるかは個性がありますが、予報内容は大きくは違わないと思いますよ。ただ、気象庁は1日に3回基本的な予報を更新するので、テレビの放映時間などによって、ベースにするデータや資料が変わると、予報にズレが出てくるかもしれません。
Oggi なるほど。そして… 思っていた以上にアナログですね!
天達 とはいえ、気象衛星や気象レーダーの画像、気象庁のコンピュータがはじき出した〝数値予報〟と呼ばれるデータなども総合して、予報を組み立てていますよ。コンピュータのデータも1種類ではなくて、ゲリラ豪雨に強いもの、週間予報に強いものなど、いくつも種類がありますから。そういったテクノロジーは、確かに進歩しました。
気象庁の「気象レーダー」が導入されたのが1954年、「気象衛星」は1977年で、当時の天気予報の適中率は7割程度。常にアップデートが繰り返されて、現在は8割5分程度になりました。ちなみに適中率とは、「翌日に雨が降るかどうか」の適中率を指しています。
現在の天気予報の適中率は8割5分程度。すでにコンピュータやAIも取り入れていて精度はさらに上がっていくはずです
Oggi 技術は、たとえばどのように進歩しているんですか?
天達 雨や雪の観測を行う気象レーダーは、従来は500m四方の解像度だったのが、2012~’13年には250m四方ごとに観測できるように。さらに’14年からは「高解像度降水ナウキャスト」というシステムができ、気象レーダーに加え、全国の雨量計「アメダス」や上空の観測データ、国土交通省のレーダ雨量計なども活用して、30分先まで5分ごとの予測が発表されるようになりました。
Oggi お天気アプリでよく利用する「雨雲レーダー」のイメージに近づいてきました。
天達 この3~4年でメジャーになりましたね。そういう名前のレーダーがあるわけではなく、高解像度降水ナウキャストに、15時間先までの天気を予報する気象庁の「降水短時間予報」の情報も加えて、雨雲レーダーとして配信しているアプリが多いようです。アプリによっては独自の予報も加えているとか。
Oggi そうなんですか。でも… コンピュータがこれだけリアルタイムかつ正確に予報をしてくれるようになったら、人間が予報する意味って…。
天達 確かに、コンピュータやAIによる数値予報はすでにかなりの精度を誇っていますし、今後さらに当たるようになると思います。ただ、たとえば雨雲レーダーは、局所的な大雨を短時間に区切って予報する断片的な予報。さまざまなコンピュータが出した数値予報を総合的に判断し、理解しやすい言葉に翻訳するのには、まだまだ人間の力が必要です。
それに、コンピュータやAIの予報の根拠を人間が把握していないと、計算結果が間違えていたとき気づくこともできません。複数のコンピュータがバラバラの答えを出してきたときに、どれを採用するのかを選択するのも人間ですし。あと決定的に違うのは、伝え方でしょうか…。
Oggi というと?
天達 メディアで予報をしている立場としては、特に災害時の伝え方がとても大事だと考えています。「雨が○mm降ります」というデータだけではピンとこない人も多いでしょうが、それがどういう雨なのか、いつどういう状態になったら避難が必要なのか、視聴者の方にイメージしてもらえるように伝えようと心がけています。
Oggi どれくらい危険なのか、といった温度感は、気象予報士さんの言葉のほうが伝わりますね。ちなみに天達さんは実際に空も見て、予報するんでしょうか?
天達 テレビの放送前に空を見て、外の空気を感じます。同じ15℃でも、今の季節なら暖かく感じるし、秋口ならすごく寒く感じる。そういった体感をどのように伝えるかも、気象予報士の役回りですね。人間とAIが共存していくことが大切です。
さらに、テレビなら過去の似た事例の映像を使って注意喚起したり、解説を加えたりするのが得意ですし、ラジオは停電したときにも聴いてもらえる。ネットは手軽にいつでも見られるのが強み。それぞれの持ち味を考えて、使い分けていただくのがいいのではないでしょうか。
温暖化で変わっていく天気とどうつきあう!?
Oggi ちなみに1月末~2月は、どんなお天気でしょう?
天達 今年は寒いですよ。温暖化と都市化の影響で、東京などの大都市圏は100年で3℃くらい上がっていますが、年ごとにアップダウンが激しいのも特徴で。ものすごい暖冬が続いたかと思えばすごく寒い年があったりして、後々50年間の気温を平均すると上がっている、という具合です。
Oggi 今年は、その寒い年に当たるんですね。
天達 はい。東京では2~3年に1度、雪が積もりますが、この冬は年明け早々に積もりましたね。ちなみに、関東の雪は気象予報士泣かせ。雨は気温0℃前後で雪に変わりますが、微妙すぎる気温で、0.5度違うと予報が外れます(苦笑)。ビルの屋上では雪なのに地上では雨、なんてこともしょっちゅう。
雪に慣れていないから、数cm積もっただけで交通機関に大きな影響が出ますしね。高速道路関係の会社は、雪予報が出ると人員を増やしたり凍結防止剤を撒いたり、ひと晩で億単位のお金が動くと聞いたこともありますし… 胃が痛いです。関東以外でも温暖化の影響か、急なドカ雪が増えたりしています。
Oggi 温暖化は、もろに生活に影響しているんですね。
天達 大雨や竜巻などのリスクが高まっているのも温暖化のため。強い雨を降らせる積乱雲が線状に連なって動かなくなり、土砂災害や河川の氾濫につながる現象を指す〝線状降水帯〟という言葉も、気象庁が昨年から公式に使い始めました。
夏に限って言えば日本はすでに亜熱帯の域に入っていて、北海道にも台風、つまり熱帯低気圧が頻繁に上陸し、大雨も目立ちます。気象予報も今後は防災により力を入れていくことになるでしょう。ちなみに「台風をコントロールしよう」という動きもあるんですよ。
Oggi コントロール!?
天達 陸上で大きな被害をもたらす前に、海上で人工的に雨を降らせてしまおう、という操作が検討されています。具体的には雨雲に〝雨の種〟になる大量の氷の結晶を撒く技術で、’08年の北京オリンピック開会式前に行われたことが有名。日本でも、よく干上がってしまう高知県・早さ明め浦うらダムで実験が行われたことがあります。
Oggi それだけ切羽詰まっているんですね。
天達 でも逆を言えば、こんなに天気のバリエーションが楽しめる国も少なくて。ある東南アジアの国では、天気予報は台風のとき以外、見ている人がほとんどいないと聞いたことがあります。毎日晴れで夕方にスコールが降るという予報だから、晴れとくもり、雨のマークが全部ついているとか。
Oggi 確かに、見る意味があまりないかも(苦笑)。
天達 一方で、ただ雨が降る、降らないといった情報だけではなく、天気予報を通じて、季節の移ろいや、「へぇ~」と感じていただける情報を伝えられたらな、と個人的には考えています。
Oggi 確かに、天気について知ることは、生活の彩りにもつながりますね。今後、天気予報を見る目が変わっていきそうです!
テクノロジーは日進月歩!
【1】気象レーダー
アンテナを回転させながら電波を発射し反射されて戻ってくる電波の強さから、半径数百kmの広範囲にある雨や雪の強さを観測。全国20ヶ所に配置されている。2020年3月からは「二重偏波気象ドップラーレーダー」が導入され、雲の中の降水粒子の種別や降水の強さをより正確に推定できるように。
【2】気象衛星ひまわり
地球の自転と同じ周期で赤道上空を回り常に同じ範囲を観測。現在のひまわり8号と9号は、’14年、’16年に打ち上げ。従来と比べると、画像はモノクロからカラーに、解像度は2倍になって、雲と黄砂なども見分けやすくなった。観測にかかる時間も30分→10分に短縮。
【3】スーパーコンピュータ
直近から数ヶ月先までの気象予測や気候変動の監視・予測のためさまざまな数値計算を行い、気象情報の根幹を支える。’18年6月に新しくなり処理速度は従来の約10倍に。災害が発生する可能性などを、より早く精度よく把握できるよう、順次アップデートされている。
人気の3大お天気アプリ… 予報が違うのはなぜ!?
【1】tenki.jp
日本気象協会公式アプリ。長年培われたノウハウが強み
1950年の設立以来、気象・環境・防災に関する調査解析や情報提供を行ってきた日本気象協会が運営し、複数の気象予測モデルを組み合わせて予報。季節に応じた〝うるおい指数〟〝服装指数〟などの各種指数や、長期予報、道路気象、PM2.5分布予測など情報が充実。〝日直予報士〟による解説も。
【2】Yahoo!天気
複数の予報情報源を活用。シンプルで見やすいアプリ
ウェザーマップ、フランクリン・ジャパン、日本気象株式会社など、気象予報業務を行う複数の企業から提供されたデータを整理して配信。16日先までの予報が見られるので、レジャーなどの計画を立てるときの参考にも。雨雲の接近などをプッシュ通知してくれる機能も便利だと好評。
【3】ウェザーニュース
独自のAI技術も駆使して予報精度は90%以上
全国1万3000ヶ所の観測網を備え、アプリ利用者にも小型気象観測器を3万5000台配布。気象庁のデータに独自の計算結果も加え、AI解析している。雨雲レーダー(写真:下)は250m四方ごとに1時間先までは5分間隔、それ以降27時間先まで10分間隔ときめ細やか。
天達さんのお天気豆知識3つ♪
豆知識1|冬の寒さには3種類ある
「ひとつ目は晴れた朝の〝底冷え〟。夜間に地面の熱が奪われて、地上1.5mで測定される最低気温より足元が3~4℃低いことも。ふたつ目は〝風冷え〟。風速1mで体感温度は1℃下がると言われています。3つ目は〝しけ寒〟。くもりの日は湿気を帯びた空気で余計にひんやり感じます」(天達さん)
豆知識2|星が瞬いた翌日は強風が吹く!
「関東では星がきれいに見える季節ですが、キラキラしているときは上空で風が乱れている証拠。星自体が点滅しているわけではなく、気流が入り乱れて大気の屈折率が変化しているんです。その空気が翌日には地上に降りてくる可能性があり、強い風が吹いたり、場合によっては天気が崩れることもあります」(天達さん)
豆知識3|冬は「3つの元」に気をつけて
「朝は首元、昼は足元、夜は火の元に要注意! 外出前からマフラーを巻いておくと全身が温まり、外に出た瞬間にヒヤッとしません。昼間は暖房の暖かい空気が部屋の上のほうにたまってしまうので、足元を温めて。サーキュレーターで空気を循環させるのも効果的。冬は夜の火災がとても多いので十分注意を」(天達さん)
●掲載している情報は2022年1月11日現在のものです。
2022年Oggi3月号「Oggi大学」より
イラスト/八重樫王明 構成/酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部