パンダのことが、もっと知りたい♡
上野動物園の双子の赤ちゃんがいよいよ命名されます! 中国に次いで多くの飼育数を誇る日本。でも、大きくなると中国に行ってしまうのはなぜ…!?
お話を伺ったのは… パンダジャーナリスト 中川美帆さん
『週刊エコノミスト』(毎日新聞出版)などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる政治、経済、生態など各分野の専門家に取材。世界23の国と地域、40施設のパンダを訪ねる。著書に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)。週に1回は動物園に通う。
双子の赤ちゃんは〝すり替え作戦〟で育児!
Oggi編集部(以下Oggi) 2021年6月に上野動物園でジャイアントパンダの双子の赤ちゃんが生まれましたね。ニュースなどで見る愛らしい姿に癒されています♡ そろそろ名前も決まるころですか?
中川さん(以下敬省略) 19万を超える応募の中から、黒柳徹子さんら名前候補選考委員会での検討を経て東京都が決定し、10月中旬以降に発表される予定です。(この記事は2021年9月10日現在のものです。名前は2021年10月8日に、オスは「暁暁=シャオシャオ」、メスは「蕾蕾=レイレイ」と発表されました)
Oggi やっぱり「シャンシャン」みたいに、同じ音を繰り返す、中国風の名前になるんでしょうか。
中川 なんとも言えませんが、上野動物園のパンダは歴代、そのような名前ですね。でもたとえば、和歌山・白浜町のアドベンチャーワールドで生まれたパンダは「彩浜(さいひん)」「楓浜(ふうひん)」など「浜」が付いています。昨年3月に中国・成都ジャイアントパンダ繁育研究基地で生まれた双子は、武漢と成都の名物である麺類とスナックの名前に。武漢と成都で協力して新型コロナウイルスに立ち向かおうという意味が込められています。
Oggi 特に決まりはないんですね。ちなみに双子は多いんですか?
中川 45%程度の割合で生まれます。ただし、母親パンダは通常、1頭しか育てないので、野生だともう1頭は見捨てられることに。人工飼育なら保育器で育てられますが、近年は母乳を2頭両方に飲ませるため、母親と保育器の間で、2頭を入れ替える飼育法が導入されています。
Oggi え!? 母親パンダは混乱しませんか。
中川 意外とスムーズなようです。さらに、ある程度成長してから双子2頭を同時に母親に対面させると、その後は3頭でごく自然にじゃれ合うとか。
Oggi 不思議! 父親パンダは何をしているんでしょう…。
中川 父親は子育てに一切タッチしません。パンダは群れをつくらず単独で行動する動物。パンダ同士で食べ物や縄張りを争うこともあり、子供が1歳ごろになると、動物園でも母子は別々に暮らします。一方で、体格が同じような双子などは5歳ごろまで一緒に育てるケースもあります。
Oggi 実はどう猛なんですか。
中川 爪や牙も鋭いので、大人のパンダの部屋には飼育員も入りません。採血や検温などの健康管理を、麻酔や押さえつけるストレスを与えずケージ越しに行うために、パンダは「ハズバンダリートレーニング」という訓練もしています。
パンダがいつもゴロゴロ寝ているのはなぜ…?
Oggi ところで、ジャイアントパンダはクマの仲間ですか?
中川 はい。ただ、パンダは主食の竹や笹が一年中枯れないので、クマと違って冬眠しません。パンダは主に春~夏に採れるタケノコも大好物。動物園ではおやつとして、ニンジンやリンゴも食べています。大人のパンダは1日に竹を20~30kg食べますが、実は腸が肉食動物並みに短くて消化がよくなくて。それで、エネルギーを温存するために、よく寝ているんです。
Oggi ゴロゴロしているのにはそんな理由があったんですね!
中川 また、もともと中国・四川省、甘粛(かんしゅく)省、陝西(せんせい)省の高山の寒い場所に生息しているので、暑いのは苦手です。体が白黒な理由は諸説ありますが、雪深い森の中で保護色になるからだとも。動物園で活発に動くパンダを見たいなら、ぜひ寒い季節や涼しい時間帯に。
赤ちゃんの名前、神秘に包まれている生態、外交や経済との関連まで…「かわいい」だけではないパンダから目が離せません!
Oggi パンダは世界に何頭くらいいるんでしょうか?
中川 ’70年代なかばは野生で1000頭程度しかおらず、IUCN(国際自然保護連合)によって絶滅危惧種に指定されていました。毛皮目当ての密猟・乱獲が行われ、同時に都市化が急速に進み生息地が狭められてしまったんです。60年に一度とも言われている、竹が一斉に開花して枯れてしまう現象でエサ不足が重なったことも一因でした。でもその後、パンダの商業取引がワシントン条約で規制されたり、保護研究が進んだりして、’15年の中国の発表では、野生のパンダは1864頭に増加。’16年には危機レベルが一段階引き下げられました。
Oggi それは少し安心ですね。野生以外も結構いるんですか?
中川 中国本土で600頭以上、それ以外の22の国と地域で、80頭以上のパンダが飼育されています。そのうち日本は3動物園で13頭。2ヶ所以上でパンダに会える国は日本とアメリカだけです。
Oggi パンダ愛が強い! 日本に初めてパンダが来たのは…?
中川 ’72年、日中国交正常化の記念としてカンカン、ランランがやってきたのが最初。それから約50年、新たなパンダがやってきたり、赤ちゃんが生まれたりするたびにパンダブームが起こっています。手厚く迎え入れられているのはほかの国でも同じですが、中国は世界各国との友好関係をアピールするために、パンダを送り出しているようにも見えます。〝パンダ外交〟という言葉もあるぐらいです。
Oggi 上野動物園で4年前に生まれたシャンシャンが、昨年中国に行くはずだったと聞きました。
中川 今、日本にいるパンダはすべて、保護研究のために中国から借りているものなんです。日本で生まれたパンダも、両親が〝中国籍〟であれば、中国からの貸与という扱い。より相性のよい繁殖相手と出会えるように、飼育数の多い中国へ行きます。繁殖できる年齢… メスで4歳前後、オスで6歳前後になるまでに、中国に行くケースが多いですね。
Oggi そういうことですか。
中川 でもシャンシャンは、コロナの影響で、今も日本にいます。今年12月末までの期限延長ですが、状況次第ですね。神戸市立王子動物園のタンタンも昨年7月15日期限で中国へ帰る予定でしたが延期に。パンダの年齢のおよそ3倍が人間の年齢に相当するので、現在26歳のタンタンは人間でいうと70代。中国では高齢パンダのケアが充実している施設に行く予定でしたが、コロナ禍で渡航が延びている間に心臓疾患が発覚して。
Oggi 心配ですね… いずれにせよ快方に向かうといいんですが。
中川 ’80年代初頭までパンダは無償でプレゼントされていて、最期まで日本にいたんですが。中国がワシントン条約に加盟し、パンダについて規制の分類が変わった’84年以降は、世界各国に貸与するというスタイルに変わりました。
Oggi 下世話な話ですが、お金もかかるんですよね…?
中川 上野動物園の場合は現在、所管する東京都が非公表としていますが、’11年に2頭来園してからしばらくは保護研究費として年間95万ドルを中国に払っていました。
Oggi えーと… 約1億円!?
中川 安くはないですが、そのお金が保護研究にあてられて、実際に絶滅の危機から脱したことを考えれば、高くはないのでは。それに、パンダの公開による経済効果は、1億円をはるかに上回るんです。シャンシャンが生まれたときはお披露目から1年間で、東京都内に約267億4736万円の経済効果があるという推計が発表されました(関西大学・宮本勝浩名誉教授による試算)。今回の双子もお披露目されたら、入園料やパンダグッズなどの売り上げがまた増加するでしょう。
Oggi 経済とも結びついているんですね。奥が深い!
中川 近年、野生の頭数を把握するために、パンダの顔認証技術が開発された、なんて科学技術の進歩もあります。もちろん、今までどおり、かわいい姿にも癒され続けてくださいね!
日本でパンダに会える動物園はこちら!
1|上野動物園
6月に双子の赤ちゃんが誕生! 人気者シャンシャンは年末までに中国へ。
▲写真提供/(公財)東京動物園協会
約50年のパンダの飼育実績を誇る。昨年には新パンダ舎もオープン。現在は’11年に来園した、ともに16歳のリーリーとシンシン、2頭の間に生まれた4歳のシャンシャンと、今年生まれた双子(写真は生後38日撮影)の5頭が暮らす。双子のお披露目日程は未定。
2|アドベンチャーワールド
和歌山に暮らす7頭のファミリー。中国以外で世界最多の繁殖実績
▲写真提供/アドベンチャーワールド
’94年に本格的な飼育を始め、これまでに17頭の赤ちゃんが生まれ育っている。そのうち16頭が、現在29歳のオス・永明(えいめい)の子。永明は飼育下で世界最高齢で自然交配したパンダ。写真は21歳のメス・良浜(らうひん)と、昨年11月に生まれた楓浜(生後266日撮影)。
3|神戸市立王子動物園
神戸のお嬢さま〟と呼ばれているタンタンは26歳に
▲写真提供/神戸市立王子動物園
小柄で足が短くおっとりとしたメス、タンタンが暮らしている。’00年に阪神・淡路大震災復興の象徴として来園。同時に来日したコウコウはタンタンとの繁殖が難しく帰国、入れ替わりで来た2代目コウコウと人工授精するも赤ちゃんが死亡。コウコウも’10年没。
国と国の架け橋として、現在は世界22の国と地域で飼育中
パンダで外国との関係を深める〝パンダ外交〟。共産圏のみにパンダを贈っていた東西冷戦時代を経て、’72年の米ニクソン大統領(当時)訪中を機に、中国は西側諸国にパンダを贈るように(動物商から入手した英国を除く)。台湾は中国との緊張関係を理由に、パンダの受け入れを断った過去も。’13年の習 近平国家主席の就任以降は、ヨーロッパやアジアへの貸与が急増。写真は’17年にドイツ・メルケル首相と歓談する習主席。
パンダについて覚えておきたい、4つのキーワード
1|ハズバンダリートレーニング
▲写真提供/神戸市立王子動物園
動物の健康な飼育と人間の安全な作業のため、動物に自発的な行動を取らせるための訓練のこと。たとえば、「ケージの窓から前足を出してバーを握るとエサがもらえる」ことを繰り返して覚えると、採血や血圧測定もスムーズに。パンダ以外のほかの動物でも取り入れられている手法。
2|ワシントン条約
正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。保護が必要だと考えられる動植物を絶滅の恐れのレベルに応じて分類し、商業目的の国際取引を規制。日本は’80年に締結、現在は182ヶ国とEUが加入している。英語の頭文字から「CITES(サイテス)」とも呼ぶ。
3|経済効果
関西大学・宮本勝浩名誉教授は、パンダの観覧入園者が直接払う入園料、おみやげ代などのほか、それらの原材料の売上増加、それに伴う従業員の所得や消費の増加も含めて試算。コロナ禍が落ち着けば、上野の双子パンダによる東京都内の経済効果は、1年で約308億589万円になるとも。
4|パンダグッズ
※表紙は変更となる場合もあります。
上野動物園・シャンシャンの誕生時には、生後数日の姿を模したぬいぐるみが大人気に。毎日上野動物園で撮影を行い、ブログ「毎日パンダ」でも人気の写真家・高氏貴博さんによる『なんてったってシャンシャン! 2022カレンダー』(小学館)には秘蔵写真も多数掲載。2021年11月25日発売。
※掲載している情報は2021年9月10日現在のものです。
2021年Oggi11月号「Oggi大学」より
イラスト/八重樫王明 構成/酒井亜希子(スタッフ・オン)
再構成/Oggi.jp編集部