そこに悪気はあるのか、ないのか…。マウンティングを上手にかわす方法とは?
職場やプライベートの人間関係で横行するマウンティング。自意識や承認欲求が渦巻く人間関係において、ストレスを溜め込まず、健やかにいるために読みたい本って?
優劣の意識がないゴリラに生き方を学ぶ
『「サル化」する人間社会』
マウンティングは、もともと動物の習性を表す言葉だ。代表的な例は、サルがほかのサルの尻に乗って交尾の姿勢をとり、自分の優位を示すこと。サルは序列を決めて「下」の個体が「上」の個体に従順になることで争いを避ける。しかし、平等を理想とする社会で生きる人間は、他人のつくった序列で勝手に「下」に組み込まれたら、当然いい気持ちはしない。どうしたら上手にかわせるのか? 山極寿一の『「サル化」する人間社会』は、意外な視点からヒントを与えてくれる一冊だ。
ゴリラ研究の第一人者である山極さんによれば、ゴリラにはサルと同じくマウンティングする習性があるのに、優劣の意識がないという。なぜか。本書ではその生態を詳しく解説する。ゴリラは共感能力が高く、相手と状況に応じて行動を選ぶ。異種である人間のこともむやみに攻撃しない。オスがメスに交尾を強要することもない。ケンカして仲直りするときは、じっと相手の目をのぞき込む。そんな平和で魅力的なゴリラの世界について知るうちに、人間社会のマウンティングのバカバカしさに気づくはず。
『「サル化」する人間社会』(集英社インターナショナル)
著/山極寿一
著者は京都大学総長。自らが長年のゴリラ研究で得た知見をもとに、サルのように個人主義と序列化が進む人間社会の行く末に警鐘を鳴らす。映画『愛は霧のかなたに』の主人公のモデルとして有名な女性生物学者、ダイアン・フォッシーのエピソードも興味深い。
自分の「好き」を貫く女性たちの恋バナ
『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』
恋バナでマウントをとられたことがある人には、お金から美容まで女性の本音を紹介するオタク女子集団「劇団雌猫」の『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』をおすすめしたい。芸能人や2次元のキャラクターに夢中で「モテない」「恋愛に興味がない」イメージをもたれがちなオタク女性たちが、リアルな恋愛事情を打ち明ける。
なかでもいいのは「オタ友と同居している女」という話だ。語り手のサモエドさんは32歳。漫画が好きなことがきっかけで仲よくなった幼なじみと同居して5年になるという。ジャニーズ、アニメ、2・5次元舞台とハマるジャンルは移り変わってもずっとオタク。
ラブストーリーは大好きだが、現実の恋愛は面倒くさいし、萌えないから興味がもてない。普通に結婚や出産を経験している同級生の噂を聞いてびびりつつも、同居人と推しについて語り合う暮らしは楽しそうで、こんな幸せもありうると思える。固定観念に縛られず「私は私」と自分を肯定することができたら、マウンティングされても落ち込まずにすむ。
『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』(双葉社)
著/劇団雌猫
恋に落ちる相手は、自分の身近にいる異性とは限らない。初めてつきあった相手とネット上でしか会ったことがない女性や、プロスポーツ選手と結婚して新聞記事にもなった「一般女性」など、26歳から41歳まで15人の女性の赤裸々な恋愛体験談を収録。
2020年Oggi 2月号「『女』を読む」より
撮影/よねくらりょう 構成/宮田典子(HATSU)
再構成/Oggi.jp編集部
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石井千湖
いしい・ちこ/書評家。大学卒業後、約8年間の書店勤務を経て、現在は新聞や雑誌で主に小説を紹介している。著書に『文豪たちの友情』、共著に『世界の8大文学賞』『きっとあなたは、あの本が好き。』がある(すべて立東舎)。